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レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第1章 レッツ、レンタルベイビー!
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②レンタルベイビー説明会

 4月の第3金曜日の夜7時前。

 美羽は都庁にある会議室を訪れた。ドアの前には「レンタルベイビー説明会会場」と表示された電子看板が置かれ、ドア脇の装置にスマフォをかざすようになっている。

 スマフォをかざすと、カチッと鍵が開く音がした。

 ドアを開けて部屋の中を覗くと、30人くらいの男女が集まっている。20代、30代の若者カップルが中心で、一人で参加しているらしい女性や男性もチラホラいる。

 ――よかった。一人なのは、私だけじゃなかった。

 美羽はホッとして部屋に入った。

「結婚して何年目ですかあ?」

「うちはこれからするところなんですよー。でも、早く赤ちゃんが欲しいから、先にレンタルベイビーをしておこうってことになって」

「こいつ、結婚式場を探すより前に、レンタルベイビーに登録したんですよ。気が早いんじゃね? って感じで」

「えー、そうなんですかあ」

 さっそく打ち解けているカップルたちがいる。美羽は気おくれして、一番後ろの端の席に腰を掛けた。同じテーブルの端には、40代ぐらいに見える女性が座っている。

 ――あんな年でレンタルベイビー? これから産むの?

 気になってチラチラ見ていると、その女性は何度もため息をつき、涙ぐみながらスマフォをいじっている。顔色は相当悪く、髪も乱れて身なりに気を使っている余裕がないように見える。

 ――もしかして、不倫でできちゃったってパターン? だったら、人生最悪って感じだろうな。中絶は国が禁止してるから、こっそり堕ろすわけにはいかないんだろうし。

 7時になると、紺のスーツを着た男性と女性が部屋に入ってきた。男性は30代前半ぐらいで、短髪で一見爽やかな風貌だが、眼鏡の奥の細い吊り目で、せわしなく部屋中を見回している。

 女性は社会人になって間もない感じで、長い髪を後ろで一つに結び、いかにもマジメそうな雰囲気だ。緊張しているのか、顔がこわばっている。マイクの調子を何度も確かめているので、女性が説明するのだろう。

「えーと、7時になりましたので、そろそろ始め………始めさせていただきたいと思います……」

 マイクを通してもやっと聞き取れるようなか細い声で、女性は話し始めた。


「えーと、本日はお忙しいなか、レンタルベイビーの説明に……あっ、説明会にお集まま……お集まりいただき、ありがとうございます。私は谷口と申します……あ、ええと、司会……司会を務めさし、務めさし、務めささせていただく、谷ぐ」

「あー、もういいよ、オレがやるからっ」

 谷口という女性があまりにも何度も噛むので、そばで聞いていた男性は苛立ち、マイクを取り上げた。

「失礼いたしました。私、今日の案内役を務めさせていただく、青木と申します。よろしくお願いいたします。今日の申し込みは32名と伺っております。まだ3名ほど到着していないようですが、先に始めさせていただきます」

 機械のような硬い声で話す人だな、と美羽は思った。マイクを奪われた谷口はすっかり落ち込んでいるようで、隅っこで小さくなっている。

 ――なんか、やな感じ。もっと優しくフォローしてあげればいいのに。

 美羽は青木に反感を抱いた。

「それでは、まずはレンタルベイビーの制度の説明からしていきたいと思います」

 部屋が暗くなり、ホワイトボードに「レッツ、レンタルベイビー!」という文字が映し出され、おなじみの「レンタル~、レンタルベイビー♪」というCMソングが流れた。黒い線だけで描かれたアニメーションが始まる。


「今から60年前の日本。少子高齢化が進むと言われていましたが、女性の社会進出による晩婚化が進み、結婚しない人が増え、出産率は低くなっていきました。そして、2050年にはとうとう人口は1億人を切ります。さらに、社会的な問題になっていたのが幼児虐待です。毎年、50人以上の子供達が親や親族に虐待を受け、亡くなっていました。このままでは、ますます子供が減っていってしまうと危機感を抱いた国は、2050年に出産・子育てをする人に免許を与えることにしました。それがグッド・ペアレンティング制度です」

 アニメーションでは女性が働いている様子や、子供が親に叩かれて泣く様子などが、次々に描かれて消えていく。それに合わせて、女性の淡々としたナレーションが流れる。

 一気に室内には気だるい雰囲気が漂い、仕事帰りに寄った美羽はあっという間に眠気に襲われていた。

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