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レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第3章 ペアレンティング・クライシス 
22/59

①2回目のチャレンジ、スタート

 0か月の空を返却して一か月後、6か月児のレンタルベイビーが届いた。

 前回と同じ二人の業者が届けてくれて、前回と同じようにベビーベッドを組み立ててくれた。今回は離乳食のセットやベビーチェア、ベビーバギーや抱っこひももセットに入っている。最低5回は外に出かけるよう、講習会で言われている。

「こちら、6か月の男の子でお間違いないですね」

 髪はフサフサと生え、白いベビー服から出ている腕や足は丸々としていて、前回より大きくなっているのが一目で分かる。頬もぷっくりしているので、「や~、かわいい~」と美羽は女性の腕の中のレンタルベイビーの頬に触れた。レンタルベイビーは、じっと美羽の顔を見る。

「あれ、私が気になるみたい」

「6か月になると目が見えているから、動きのあるものを目で追うようになるんですよ」

「へえ~、そうなんですね」

 レンタルベイビーを手渡されると、ずっしりとした体重が腕にかかり、「うわ、重たっ」と思わず声を上げた。

「そうなんです。6か月児は8キロもあるんですよ」

「8キロ! はあ~、赤ちゃんって、ホントにすくすく育つんですねえ」

「ええ、1歳児はもっと驚きますよ」

 セット内容がすべてそろっているか確認してから、二人は「それじゃ、これで失礼いたします」と玄関に向かった。

「1回目と2回目で性別を変える人もいるんですか?」

 二人が靴を履いている時に、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「いらっしゃいますよ。二人以上のお子さんが欲しいと考えているご夫婦は、両方体験しておきたいからって変えたりしていますね」

 女性が答えてくれる。

「へえ~、そういうレンタルの仕方もあるんですねえ」

「名前を3回とも変える方もいらっしゃいますよ。どの名前で呼ぶのがしっくりくるのか、試してるんですって」

「はあ~、皆さん、いろいろやってるんですねえ」

 業者が去り、レンタルベイビーと二人きりになる。

「空、久しぶり」

 頬にキスをする。すると、空が「キャハッ」と声をあげて笑った。

「ウソっ、笑った!!」

 前回は泣いているか、普通の顔か、眠っているかで、笑ったことなどなかった。美羽は嬉しくなって、動画を録って流に「空が来たよ。笑ってるの! かわいい!!」とLINEでメッセージを送った。

「早く、2回目のレンタルベイビーをしたい」と美羽が言った時、流は「ああ……」と言ったきり、何も言わなかった。

「申し込んでいいの?」

 美羽が確認しても、流は「うーん、どうだろう」と耳をいじりながら、煮え切らない。

「ねえ、どっち? やりたくないの? やってもいいの?」

 美羽が苛立って問い詰めると、「好きにすればいいんじゃない」と、投げやりな感じで言った。

「何なの、その投げやりな態度」と怒りそうになった時、流から「美羽はオレの都合を聞こうとしない」と言われたのを思い出した。

「会社はまだ大変なの? 会社のことで手いっぱいなら、もう少し先に延ばしてもいいんだけど」

 できるだけ低姿勢で聞いてみると、強張っていた流の表情が緩み、「うーん、そうだね。9月ぐらいからならいいかな。そのころには、ゴタゴタは落ち着いてると思う」と言った。そこで、9月の初めスタートで申し込んだのだ。

 しばらくほんわかした気分になっていたが、30分も経たないうちに、空は最初の大泣きを始めた。

「ハイハイハイ、ミルクかな~」

 哺乳瓶のスイッチを入れてから、口にあてがう。2回目はさすがに落ち着いて対処できた。だが、空は激しく首を振る。

「あれ、違うか」

 おむつの臭いを嗅いでみたが、何も匂わない。

 ――そういえば、6か月児は難度が上がって、泣くバリエーションも増えるって掲示板で言ってたな。温度でも泣くって言ってたっけ。

 今日はそれほど暑くないので、冷房をつけずに窓を開けていた。抱っこしていると熱がこもって暑くなったのかもしれない。試しに冷房をつけて、ベビーベッドに下ろしてからうちわで空をあおいでみた。すると、徐々に空の表情はゆるんでいき、泣き止んだ。

「おお~っ、当たった! 暑かったんだあ」

 美羽は手を叩いて喜んだ。

「私もちゃんと母親として成長してるってことだよねえ」

 空は穏やかな表情で、あぶあぶ言っている。

「こちょこちょこちょ~」

 試しにくすぐってみると、空は手足をばたつかせ、声をあげて笑う。

「おお~、くすぐったいんだ!」

 美羽は嬉しくなり、何度か「こちょこちょ~」とくすぐった。

 しかし、幸せな親子のひと時はすぐに終わる。その後、空は体が冷えて下痢が止まらなくなり、泣きっぱなしで美羽は一気に消耗することになった。

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