表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第3章 ペアレンティング・クライシス 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/59

⑦思い詰める、思い悩む

 公園の門を出て、せっかくだからマンションの敷地内を散策することにした。空は機嫌がいいらしく、「あー」「ぴうぴう」と声を上げている。

 空は澄み渡り、海風の中にそろそろ秋の気配を感じる。

 ――こんな風に散歩するなんて、何年振りだろう。

 空に「気持ちいいねえ」と声をかけながら、遊歩道をゆっくり歩いた。

 ふと、遊歩道の脇のベンチに先ほどの女性が座っていることに気付いた。女性は疲れきった表情でまゆを抱っこしている。

 気づかないフリをして通り過ぎようかと思ったが、女性が泣きそうな表情をしているので、さすがに気の毒になった。女性がこちらを見たので、美羽は軽く頭を下げた。

「さっきは、どうも」

「ああ……、私、あの人達が苦手で……」

「なんか、レンタルベイビー警察って呼ばれてるらしいですね」

「私も顔を合わせるたびにいろいろ言われました。でも、あの人達の情報ってもう古くなっていることが多くて、あんまり参考にならないんですよね」

 美羽は空を抱き上げると、まゆに向かって、「ホラ、空、お友達だよ」と顔を向けさせた。まゆは眠っているのか、こちらを見ない。

「そういえば、さっきのママ友を3人つくるって話、ホントじゃないみたいですよ」

「そうなんですか? ネットでも、そんなのウソだって言っている人もいれば、ホントかどうか分からないからやってみるって人もいて。どっちの意見を信じればいいのか、分かんなくて」

 女性は唇を噛んで俯いた。

「離乳食、食べました?」

 美羽は女性の隣に腰を掛けて、話題を変えた。

「なんとか。今は、毎日1回は食べてくれるようになって」

「いいなあ。うちも格闘してるんですけれど、まだですよ」

「ベイビーによって、すぐに食べてくれる子もいれば、全然食べない子もいるらしいですよ。設定がバラバラみたいで」

「そうみたいですね。ベイビーを返す前日に、やっと食べた子もいるみたいだし」

「まゆはまだタッチができなくて」

 女性はため息をついた。

「立たないまま終わったら、また不合格になるかも……」

「えっ、そんなことはないんじゃないですか? レンタルベイビーの設定でそうなっているのかもしれないし」

「そうだけど……何度立たせようとしても、転がっちゃって、頭を打ってギャン泣きするし」

「ムリにしなくていいって、講習会で言ってましたけど……」

「そうだけど、やっぱり、ちゃんとできるようになって合格したいじゃないですか。私、次はA取りたいんで」

 ――やっぱり、この人とは、あんまり仲良くしないほうがいいような気がする。

 空はまゆに手を伸ばしたが、女性はそっとまゆを遠ざけた。眠っているのを邪魔されたくないのかもしれない。

「じゃあ、これで」と美羽が立ち上がりかけると、「そういえば、知り合いに公務員か官僚はいます? 政治家とか」と、急に真顔で聞かれた。

 美羽は戸惑いながら、「いえ、いませんけど……」と答える。

「そうですか。お役人や政治家は、あまり泣かないベイビーを借りられるらしいですよ」

「えっ、そうなんですか? そんなの初耳」

「コミュニティで話題になってるんですよ。知り合いの官僚の家のレンタルベイビーは全然泣かなくて、ビックリしたっていう人がいて。特別仕様になってるんじゃないかってみんなで言ってるんです。簡単に合格できるみたいだし。親戚にそういう人がいたら、うちもお願いしようかと思って。今、あちこちで聞いて回ってるんです」

 ――そこまでしなくても、1歳児になったら泣く回数は減るはずなのに。

 美羽は言いかけてやめた。おそらく聞く耳は持たないだろう。

 美羽は空をベビーカーに乗せると、「ごめんなさい、お昼の時間だから、そろそろ帰らないと」と会釈した。

「もし、知り合いでお役人や政治家とつきあいのある人がいたら、紹介してもらえませんか?」

「うーん、私のまわりにそういう人はいないです」

「もしいたら、教えてください。私、3号棟の神田林です」

 ――いやいやいや、私、あなたのこと何も知らないのに、頼まれても困るから。もし知り合いにそういう人がいても、あなたの頼みを伝えたりしないから。

 美羽は何も答えずに、急いでその場を立ち去った。一度だけそっと後ろを振り返ると、その女性はじっとこちらを見ていた。美羽が何号棟に住んでいるのか、チェックしているのかもしれない。美羽はいったんマンションの敷地の外に出ることにした。

 ――イヤ~、怖い怖い。あんな風に追い詰められてる人もいるんだあ。もうあの公園は行かないことにしよ。変なことに巻き込まれそう。

 ふと、美羽は先ほど女性が「また不合格になるかも」と言っていたのを思い出した。

 ――そっか。不合格になったから、焦ってるのか……。かわいそうだけど、関わらないほうがよさそう。

 美羽は30分ほど時間をつぶしてから家に戻った。空は外出している最中は大泣きしなかったが、外にいる時間が長かったせいか、その日の夕方は熱を出して、大騒ぎすることになった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ