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五年前のあの日、夏にも関わらず、寒さを感じるくらいだった。秋を通り過ぎ冬が訪れたのではないかと勘違いするほどだ。
一日中雨が降り、私は買い物に出かけられなかった事を嘆いていた。彼は自室で締め切り間際の雑誌の記事を執筆していた。
私はいつものように掃除と洗濯をし、朝昼晩と三回の食事と、彼のために数時間に一度お茶を用意した。
そして一日が終わろうとしていたとき彼は書きかけの記事を残し、私に出かけることを告げ出ていった。
彼はそれ以来家に帰ってくることはなかった。
私は思う。
雑誌の先生が十七歳の女の子に助言をしたように私も彼に告白をしていたら、少しは変わっていたのだろうか……。それともやはり告白をしても何も変わらなかったのか……と。
いずれにしろ、私は今でも大きな後悔として残っている。