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また彼氏に振られた。
窓から見える青々とした広がる小麦畑を見て私はため息をついて呟いた。
右手首に巻いてある銀色の腕時計が太陽光できらりと光る。
出かけるときついしてきちゃったんだよなあ……。
この腕時計もあの人が買ってくれたんだよな。戦場に行く前、彼氏に買ってくれたものだった。
「今回は大丈夫っておもってんだけどなー……」
不器用な人だった……。気がする。半年にも満たないくらいの交際期間だったが、私が彼にもった印象だ。
文筆業ということもあり、比較的男性との接点が多いのは確かだ。
彼は付き合ってから一か月ほどしたとき「あまり他の男とは会わないでほしい」と不機嫌そうに言っていた。
仕事上他の男性と会うのは避けられなかったが、できる限り彼氏以外の男性とは必要以上に会うのを止めた。
だが前彼にとっては多いと感じていたのかもしれなかった。
一か月前、軍人である前彼は深夜、戦場から帰ってくるやいなや私の家やってきた。
そして「今の仕事を辞めるか。それとも俺と別れるか、どちらかだ」と突然選択を迫られた。
「なにがあったの」
彼は私が問い詰めても答えることはなかった。
何回聞いても苦虫を嚙み潰したような表情でだんまりだった彼に業を煮やした私は決別を選択した。
こうして私たちの交際期間はわずか四か月(一か月ほど出兵していたので正確には三か月)で終了した。
鉄道に乗る前に買ったミルクティーに口をつける。ほんの甘いミルクの味覚が口いっぱいに広がり、まるで私を慰めてくれるかのようだった。
二十分ほど鉄道の揺れを感じていると、少しずつ速度が落ちていくのが感じられた。鉄道がゆっくりと止まり駅に到着。
十人以上の客が列車に乗り始めたとき、人ごみの中に一瞬魔族の匂いがした。反射的に私は立ち上がりプラットフォームを確認したが、すでに客たちは列車に乗り終えたときだった。
同時にそれ以来魔族の匂いはしなくなった――。
気のせいだったのだろう。この時代。魔族なんてほとんどいないのだから――。
鉄道の列車の貫通ドアが開き、母親らしい女性と年齢五才くらいの女の子が入ってきた。
母親とどこか旅行にでもいくのであろうか。おめかしをしていて、楽しそうにしている姿はどこか微笑ましい。
女の子は母親らしい女性の手を引っ張り、ボックス席に座っている私のシートの前に立ち止まり「このお姉ちゃん髪が金色」私の髪の毛を指した。
「人を指すんじゃないってあれほど言っているのに、全く……。うちの子が申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。気にしていませんから。あの隣よかったら」
少し自分の体を窓際に寄せると、女の子は私の隣にちょこんと座った。女性は女の子と向かい合うように座った。女の子は不思議そうに私の顔を見ていた。