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「どうして出版業に乗り出そうとしているの。今のままでも充分じゃない」
「いえ。産業構造が大きく変化しているときだからこそ、新しい事業を開拓するのです」
「……確かにそうかもしれない。仕事内容とどうして私を指名したのか聞かせてもらえるかしら」
エーギンハルトは座っていたソファーから立ち上がった。
「何かお飲みになりますか」
私は「結構」と答えると、エーギンハルトは戸棚から一本のボトルを取り出し「これも我が社が作っているワインなんですよ」とグラスにワインを注いだ。匂いを嗅ぎ、口に含んだ。
「芳醇な香りとまろやかな味。いつ飲んでも素晴らしい。そうそう、リィサ様を選んだ理由と仕事内容でしたな」
エーギンハルトは再びソファーに座り私をじっと見つめた。
「なに」
「似ていますな。やはり」
「どういうこと?」
「あなたの母上にです」
「私の母親――」
「申し訳ありません。また話がそれましたな。年寄りの戯言だと思ってもらってください。」さて、先ほどの理由ですが、まずリィサ様を指名した理由は簡単です」
ソファーの近くにあるブックラックを取り出し、あるページを開き私のほうに向けた。
「この雑誌で連載と小説も何冊か出版していますよね。それでこの雑誌の出版社から連絡先を聞き、依頼したというわけです」
「……それで今回の仕事内容は」
「今回リィサ様に手掛けてほしいのは、数ヶ月後我が社が子会社として出版社を立ち上げます。その際書いて欲しい小説があります」
「小説の依頼……」
ある程度仕事の依頼だから予測はしていたけど……記事の執筆ではなく小説の執筆だったとは。