13話 無学
「静かにしてね」
そう言って幽霊は口を覆っていた手を離した。
ぷはっ
離れた手には体温があった。
目の前には私と同じくらいの歳かそれより下の幼い少年が座っている。
「誰...!?」
私は後ずさりながら必死に声を絞り出した。
「乱暴にしてごめんね。とにかく聞きたいことがあって。僕はシウォン、君は?」
「フィ...オネ」
咄嗟に答えてしまったがこれで良かったのだろうか。というかこの感じ、おそらく普通の人間だ。
足もあるし、体温もあるし、何より私に触れられたのだから実体がある。
「そ、そもそもなんでこんな所に居るの?その...まさか、お化けじゃないよね...だって着てる服もボロボロで顔も真っ青だし...人間だよね?」
「...君は”あいつら”の仲間じゃないんだね」
「あ、あいつら...?」
「それにしてもあのスープはフィオネが作ったの?中々刺激的な味だったよね」
シウォンはすぐ近くにある鍋を指さした。
その瞬間、私は鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。
えっ...待って。まさか、違うよね?
私が見た鍋の中身は何故か空だった。蒸発しきる可能性が無いなら、誰かが捨てるか、もしくは...
誰かが全て飲みきるか、だ。
「あの...まさか、飲んでないよね?」
「?飲んだよ。ご馳走様」
目の前の少年は平然とした顔でそう言った。
そうしてこれから夜明けまで終わらない、フィオネの長い質問タイムが始まるのだった。
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「どうしてもお腹が空いていたんだ。だからご相伴に預かろうと思ってね」
話を聞く限り、シウォンは本当にあのスープを1人で完食したらしい。
「どうしたらあんな味になるの?すごいね」
シウォンはどうやら悪気なく人を傷つけるタイプのようだ。
「塩と砂糖を間違えていたよ。すごく甘かったから。それに具にも火が通って無くて硬かった。そういえばなんでここに持ってきたの?」
「失敗して...隠そうと思ったの。誰も食べられないだろうと思って...」
私は半泣きになりながら答えた。まさかあれを食べるような人間がいるとは思わないだろう。
恥ずかしさで穴があったら今すぐに入りたい。
「瓶にラベルが貼ってあったはずだよ。読まなかったの?」
「ラベルの字?そういえば...でも私、字が読めないから...」
自分で言って少し気分が落ち込んだ。
ヘリンやライアンに教えてもらうことも出来たが、皆忙しそうでなんとなく聞くことが出来なかった。
それに材料の場所は目で見て覚えられたのであまり困ることもなかった。
シウォンはその辺の壁から崩れた破片を取って床に何かを書き始めた。
「これが“塩”、これが”砂糖"」
そこには私がいつも見ているラベルに書いてあった文字と、同じものが刻まれていた。




