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レンタルベイビー・クライシス  作者: 凪
第2章 ペアレンティング・スタート
13/59

④いきなりイライラ

 体を揺すってあやしているうちに、泣き声は小さくなってきた。


 ――ぐずっただけかな。


 美羽はホッとした。ふと、チーズのいい香りがするので見ると、流はピザを食べながらスマフォを見ている。


「ちょっと」


 美羽はキレそうになるのを抑えた。


「私、髪を乾かしてきたいんだけど」


 流は、「それで?」という表情でこちらを見ている。


「その間、この子をあやしててもらっていい?」


「えー、ムリムリ。オレ、抱き方分かんないし」


 ――だから、講習会にちょっとだけでも出たら?って言ったのに!

 不満をぶつけたいのを、美羽は何とか堪える。


「大丈夫だよ、こうやって抱いているだけでいいから」


 渡そうとすると、「いや、俺今、ピザ食べてるし」とピザを置こうとしない。


「5分だけでいいから」


「美羽は髪短いから、乾かさなくても大丈夫じゃない? 夏だしさ」


「じゃあ、私が風邪をひいたらどうするの?」


 美羽はさすがに声を荒げた。流は美羽が怒りそうになっているのに気付き、「分かった」と大袈裟にため息をついて、ピザを置いて手を差し出した。


「手が汚れてるから、洗うか拭いて」


 渋々手を洗っている流の背中を見ながら、「なんなの、普通、それぐらい分かるでしょ?」と美羽は心の中で文句をぶつけていた。


 流が両手を差しだしたので、ゆっくりレンタルベイビーを渡す。流はおっかなびっくり抱っこした。受け渡す時に泣きだすかと思ったが、意外におとなしい。


「うわ、結構重いな」


「うん、3キロあるから」


「なんか、熱いけど」


「ちゃんと赤ちゃんの体温を再現してるんだって」


「へえ~、よくできてんなあ」


 ――何回も話したのに、聞いてないんだから。


「それじゃ、よろしくね」


 ショートカットなので、流が言うとおり、あらかた乾いていたが、わざと時間をかけて乾かしているフリをした。パジャマに着替える時、下着もつけていなかったことに気付く。


 リビングに戻ると、流は誰かと電話中だ。


「そうそう、レンタルベイビー。今日からうちに来たんだよ。今抱っこしてるんだけど、結構重いし、熱いんだよ。赤ちゃんの体温を再現してるんだって」


 流の腕の中を覗くと、レンタルベイビーはうつらうつらしている感じだ。


「そう、よくできてるよな。もっとうるさいのかと思ったら、オレが抱っこしたら全然泣かないから楽勝だよ」


 ――よく言うよ。さっきは、できないってオロオロしてたじゃん。


 美羽はレンタルベイビーをそっと受け取った。とたんに泣き出す。


「ああ~、せっかく眠ってたのに。いや、オレじゃなくて、泣かしてるのは美羽だから」


 その言葉に、美羽は軽い殺意すら覚えた。最初の説明会で観た、女性がレンタルベイビーを壁に投げつけた動画を思い出す。あの女性はこういう小さなところから追い込まれていったのかもしれない、と美羽は思った。


 結局、レンタルベイビーを再びあやしてベッドに寝かしつけたころには、ピザは冷めきっていた。流はシャワーを浴びに行ってしまい、美羽はピザを温め直しながら、グッタリと椅子に座りこんだ。


 ――レンタルベイビーが大変って言うより、流の態度にイラつくんだけど。


 テーブルに飲み残しのビールがあり、美羽は一気に飲み干した。ビールもぬるくなっていて、美羽は余計に空しい気分になった。



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