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レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第5章 リ・チャレンジ

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⑤恐怖

 美容院に向かう電車の中で、美羽はブラホワのベビー服はどれぐらい人気があるのか、スマフォで調べてみた。すると、天使と悪魔シリーズの服を着た赤ちゃん達が、インスタに数えきれないほどアップされていた。

「ようやく、悪魔ガールを手に入れました! 悪魔のしっぽ、かわいい♡」「ふだんは悪ガキだけど、今日は天使ボーイです」というコメントもあり、フォロワーから「いいな、私も予約してるんだけど、3カ月待ちです」「着なくなったら、譲ってください。もちろん、お金は払います!」とコメントがついている。

「こんなに人気があるんだ」

 ――確か、あの時持ってきた服の中に、天使っぽい女の子の服もあったよね。あれを抜いておけばよかった。そしたら、フリマで売れたかもしれない。

 美羽は軽く後悔した。

 ――もう、あの服を着せて外に出るのはやめよ。また、あんな変な人に目をつけられたら困るし。それにしても、昨日のお義母さんとのやりとり、審査には影響しないかな。一応、支援機構に何が起きたのかを伝えといた方がいいかもしれない。私には問題なかったって知っておいてもらわないと、Cランクにされたら……。

「すみません……すみません」

 目の前に立っている人から声をかけられていることに、5回ぐらい呼びかけられて気づいた。見上げると、朝の女性がレンタルベイビーを抱えて立っている。美羽は大きく息を呑んだ。

「あの服、譲ってもらえませんか。代わりに、うちの子が着てる服を差し上げます、ウニクロの服だけど……。ブラホワの服、どうしても欲しいんです。あの服を着せたら、この子をもっと可愛がれると思うんです。まだ可愛がり方が足りないみたいで……。お願いします、協力してください。どうしても合格したいんです」

 女性は瞬きもせず、美羽の顔を凝視しながら、早口でまくしたてる。美羽の背筋に冷たいものが走る。

 ――え、この人、ずっとつけてきたってこと? ずっと私のこと、見張ってたってこと? 何、何、これ?

 隣に座っている中年女性が、美羽とその女性のやり取りを見ながら、不審に感じたらしい。

「あなた、大丈夫?」

 美羽にそっと尋ねたので、美羽は中年女性の顔を見て、首を横に振った。恐怖のあまり、声が出ない。

 その時、電車が駅に着いた。

「降りなさい、早くっ」

 中年女性に肩を叩いて促され、美羽は我に返った。そして、目の前の女性を押しのけて、転がるようにホームに降りた。そこから先は、人込みをかき分けながら猛ダッシュした。

「ちょっと、待って、待ちなさいって」

 女性の声が追いかけてくる。美羽は振り返ることもできず、階段を駆け下り、さらに別のホームに降りる階段を駆け下りて、ちょうど止まっていた電車に飛び乗った。

「ドアが閉まります。ご注意ください」

 アナウンスと同時にドアが閉まる。電車が動き出してから窓の外を見ると、女性が階段を降りきったところだった。姿を見られないよう、美羽はとっさにしゃがんだ。

 ――助かった。

 美羽はそのまましばらく動けなかった。

「あの、大丈夫ですか?」

 近くにいた若い女性二人が美羽の顔を覗きこんだ。美羽は汗と涙と鼻水で顔がグチャグチャになっていたので、「気分が悪いんですか?」と二人組は心配顔になる。

「変な……変な女の人に追いかけられて」

 それ以上、何も言えずに嗚咽を漏らすと、「次の駅で降りて、駅員さんに話したほうがいいんじゃないですか?」と空いていた席に座らせてくれた。

 数分で次の駅に着いたので、美羽は女性達に連れられて電車を降りて、駅員室に向かった。まだしゃくりあげている美羽に代わって、「この方、何か変な人に追いかけられて、怖い思いをしたみたいなんです」と説明してくれた。駅員に引き渡した後、去っていく女性二人に向かって、美羽は何度もお礼を言った。

 駅員は温かいお茶を出してくれた。ようやく美羽は落ち着いて、今朝からの出来事を話すと、警察を呼ぶことになった。

 流にも電話をして事情を話すと、「すぐにそっちに行くから」と言ってくれた。店に電話すると、「分かった。今日はこっちに来なくていいから、落ち着いたら連絡して」と水野が言ってくれた。

 若い警官が2人来て、事情を説明している最中に流が息を切らして駅員室に飛び込んできた。

「美羽、大丈夫か?」

 流の顔を見たら、安堵してまた涙がこみ上げてきた。流は「大変だったね」と頭を撫でてくれる。

 日吉駅に警官と一緒に戻って、監視カメラをチェックすることになった。

「たぶん、この女性じゃないですか?」

 駅員が再生してくれた画像を見ると、人込みの中を駆けていく美羽と、例の女性の姿が映っていた。

「そうです、この人です!」

「この人、前も問題起こしてるんですよ。レンタルベイビーをつれた女性に、あなたは何判定なのか、どうやってAになれるのかって、ずっとつきまとってしつこく聞いたらしくて、その女性が駅員室に駆け込んできたんですよ。その時は、旦那さんに迎えに来てもらったら、レンタルベイビーの育児で精神的にちょっとまいってるんだって言ってましたね。迷惑かけた女性にも謝ってたから、逮捕はされなかったんですけど」

 駅員の説明を聞きながら、警官はスマフォにメモを取っている。

「この人、オレも何回かマンションの近くで見かけたことある。真冬でもコート着てなくて、赤ちゃんと散歩してるから、寒くないのかなって思ったんだよね」

 流が言った。

「でも、この人、一年ぐらい前から赤ちゃんを連れてたみたいだけど……去年の冬にも見かけたような」

「じゃあ、審査にずっと落ちてるってこと?」

「ってことかな」

 美羽と流が話していると、「前回問題を起こしたのも、1年ぐらい前ですよ。その時は、レンタルベイビーの最終審査に落ちそうだって泣いてたから、よく覚えてます」と駅員が言った。

 駅員はその女性の連絡先をデータに残してあったので、警官はそこに行って事情を聴いてみることになった。

「マンションに戻ったら、その人がウロウロしてるかもしれないですよね」

「その可能性はありますね。こちらで安全を確認してから、連絡しましょうか?」

「そうしてもらえますか?」

 流と警官とでやりとりしているのを、美羽は黙って聞いていた。

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