35話 もう黙らない
「しかし、ユジ国はトーユ国に守られているようだしな。これでは流石の俺も手を出せない。だから...」
「だから...?」
「あっ...諦めてくれるのですか?」
「ああ」
その場にいる全員が少し、ほっとする。しかしジークが発した次の言葉でその場は凍り付くことになった。
「もう海上貿易うんぬんはどうでもいい。この場で全員殺せばそれで済む話だ」
ジークは突然、自分の腰に差していた剣を鞘から引き抜いた。
その場から悲鳴があがる。
「やめてください兄上!何をするつもりですか!?」
「ふんっ!やはり話すまでもありませんね。この野蛮人が!」
殺気を感じたユジ国とトーユ国の護衛がジークを取り囲んだ。
「ふんっ!やれるならやってみろ!その剣で私に指1本でも触れたら...」
ガキンッ!
「触れたらなんだというのだ?」
3mほど離れた場所に居たジークはいつの間にかミッジの目の前で刃を振るっていた。
「ひぃっ...!」
間一髪で護衛が刃を受け流したが、あと数秒でミッジの顔は真っ二つになっていたかもしれない。
「うおおお!」
「やあああ!」
護衛が勢い良くジークに斬りかかる。しかし軽く躱されてその衝撃が彼に届くことは無かった。
ジークは交わした反動で護衛に蹴りを入れる。
「ぐっ...!うっ!」
「がはっ...!」
ドサッと地面に倒れる2人の護衛を見てミッジは震え上がった。
「ふっ、選りすぐりの護衛兵がこの程度か?」
「兄上!剣をしまって!!」
「お前は黙ってろ!いつも何も出来ないくせにこの俺に指図するな!」
「!何も出来ないくせに?兄上は...そんなんだからいつも嫌われるんだろ」
「なんだと...?」
その瞬間、ジークの気配が変わった。さきほどまでの殺気は本物の殺意になってシウォンに向けられる。
ジークはシウォンの襟を掴んで引っ張る。
「うっ...あ、兄上...!」
「お前は本当に俺の神経を逆撫でするのが上手いな。お望み通り今すぐに殺してやる」
ジークは怒りのまま、シウォンを壁に向かって投げ飛ばした。
バンッ!
「うぐっ...!」
シウォンは扉に身体を打ち付けて部屋の外に放り出された。
吹き抜けになっている廊下の手すりによりかかったままシウォンは動かない。
「終わりだなカス。お前の最後はここからの落下死だ」
ジークがシウォンに向かって剣を振り下ろそうとしたその時、
「やめてください!」
「なんだ...お前は?」
私の身体は咄嗟にシウォンを庇うようにジークの目の前に立ち塞がったのだった。




