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長期滞在が可能な宿は全部で十五件だった。正直泊まるところはどこでもよかったが、この際できる限り予算範囲内で良いところに決めた。
宿泊期間はとりあえず二週間。
少しでも海水浴気分を浴びたいから、海岸に近い三階建てのホテル。一泊一万五千リラ。二週間で二十一万リラだ。
加えて食費や雑費などを加えると三十は超えるだろう。だが、エーギンハルトからは一千万リラをもらっていることを考えれば、蚊に刺された程度の出費に間違いない。
私はパンフレットやチラシを全部もらい、お客様相談内室から出た。
とにかく色々なもの現地で調達しないといけない。
観光地巡りの簡単な仕事だと思っていたのが大きな間違いだった。おそらく、残りに二か所も一筋縄ではいかないだろう。
私は急ぎ駅から出て商店街の方へ向かった。
街中は非常に賑わっていた。
あちらこちらに出店があり、まるでお祭りでもするのかという賑わいだった。多くの出店はまだ準備中だったが、観光客を狙った出店の主人が大きな声で客たちを呼び寄せていた。
まずは本屋を探そう。できる限り大きい地図と観光案内の本を買いあさらないといけない。その次は生活用具一式。後は服だけど、明日以降で買えばいいだろう。
いい匂い!
どこか香ばしいあまり嗅いだことのにない匂いが私の鼻を刺激してきた。エーギンハルトへの怒りと甘く見ていた自分へのふがいなさで抑えられていた食欲が再び活動し始めた。
鼻孔を刺激する香ばしい刺激によってお昼ご飯を食べていないという私に対して脳と胃の反乱が始まった。
私は匂いの出所を探すため、あちこち見渡した。匂いの発信源は一軒の出店からだった。