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「あの人は……!」
私は人ごみの中をかき分けながら、数十メートル先の人に向かって走った。十字路を左に曲がったのを確認して私はさらに走るスピードをあげる。
十字路まで走り左に曲がろうとしたとき、なぜか私が追っていた人の姿は忽然と消えていた。
あの人は――私が追いかけているということに気づいていなかったはず……。だったらどうして――。いなくなってしまったの?
周囲を見回すが、それらしい人物はいない。それどころか匂いすらない。
あの匂いは気のせいではない!
間違うはずがないんだ!
私は息を整えながら、忽然と消えてしまった人物を探すために歩きだした。
結局。数時間十字路周辺を探してみたが、手掛かりはなかった。私はすでに遅くなってしまった、駅の受付の女性が予約をしておいてくれた、ホワイトブレスという宿泊所に急いだ。
予定よりも数時間も遅かったからなのか、店主は駅に電話をしたらしい。加えて、あと数時間遅かったら、警察に行くことも考えていたと話していた。
私は平謝りをしてチェックインをした。
店主の奥さんであろう人物が、夕飯を食べたのか聞いてきたので、私は食べていない。と答えると「余り物でよければ」と部屋まで夕飯の残りを持ってきてくれた。
明日、少し多めにチップをあげないといけないだろうと思いながら夕飯を食べ、シャワーを浴びた。
真っ白で清潔なシーツの上で寝転がった。
「あれは――やっぱ気のせいだったのかな――」
大の字になり天井に向かって呟いた。
もう五年も前になることが、まだ心のどこかに引っかかっているようだった。
私は上半身を起こし冊子広げた。
冊子によれば、私があの人を見失った交差点から、左には特に飲食店の類も、住民が住むようなアパートもはないように思えた。
まあ無料の冊子に乗っている地図だから、細かいことは書いていないかもしれないけど……。
私は明日乗るべき列車の切符を見て思った。列車に乗る時間は午前八時半。明日少し早めに起きて歩いてみよう。
夜見たのと朝見るのできっと違うこともあるかもしれない。
一縷の望みを託しながら、ベッドに入った。