42話 前女王メアリー
「突然現れてシウォンを皇帝にする?はっ...いくら冗談でも良くない考えです。こいつはろくに国政に関わっていないし、人脈もありません。貴族達もいきなり現れたこいつを受け入れられないでしょう」
「では、誰にすると言うのだ?」
慌てるジークの説得に皇帝は静かに聞き返した。
「!もちろんこの俺です。俺は今までいくつもの国を略奪し、統制してきました。俺のやり方ならこのまま、東部の国全て支配することが出来ます!」
「暴力と破壊でか?」
「えっ...ええ。だって、今までもそうしてきましたから」
ジークは悪びれもせずに言った。
きっと今まで、何人もの人々の平和を奪ってきたのだろう。
そしてその倫理的な心は長い戦いの中で失ってしまったようだった。
「メアリーが死んでからのお前は暴力と破壊でしか他人との距離を測れなくなってしまったようだな...」
「!陛下!そうだ、この女が月石を扱えるようです。今すぐにでも母上をこの世に蘇らせれば...父上も会いたいでしょ?」
「ジーク」
「母上もまた父上に会いたがっているはずです!また3人で一緒に話せたら...そこからまた俺の人生が始まるんです!!だから...」
あれだけ威圧的だったジークが一変して、普通の話し方で明るく理想を語る。
その姿はまるで親に認められたい、精一杯自己主張する幼い子供のようだった。
「ジーク、もうよい」
「...何がですか?」
「もうよいのじゃ...」
「何が?何がもういいんですか...?何も良かったことなんてありません!」
ジークは半泣きだった。
「メアリーが幼いお前を残して死んだ時、わしはお前がこの先どれだけ悪さをしても責めないと誓った。だから今までシウォンのことも女王のことも全て目をつぶってきた」
「!」
「甘やかし過ぎた...今までお前を責めることが出来なかったそのツケが今、回ってきた。よって今日、支払うことにしたのじゃ」
「待ってください!父上は本当に母上に会いたくないのですか?」
「どのみちメアリーを甦らせることは出来ん」
「なんだって?どういう...」
「申し上げにくいのですがジーク様...」
2人の会話にドリーが口を挟んだ。
「聖女の力を持ってしてでも甦らせることは出来ません。なぜなら、聖女の蘇生は死後1時間前後の魂しか呼び戻せないからです。つまりメアリー様は、もう...」
「そんな...!?嘘だ!!!」
「残念ながら嘘では...」
「ああ、だからもう”よい”のじゃ。連れて行け」
皇帝の合図で、一斉に武装した騎士がジークを取り囲む。
「おい...!?なんだお前ら!俺に触るな!!」
そのまま、ジークは何人もの騎士に取り押さえられた。
「父上!やめさせてください!!俺は悪くない!何処に連れていくつもりですか!?」
ジークは半狂乱になりながら泣いて暴れた。
それでも皇帝は少しも感情が揺らいで見えない。
「然るべきところだ。さらばだ、我が息子よ」
「父上!父上!離して!!」
騎士達はジークの腕をがっつり掴んだまま、歩き出した。叫び声はどんどん小さくなってそして、次第に聞こえなくなった。
「シウォン、スワム、本当に今まですまなかった。今日までお前達にこんな役目を引き受けて貰って申し訳ないと思っている...」
「何を今更。私は力を貸したかったから貸しただけです」
「僕もです陛下。あの...兄上は何処に連れて行かれたのですか?」
「精神病棟だ。これから、長い治療を受けることになるだろう」
ジークは歪んだ思考を治すため精神治療をし、その後然るべき罰を受けることになるらしい。
「ヘンゼル様、ミッジ様、お2人には大変申し訳ないのですが平和協定のことはまだ日を改めてお話したいです。もちろん、前向きに」
「それは...良かった!」
「分かりました。では日を改めてまたお話ください。我々はこれで」
ヘンゼルとミッジは皇帝に挨拶してその場を後にした。
「そして、フィオネだが...」
良かった。とりあえず生死の危機は脱したみたいだ。
ふぅと深呼吸した途端、突然視界が2重になった。
「うっ...」
「フィオネ!どうしたの!!」
シウォンの声がするが、なぜかものすごく遠くから聞こえる感じがする...
それになんか、すごく眠い...
ドサッ
「フィオネ!」
その瞬間、私は安心したのか全身の力が抜け、意識を失った。
あと数話で完結です(^^)
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