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やってきた馬車は誰も載っていなかった。
私とイブは馬車に乗り申し訳程度に作られてある段差に座った、
整備されていない土の上を走る馬車の乗り心地は、鉄道より段違いに悪い。長時間座っているとお尻が痛くなってしまうだろう。膝を抱えてどんよりと暗い表情をしているイブに話しかける。
「どこか調子悪いの?」
私の昔の話を聞いたときからどこか暗い。イブはぶんぶんと頭を振る。
「リイサさんは昔つらい経験をしてきたんだなって。それを思い出させちゃうような事をつい聞いちゃって……」
「……。つらい――か……」
私はあの人のとの突然の別れにも憤ったけど、それ以上につらい経験を幾度もしてきた。イブには聞かせたくないこと。イブが知ってはいけないこと。
それに私の記憶にはない私が何をしたのか――。それを思い出したとき私は自分自身を維持できるだろうか。
「ねえ。ここから街まで何分くらいかかる?」
私は業者の人に声をかける。
「大体三十分くらかね」
「ねえイブ。少し昔話をしてあげる。これは私の知り合いの話よ」