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彼と出会ったのは約十年ほど前だ。
表向き育児施設と謳っていた『天使たちの遊び場』から救い出してくれたのが、彼ともう一人の少年だ。彼はまだ十代の後半で少年の方は十代前半だった。
彼は精悍な顔立ちに長い黒髪。だがどこか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。
一方で少年は銀髪で目つきの鋭い年齢以上に、大人びた印象だったのを覚えている。妖精と魔族のハーフの私は年齢では確実に私のほうが上だが、外見的容姿は私のほうがはるかに幼いだろう。
私を助け出してくれた後、少年すぐにいなくなってしまった。しかし身も心も傷だらけだった私を看病し精神的に立ち直らせてくれたのが彼だった。
彼の仕事は文筆家という仕事だ。基本的に家にいるのだが、外にも頻繁に出かけていた。私の看病をしていたときは、おそらく仕事をセーブしていたのだろう。あまり外に仕事に行ったのは記憶にない。
だが――人を信用できなかった私は拾われてきた野良猫のように、彼に反発をした。罵詈雑言は当たり前で食事の拒否。夜は台所にある刃物で寝込みを襲うことも多々あった。
しかし彼は毎日三回の食事とおやつを用意してくれる。罵詈雑言は全て聞き流し、私が寝込みを襲っても、次の日は何事もなかったかのように接してくれた。
彼はあまりしゃべる方ではなかったが、その都度その都度で私に話しかけてくれた。それに私の過去聞いてくることもなかった。
少しずつ彼との生活にも慣れ、彼が敵ではないことが理解できるようになってきていた。