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ふわりと印刷した本の匂いがしてくる。話声も少なく、老若男女問わず一人一人が真剣に本を選んだり読んだりしている。居心地の良さそうな書店だと思った。
エバは書店に入るや否いや、さっそく出入り口付近の『今売れてます』と書かれている『鴉の鳴き声』という小説に手を取っていた。
「ねえリイサさん?」
エバは物欲しげな顔で私に尋ねてくる。
「何冊まで買っていい?」
「何冊でもいいわよ。そのためにしっかりお金を持って来たんだから」
私はニンと微笑む。
するとエバは手に取った小説を持ち、店内を物色し始めた。
一階は主に小説を売っているようだった。ミステリーに文学、娯楽小説に、少年少女向けのもの……。様々なジャンルが揃っているようだ。
何か買おうかな。
背表紙に書かれてあるタイトルが気になり思わず手に取ろうとする。
いや、よく考えたら荷物になるし、今日は止めておこう……。
そういえばエバはどんなのが好きなんだろ。
「イブ、どこ行ったんだろ?」
私は広い書店内を歩いてみることにした。