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辺境武官レンリの大戦記 ~彼は皇女を守り、帝国を手に入れることにした~  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第二章 皇女と翼人と

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14話 辺境武官は皇女に異見を唱える

 その場にいた誰もが驚いたように目を見開いた。

 リーファは「蛮族」を滅ぼして、すべての土地に帝国の支配を及ぼすという。


 蛮族というのは帝国の朝廷に従わない人々の総称だ。


 帝国にとって、天から命を受けて、地上を支配する権利をもつのは皇帝のみだった。

 だから、帝国は他の国の存在を認めていない。


 そうはいっても、帝国の威令が全世界に届いているかといえば、それは違う。

 「翼人」をはじめとする北方の人々だけではなく、南方と西方にも異なる民族は住んでいるし、東方の島にも強大な国がある。


 そうした人々のなかには帝国に服従する者もいるが、時として帝国の内地を襲う脅威ともなった。


 レンリは一歩進み出て、リーファの黒い目を見つめた。


「恐れながら、殿下のおっしゃる理想は実現不可能です」


 レンリの断言に、ディルクやサーシャが顔を青くしていた。

 皇女が語った夢をレンリは真っ向から否定したのだ。


 さっき皇女の言葉を否定したときと違って、今度こそ皇女の機嫌を損ねてもおかしくない。


 だが、レンリはどのみち左遷された身であり、皇女の不興を買っても、大きな痛手ではない。

 セレカの教え子だというこの皇女が、レンリの言葉に怒り狂うのであれば、この皇女もその程度の人間ということだ。

 英邁だというレンリの評価は誤っていることになる。


 静かにリーファはレンリに問いかけた。


「それは私のような無力な少女には不可能だという意味ですか?」


「いいえ、たとえ古の名君・文王のような優れた人物でも不可能でしょう」


「それはどうして?」


「地の果てには終わりがないからです。たとえ、北辺の地に住む翼人を滅ぼしても、新たな『蛮族』がさらに北からやってくるでしょう。かつての偉大な皇帝たちは幾度も遠征で大戦果を挙げて北方や西方の土地を手にしましたが、そのほとんどは帝国の手からこぼれ落ちていきました」


「誰も実現できていないからこそ、やる意味があると思いませんか?」


「僭越ながら、私はもっと意義のある行いを存じています」


「へえ」


 リーファは目を見開いた。

 何をレンリが言おうとしているのか、楽しみにするかのように。


「かつて聖賢シレンは言いました。『たとえ九夷四蛮の未開の地と言えども、そこに聖人賢者が住むようになれば、それこそが真の文明の地である』と」


「……翼人たちを教化して、蛮族ではなく文明の民として導くべき。レンリさんはそう仰っしゃりたいのですね」


「そのとおりです。翼人たちには彼らなりの事情があるはずです。もし彼らに帝国の民として生きる術を与えれば、共存の道が開かれます。我々辺境の武人は、日々の民の生活を守るため、翼人たちと戦わなければなりません。ですが、殿下におかれましては、より長期的な視点で、政治に携わってほしいのです」


 レンリは言い終わると、リーファの様子を伺った。

 リーファは微笑むと、レンリの手を握った。


 予想外の行為にレンリは驚き、リーファの白い手に目を落とした。


「素晴らしい! あなたはセレカの言っていたとおり、優れた見識を持った方ですね」


「どういうことでしょうか?」


「もし私に追従して、蛮族を全滅させるという話にうなずくのであれば、レンリさんはその程度の人間だと私は見限っていました。ですが、レンリさんは皇女の私に直言し、聖賢の道にかなう答を言ってくれました」


 リーファは弾んだ声で言う。

 つまり、レンリがリーファの人間性を測っていたのと同じように、リーファもレンリのことを見定めようとしていたのだ。


「殿下……私を試すためにわざとそのような話をされたのですか」


「ごめんなさい。レンリさんがどんな人か知りたくて」


 可愛らしくリーファは片目をつぶってみせた。

 その仕草はセレカそっくりで、二人が師弟であることを感じさせた。


「ですが、わたしが英雄になりたいというのは本当ですよ? 蛮族の殲滅と大遠征という方法ではないですが、もっと別の方法で。私はただの皇女として生涯を終え、百年後には忘れ去られるなんて、絶対に嫌です」


 リーファの黒い瞳が鋭く輝いた。

 最初に会ったときに、リーファの瞳には強い意志がこもっているように感じた。

 それは、名前を後世に残したいという思いだったのだろう。

 

 どうして皇女リーファが名声に強くこだわるのかはわからない。

 しかし、レンリの目から見ても、この皇女は凡百の皇族とは違う美徳を持っているように思われた。


 突然、馬がけたたましく鳴きはじめた。

 みな、一斉に平原の先に目を移した。


 遠目に土煙が生じていていて、騎乗の大集団がこちらに来るのがわかった。

 誰もが息を飲んだ。


 それは翼人の襲撃だった。

【作者より】

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