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アンゲルスの屋敷は駅から車でニ十分ほどだった。
屋敷の出入り口には門番が左右に二人立っていて、右側に立っている門番の近くには詰所があり、その中にも二人の門番が待機していた。
私たちの車が通りかかると門番の二人に、詰所の中にいる二人も外に出てきて私たちに向かって敬礼をした。
「執事なのにずいぶん偉いのね」
私は皮肉をこめて言ってやった。
「あれは私ではありません。あなたに対してです」
オットーは私に顔を向けずに答えた。
「どういうこと」
「主の元で働いている者はみんな魔族。あるいは妖精だからですよ。今日あなたがここに来ることはここで働いている従業員みんな知っています」
「……でも私はそんな大したもんじゃ……」
屋敷内の道を私たちの車が通ると、皆手を振ったりしてくれる。私も思わず手を振る。野良仕事をそしている魔族に、牛の世話をしている妖精。魔族の子供と妖精の子供たちが仲良く遊んでいる。もしかしたらここは彼らにとって楽園なのかもしれない。
「あなたがここに来てくださった。という事実が大切なのです」
オットーはなお、まっすぐ無表情のまま私に言う。
「あなたがここに来てくださった。という事実が大切なのです」
「この屋敷では何人くらいがここで働いているの」
「魔族が百二十人に妖精が八十五人です」
「ずいぶんいるのね」
「主人は人間に敗北した先の戦争の孤児や敗残者を労働者として受け入れてきました。ここで働いている魔族や妖精たちは皆主に感謝しております」
償いのつもりなのだろうか。あのとき、いなくなったことの――。
でも!
私がいいかけたときオットーは車を停め、「屋敷に到着致しました」と言った。すると助手席のドアを開き、オットーと同じ格好をした二人の執事と、二人のメイドが私を出迎えてくれた。