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私は予約をしてくれたホテルの自室で頭を抱えていた。本屋でミッドランドシティの地図とガイドブックを買い込んだ後、地名が変更された場所を調べるためだ。
よく考えれば私はミッドランドシティに来たのは初めてで、ミッドランドシティのどこの地名を変更したのかを聞いていなかったのだ。
自分のあまりの馬鹿さ加減に泣きたくなってくる……。こういう周りを見なくなってしまうところ直さないといけないよなぁ……。
そういえば、あの人にも良く言われてたよなあ……。
だが――あの時クレージュで見たあの人の後ろ姿――歩き方。体形。そして髪型。五年も一緒にいたんだから間違いないはずだ。それにあの人の独特の匂いも感じ取れた。
でも――私があの交差点についた時にはあの人の姿がないばかりか、匂いも脱臭されていた。周囲に人間が多かったし、料理店も多かったからだろうか。まるで意図的なほどに――。でも匂いを消すなんて魔族でもできないのに人間ができるの? それにあの人が私から逃げる理由は?
考えても考えても分からないことばかりだ。
私は大きくため息をついた。
「とにかく、明日ミッドランドシティを歩かないと。どこに行くかを決めなきゃ」
椅子に座り勝ってきた地図を広げ、私はミッドランドシティ周辺から北に南に視線を走らせていった。
「あった。まずは市役所っと」
私はそばに置いてあった赤ペンで市役所に〇をつける。次は「あったあった。市役所から少し離れてるなあ。まあ仕方ない」
図書館に〇をつけた。
「後はどこだろ。ミッドランドシティの歴史が分かるところというと……」
何冊か買い込んだガイドブックを広げ、ペラペラとページをめくる。
「美術館があるのね。後は歴史民俗資料館。なるほどなるほど」
手帳に美術館と歴史民俗資料館の住所を調べ、地図に〇をつけていく。他にも博物館や旧跡や教会など多数あった。
地図に丸をつけたのは計二十五か所。
「一日で回るのは無理ね……。でもこれだけあれば資料集めは大丈夫でしょ」
明日やることと道筋が決まったところで、再び私の胃が反乱を起こし始めた。どうやら先ほど食べたホタテでは満足していないらしい。これはしっかりと食べないといけない。
視線を窓の外に移すとオレンジ色の太陽が海に沈んでいる最中だった。海辺にいる人たちもまばらになっている。
私は椅子から立ち上がり、軽い身支度をして部屋を出た。