7話 まかない
「さあ、夕ごはんの時間よ」
午後の草刈りをなんとか終え、またヘリンが迎えにきた。
私は期待していた”まかない“が食べられなかったのと午後の草刈りでヘトヘトだった。
「手は食堂で洗いなさい。また迷子になられても困るからね」
「ん」
ヘリンについて行くと他のメイドや執事がこぞって席についていた。
食堂に入った瞬間、美味しそうな小麦の匂いが充満していることに気付く。
テーブルにはパンと色鮮やかな野菜がたくさん入ったサラダ。スープが大きい鍋ごと置いてある。
食堂内にある流し台で急いで手を洗ってヘリンの横に座る。すると皆が一斉に食事に手をつけ始めた。
「さ、私達も食べましょ」
ヘリンがかごに入ったパンを取ったので、私も真似して1つ取る。
パンは綺麗なきつね色で、まだほんのり温かい。
一口食べると甘いバターと小麦の匂いが口いっぱいに広がった。
なんだこれは...!?美味しすぎる。間違いなく今まで食べたパンの中で歴代1位だ。
気付くと私は無我夢中でパンにかぶりついていた。
「うぐっ...ぅ」
やばい。勢いよく食べすぎて喉に詰まった...
「ちょっと!あんた大丈夫?今スープついできてあげるからそれ飲みなさいよ」
そういうとヘリンが大鍋のスープを器に入れて持ってきてくれた。
スープを一気に喉に流し込む。ごくっ...ごくっ...
「ぷはっ...ふぅ。大丈夫」
「ゆっくり食べなさいよ。誰も取らないんだから」
「うん...ねえヘリン、これ何が入ってるの?」
「このトマトスープ?玉ねぎときのこと...人参ね。美味しいでしょ?料理長のライアンが作ったのよ。まあ、これはまかないだから貴族はもっと美味しい物を食べてるでしょうけど」
玉ねぎ...この透明でシャキシャキしたやつかな?きのこはこの不思議な形をしたやつで...人参がこの赤いやつ?それにしても食感が好きな物ばかりだ。トマトの酸味も効いていて疲れていた身体に染み渡る。
なんだか温かくて安心する味だ。
私はスープを全部飲み干すと今度は大皿に乗ったサラダを自分の皿に取り分けた。
きっとこれも他の料理同様美味しいのだろう。期待に胸を膨らませ、サラダを1口、口に運んだ。
ぱくっ
「.......」
その瞬間、口の中に広がるとてつもない苦味。
冷や汗がにじみ出た。本能が危険信号を出している。
サラダを食べたフォークを口に入れたまま、数秒の間思考が停止した。
え...なにこれ...めちゃくちゃ不味い...?
「ちょっと、これ食べないなら私が貰うわよ」
横で見ていたヘリンが不思議そうに私を見つめる。
サラダをヘリンに渡し、口の中にあったサラダを残りのパンと一緒に一気に飲み込んだ。
私はその時、生まれて初めて”食べ物”を残した。