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私はロミルダの後姿を数秒ほど見続いていた。
少なくとも私の記憶ではロミルダに近い人物は知らない。仮にある程度外見が成長していたと仮定しても、記憶にはない。
やっぱ人違いに違いない……。
私は向き直り、再びドアに手をかけた。
部屋の大きさは私の住むアパートの大きさと大体同じくらい。広さのことを考えるとどちらかと言えば殺風景といってよいだろう。
ガラスでできているテーブルに茶色のソファーが左右に二つずつ。
左右の壁にはびっちりと本が並べてある。机で何か書き物をしているのが、忘れもしないこの屋敷の主人エーギンハルト=アイヒホルンだ。
エーギンハルトは私の姿を確認するとおもむろに立ち上がり「お久しぶりです。エミリア様」とおもむろに頭を下げた。
左目を戦争で亡くした片目の隻眼。軍人で父さんの右腕だった――人物。当時のようなどこかとげとげしさというのは無くなっているように思えた。
それに外見は時が止まったかのように変わっていない。外見だけでは執事長のオットーと変わらないのではないか――。
「二百年前あなたが私たちを裏切って人間側に内応した以来ね、エーギンハルト。それとエミリアという名は捨てたの二度と言わないで。私の名前はリイサ・アーツハルドよ」
「……分かりましたリィサ様。そちらにお座りください」
ソファーに座り、エーギンハルトに問い質す。
「それで今日はどうして私を呼び出したの」
エーギンハルトは私と向かい合うようにソファーに座り口を開いた。
「今後出版産業にも手を出そうと思いまして。是非リィサ様にもお力添えをと」
「出版産業にもってどういうこと。他に何かやっているってこと」
「私は現在このような会社を経営しています」
紺のストライプのジャケットの内ポケットから、名刺入れのようなものを出し一枚私に渡した。そこには『サンズコーポレーション 会長兼相談役 デリック=ヘンリソン』
サンズコーポレーションってこの国の食品や鉄鋼業、薬品産業などの分野でのトップシェアを持っている企業じゃない!
「デリック=ヘンリソンっていうのは……」
「ええ。人間界ではこちらの名前を使っています」