2話 パン泥棒犬2
「ジーン!!どこに行ってたんだ!探したんだぞ」
ちなみに私はジーンではないのでぼーっとしていると犬が私の顔を舐めてきた。
「君...まさかジーンを助けてくれたのか?」
「?ああ...この犬...」
「ありがとう。君は救世主だ」
男は私の手を両手で握った。顔は帽子と髭でよく見えなかったがどうやら40代くらいの初老の、あまり悪い感じはしない印象を受けた。
それにしてもこのおじさん、髭は髭でも整えられて嫌悪感がない髭だ。それに着ている服もこの辺のスラムの人間では無い。
なにより”ありがとう”だなんて言って手を握るなんてそんな行動、まだ地獄を見たことがない綺麗な人間がする行動だ。
「あの...おじさんは」
「ああ、すまない。私はカインという。君は?」
「フィオネ」
「そうか。とにかくジーンを助けてくれてありがとう。日中はぐれて探してたんだ。こんなにジーンが懐くなんて君が遊んでくれたんだね?」
遊んでくれたというか遊ばれたというか...
「うん、でもこの犬私のパン食べちゃった」
「そうなのか?こらジーン、ダメじゃないか。そうだお詫びと言ってはなんだが何かお礼がしたい。何か必要な物があれば...」
男はそう言って急に静かになった。
「君...近くに家族はいるのかい?」
「?1人だけど」
「1人?両親はどこかに行ってるのか?」
「家族はいないよ。だいぶ前に死んだの」
「っ!じゃあ1人でこんなところに?決めた。君、フィオネは私の恩人だからね。いい仕事を紹介するよ」
「しごと...」
本当は山盛りのパンが食べたかったが働けばパン以上の物が食べられると言うので仕方なくついて行くことにした。
スラムで仕事を紹介するとしたらクスリの密売人とか臓器売買なんだけどこのおじさん、カインは悪い人に見えなかった。