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私の視線に気づいたのか、浅黒く日焼けした肌に白い歯が目立つ、主人が私に対して声をかけきた。
「どうだいお嬢ちゃん。旨そうだろ。食ってみるかい?」
出店の主人に近づき、串につけらえた大きくて白くて丸い海産物のようなものを渡された。大きくて白くて丸い海産物のようなものに黒い液体がついているのが、先ほどの調味料なのだろう。香ばしい匂いが私の食欲に拍車をかける。私は一口かじりついた。
表面は柔らかいのに、歯ごたえがある。焼き加減も絶妙だ。そしてこの黒い液体が海産物と絶妙なハーモニーを作り出している。中身は表面と違いしっとりとしているにも関わらず、噛むとシャクシャクした音を出す。
「なにこれ!? すごい美味い!」
「これはホタテっていう貝なんだ。ミッドランドシティじゃメジャーな海産物さ」
店の主人は得意げに言う。あっという間に串についていた三つのホタテを平らげた、私は後三本頂戴と主人に頼んだ。
「毎度あり!」
主人は嬉しそうに、側の海水に浸ってあるケースから九つのホタテを取り出す。そしてホタテについている貝を取り網の上で焼き始めた。
「そうだ、ねえカルツォン城跡って知ってる?」
私は火加減を調節している主人に問いかけた。
「んん? んー。聞いたことねえな」
「じゃあラウラ旧市庁舎前、エッセル教会は?」
「知らんな。そこはミッドランドシティにあるんかい」
「そう、らしいんだけど……」
「俺もミッドランドシティは長いが、聞いたことないな」
「そっかー……」
「いや……。ちょっと待てよ、ああそうだ。数十年前、ミッドランドシティは三つの周辺市が統合されたんだ。それでいくつか地名そのものが変わったっていうところもあった」
地名が変わる。そういうことか! だったらエーギンハルトの言っていたことが嘘ではなく間違いだったことが分かる。
「おじさんありがとう!」
私は踵を返し走り出した。
「おい! 嬢ちゃん。ホタテ三つ忘れてるよ」