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蒸し暑い夕方のキス

「私は、君の事が……好きだ」











  初めて聞くような優しくて、少し震えていて。全てを包み込むような声で、僕は――



「――耳が妊娠するっ!!」




  と叫びながら体勢を起こした。


  いきなりだったからか、先輩の拘束からは簡単に抜けれた。

  現在先輩に馬乗り状態。



「わっ?! ちょ、ちょっと君耳元で叫ばないでくれよ。鼓膜が破れるかと思ったじゃないか」


「あぁっ、すみません」


「そ、それで……話の続きなんだが……その……――」




  先輩の顔を見ると、耳まで真っ赤に染まっていた。

  山に沈みに行く夕陽のせいとかではなく。ただ純粋に恥ずかしさから。


  先輩は口元を手で隠して顔は横を向いていた。

  目線は合わせてくれない。




  え、何この初体験前みたいな先輩の照れ顔は……。




  いや、それよりも。僕のことを好きで居てくれてたのか……。しかも、こんな真剣に……。勇気を振り絞って……。




「私と、つ――」

「――先輩っ!!」




  先輩がその言葉を言う前に僕は言葉を遮るように大きな声を出した。


  先輩が、こんなに勇気を出してくれてるんだ。

  なら僕も勇気を出さないと。男の僕が先に言いたい。




  受け身じゃ、漢として恥ずかしいっ!!



  顔全体に熱が帯びていくのがわかる。





「僕も先輩の事が好きですっ!! 付き合ってください……っ!!」




  捲し立てるように告白する。恥ずかしくて、思わず目を瞑ってしまった。


  ベタな台詞なのは許して欲しい。だっていきなりだし、パッとカッコイイ告白とか思いつくわけがない。







「「………………」」







  そして訪れるしばらくの静寂。




  先輩に僕の心音が聞こえていないか、告白は成功するのか……そんな不安が頭をよぎる。



「……ぷ、あははははっ!」



  静寂を破ったのは、先輩の笑い声だった。

  恥ずかしくて閉じていた瞼をゆっくりと開ける。


  視界に入ってきたのは、満面の笑みで頬が紅く染まっている無邪気な先輩だった。




「せ、先輩……?」




  未だに、僕が先輩の上に馬乗り状態。緊張で全く動くことが出来ない。




「君のそんな顔……照れた顔初めて見た。可愛いな」



「え、今な――んっ?!」



  可愛いと言われて動揺していた僕に追い打ちをかけるように、先輩は上半身を起こして――――












  ――――キスをしてきた。










  先輩の柔らかい唇が僕の唇と重なり合う。

  目を瞑っている先輩の顔は近くで見るとまた一段と綺麗で可愛くて……紅潮した顔が艶かしかった。



  キスに応えるように僕も目を瞑る。










  それから、何秒したかは分からないが。どちらからでもなく、自然と目を開けて唇を離した。





「これが私の答えだよ……」


「え、それってつまり……?」


「あ〜もう乙女に皆まで言わせるなよっ! イエスに決まってるだろう?!」




  その怒った顔が幼い少女を想起させて、愛おしく思った。




  あぁ、先輩と付き合えるなんて夢みたいだな。

  幸せだ。




「あ〜っ! 君、なんだその顔は! 私をバカにしているのか?!」




  先輩に言われて気づいた。僕は今笑っていると言うことに。こんなに笑ったのは久しぶりな気がする。




「無視するなよ! どうなんだ!」



  なんか急にデレデレされて、余計に子供っぽい。

  こんな新しい一面を見られるなんて、嬉しい。





「あはははは――うわっ?!」




  幸せすぎて思わず声に出して笑っていたら先輩がプクーと頬をリスみたいに膨らませて、押し倒してきた。




  今度はさっきと逆で僕が下。先輩に馬乗りされている。




  僕は手をついて上半身だけ起こすと、



「これからよろしくお願いしますね、先輩」



  と言って今度は僕からキスをした。










「ちょっ?! な……し、仕返しかっ!」


「あははは」










  今でこんなに楽しいのに、これから先輩といる時間が増えると思うと幸せ過ぎて、今日で死なないか不安になってきたな。


  これから先輩と一緒に買い物したり、遊園地に行ったり。水族館や映画館なんかでデートしたりして。


  楽しい日々を過ごせると思うと本当に幸せだ。



  先輩とずっと一緒にいたい。



  先輩を幸せに出来るように頑張ろう。

 



 

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