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「失礼ですがお仕事は何をしているんですか」
「まだお若いのに素敵なお仕事をなさっているのね」
若い? ああ、人間から見れば私はまだ十代の半ばから後半くらいに見えるんだよね……。
「でも、この仕事が原因で彼氏にはフラれてしまいましたけどね……」
私は苦笑しながら返答した。
「そうなんですか。でもまだお若いんだからきっとすぐに良い人が現れると思いますわ」
「だといいんですけどね……」
列車のスピードは少しずつ減速いていき、ハインツブルグへと到着するアナウンスが流れる。
ハインツブルグ駅に到着し、列車が停車すると女の子は勢いよく立ち上がった。
「バイバイ。お姉ちゃん」
「うん。バイバイ」
「旅の安全をお祈りしておりますわ」
女の子の母親は軽く微笑しながら会釈し、「ありがとうございます」と私も笑顔で返した。
女の子の母親は女の子の手を繋いで列車を降りていった。
十秒ほどたっただろうか。
「お姉ちゃん!」
息を切らしながら、列車に向かって走ってきた。私は思わず席を立ち、扉近くまで女の子を中腰になって出迎えた。
「どうしたの?」
「これあげる」
女の子はスカートのポケットから取り出したのは、女の子が右の前髪につけている黄色のあひるのヘアピンだった。
「つけてくれると嬉しいな」
私は女の子の小さな手のひらにのせられているアヒルのヘアピンを、長い前髪を少しまとめ女の子前髪と同じところにつけた。
「どうかな?」
「すごくかわいい! それとねお姉ちゃんのお名前聞いていなかったの。わたしは、マリアンネ・アイヒベルガーよ」
「リイサ・アーツハルド。私の名前よ。宜しくね」
駅員が列車の出発を叫ぶ。
「また今度一緒に遊びましょう、マリアンネ」
「うん!」
女の子は再び走り去っていった。立ち上がると女の子の走りゆく先には、先ほどまで一緒だった女の子の母親がこちらを見ていた。軽く会釈すると向こうも気づいたのか、会釈を返してくれた。