38
初老の男性が案内してくれたのは、住宅街の中にひっそりとたたずんでいるようなお店。
一目見ただけでは家なのか店なのか分からないくらいだ。加えてあまり大きい店ではない。きっと観光客が来るようなお店ではないのだろう。
「外観は良いとはいえませんが、料理は絶品ですよ」
初老の男性がドアを開けてくれたので、私は「ありがとうございます」と答えた。まだ十代半ばくらいのウエイトレスが私たち二人を出迎えてくれた。
「今日は大丈夫かな」
初老の男性がウエイトレスに尋ねると「大丈夫です」と答え席まで案内してくれた。
「今日は大丈夫だったようですね」
初老の男性が席にすわるなり言った。
「今日は? どういう意味ですか」
「このお店は予約しておかないと店に入れさせてくれないのですが……」ちょっと小声になり続ける。「ここの店の御家族とは古い付き合いでして、予約がない場合に限り優遇してくれるんです」
「なるほど。そういうことだったんですね」
料理屋にしては狭い店内はそれでも数人のお客がいた。
「ここのお店にきたら頼むものは決まっているのですが、どうしますか」
「じゃあ私も同じものでお願いします」
初老の男性は手を挙げると、先ほどのウエイトレスが注文を取りにきた。初老の男性は。「いつもの二つ」と注文をすると、ウエイトレスはすぐに厨房の方へと向かった。
「ここの店は御家族三人で営業しているんです。先ほど注文を取りにきた子がオーナーの娘。オーナーとオーナーの奥さんは厨房で料理を作っています」
「偉いですね。ちゃんとお店の手伝いをしていて」
オーナーの娘のウエイトレスはてきぱきと店内の仕事をしている。
「本当にしっかりした子です。さて少し私自身の話をしましょう。博物館であなたがおっしゃった通り、
私は竜人です。名前をはアドリアーノ = バルディーニと申します。そして――このメモ帳を書いた作者です」
アドリアーノ は博物館で見せた一冊のメモ帳を再び取り出した。