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レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第4章 ペアレンティング・ペンディング
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②どうする、レンタルベイビー

「それでは、質問コーナーに移ります。星川さんに聞いてみたいことがある方、いらっしゃいますか?」

 司会の女性が呼びかけると、パラパラと手が挙がった。

 指された人は、立ち上がって「レンタルベイビーで一番大変だったことは何ですか」「実際の子育てて苦労していることは」などと尋ねる。理央はユーモアを交えながら答えた。

 美羽も、思いきって手を挙げた。

「次は、一番後ろの席に座っている方」

 当てられて、立ち上がる。小さなマイクを渡されて、美羽はドギマギしながら質問した。

「あの、私もレンタルベイビーをしているんですが、2回目が終わったところで2回ともC判定だったんです。それで、その理由が、旦那が何もお世話をしてないからって言われて……。講習会にも行ったし、私からも何度も『そんなんじゃC判定になっちゃうよ』って言っても、それでもおむつを替えないし、離乳食も食べさせようとしないんです。たまに遊んでくれる程度で、『オレはやってる』って胸張ってるし。それで、その……」

 何を聞こうとしたのか分からなくなって、美羽は言葉を切った。

「お気持ち、分かりますよ。私もまさにそんな感じでしたから。で、そんな旦那さんに対して、どうにかして動いてもらいたいって思ってらっしゃるんですよね」

 理央は美羽が何を言おうとしているのか、察してくれたようだ。

「ハイ、そうなんです!」

「どうやって旦那さんを説得すればいいのかってご質問でいいかしら?」

 美羽は大きく頷いた。

「そうですね。今のご質問は、どこの会場でも必ず出るんですね。私は最終的に離婚しちゃいましたが、そんな簡単に別れられるものでもないですし。ましてや、レンタルベイビーでうまくいかなくて離婚っていう理由もねえ、ちょっとまわりに言いづらいじゃないですか」

 かなりの女性が、うんうんと同意している。

「だけどね、私は自分の経験から言えるのは、旦那の本質は変えられないってことなんです。レンタルベイビーで積極的に関わらなかった旦那が、リアルな子育てで積極的になるかって言うと、やっぱり人間の本質はそうそう変わりませんよ。うちのように、しばらくはやってくれるかもしれないけれど、子育てって1年2年の話じゃなく、ずーっと続くじゃないですか、子供が成人するまで。小学校に入るまでだって6年間あるんですよ? で、子育てって基本忍耐が必要だし。協力しない男が、そんなに長い間耐えられるかって言ったら、ムリなんですよ。それは妻がどんなに頑張っても変えられるものじゃない。だから、最初から諦めたほうが楽かもしれません。私は諦めなかったから、リアルな子育てで苦労したんですけれど。で、『この人は何もやってくれないんだ』って考えて、家事ロボットを増やすとか、ベビーシッターや保育園を積極的に利用するとか、ジジババを巻き込むとか、別の方法を考えたほうがいいです、絶対に。期待するから、ダメだった時にガッカリしてストレスがかかるわけで。諦めてたら、ストレスかからないじゃないですか。で、説得しようなんて考えなくて、C判定でもいいから、旦那も協力してくれなくていいから、とにかくレンタルベイビーを乗り切ることが大事なんじゃないですか?」

「ハイ」と、美羽は理央の言葉を噛みしめた。

「とりあえず、しばらくペンディングしてみるのもいいと思います。私は一気に3回レンタルベイビーをやったから追い詰められちゃったけど、ちょっと時間を置いて、お互いに冷静になってからもう一度始めるのもいいと思いますよ」

 美羽は「ありがとうございます」と頭を深々と下げた。

 講演が終わり、会議室から出ると、「あの、さっきの質問、うちもまったく同じだから、共感しました」と一人の女性に声をかけられた。帰る方向が同じなので、二人で話しながら歩いた。

「私は3回目に入ったところなんです。でも、旦那はぜんっぜん協力してくれなくて……A判定でなくてもいいけれど、一回ぐらいはB判定を取りたいじゃないですか。ほんのちょっと協力してくれればいいだけなのに、何回言っても、『俺にはムリ』って言い張るんですよねま。ほんの数分ガマンすればいいだけなのに、なんだろ、この人って。頭悪いなってイライラするようになっちゃって」

「それ……すごく分かります。空に――あ、レンタルベイビーに離乳食をやっとこ食べさせて、ご機嫌になってるからそのままほっといてもいいのに、そういうときはかまってあげるんですよね。で、私が片付けが終わってお風呂に入ろうとすると、『仕事のメール、しなきゃ』とかいなくなっちゃって。私が片づけてる間に、メール送っとけばよかったのに、段取り悪くない? って」

「そうそうそう、そういうの、たくさんある! 私も、この間、洗濯物を畳んでいる時……」

 二人で旦那の悪口を言いながら歩いていると、あっという間に駅に着いた。LINEのアドレスを交換して、「お互い、頑張りましょうね」と声を掛け合って別れた。

 ――どこの家も、旦那問題を抱えてるんだな。

 鬱々としていた気持ちが、ちょっとだけ晴れた気がする。

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