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千早ぶる神様と過ごした私の話  作者: さうざん
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ぬまづくわずも がたがたしみず

「やだぁ!あのプリンよ!この間ネットで話題になってたやつ!」


ジーンズに白いTシャツ、小さな黒い斜めがけのスポーティなバックを持つアマテラスは、人でにぎわう漁港を楽しげに歩いている。


その後ろを、ため息をつきながらついていく、ポケットまみれの短パンに緑色のTシャツ姿のスサノオは、まるで浮かれている彼女に振り回されている彼氏のようであった。さらにその後ろを、無表情でついていく白シャツに黒いチノパンのツクヨミがついていく。


さて、三島大社であれこれ情報を仕入れた三貴子は、「ここまで来たら駿河湾の海の幸を堪能したい」と駄々をこね、コトシロヌシの車(予備)を借りて隣の沼津港に来たところだった。運転手は「一番安全運転そう」という理由でツクヨミが務めることになった。


ちなみに、モータリゼーションが進んでからというもの、神々も人間に混ざって車の免許を取得するのが当たり前になった。交通事故の悲喜こもごもを日ごろから感じている神々は、無免許はよろしくないという共通理解を持っている。一応。アマテラスは基本的に安全運転だが、運転しながらの独り言やカラオケ大会がうるさいのでハンドルを握らせてもらえず、スサノオは「交通安全のお祓いの看板を下ろせ」と嫁から苦言を言われるほど「些細な違反メーカー」で、免許の色はみずみずしい青のまま。ツクヨミがため息をつきながら金色に輝く免許を見せた瞬間、姉と弟は潔くハンドルを譲ったのだ。


込み合っている駐車場の中から空いているスペースをなんとか見つけ出し(アマテラスが「ひかりのぱわー」なる謎の力を使って、長居している人々に「早くしないと祟りにあう」という不安な気持ちを巻き起こさせたらしい。ツクヨミ曰く「やみのぱわー」)、漁港の入り口で海鮮丼を堪能し、そのまま市場を少し歩くことになった。


「ここはお姉さまがおごってあげるから、プリン食べましょうよ!」


「姉上、このプリン色が青いけど大丈夫なの?」


スサノオが、写真撮影スポットに群がっている若者を眺めながら大げさに顔をしかめた。(後にツクヨミは、この時の表情を「田舎のヤンキーが睨んでるよう」と形容した。)


「大丈夫よ、前に食べたとき、すっごくおいしかったもの!」


「姉上、まさか前にも沼津港にお忍びで?」


「ううん、違うわ。もらったのよ。」


「ふーん、じゃあ食べてみようかな。姉上のおごりだし。」


「はいはい、3人分買ってくるから、そこらへんに座って待ってて。」


ツクヨミとスサノオは、あまり写真に写らないようにウッドデッキの段に座り、次々と前を通り過ぎていく人々をぼんやり眺めていた。


「おまたせ、こっちがスサノオ、これがツクヨミね。」


「ありがとうございます。」


「わー、姉上ありがとうー。」


スサノオとツクヨミは、青く光る不思議な色合いのプリンをまじまじと眺めてから口に運んだ。アマテラスは写真を撮るそぶりも見せずに、大きな口をあけておいしそうに食べる。


「これ、新作の味なんだって。前にコノハナノサクヤヒメからもらったのと、ちょっと違う味にしたの。こっちもおいしいわ。」


「ふーん、コノハナノサクヤヒメと仲いいの?」


「まぁ、ニニギのお嫁さんじゃない?一応身内だし、時々メッセージのやりとりしたりとかするわ。それに彼女、オオヤマツミの娘さんでもあるし。九州や東国の国津神への影響力も中々だから、ちょっと気を使うけれどね。」


「姉上……もしや。」


ツクヨミの声が、彗星のような鋭い光を帯びた。姉神はそれに気づいたようだが、振り返った顔はプリンに満足して緩んでおり、随分と間抜けな光景になっていた。


「ツクヨミ、何か?」


「ええ、姉上、スサノオ。このあたりの地域は、浅間信仰の厚い地域ですよね。」


「まぁ、そうだろ。ほら、あちらをご覧くださいませ。」


スサノオがわざと恭しく指さした先には、愛鷹山から頭をのぞかせる富士の高嶺が見えた。日本一の霊峰である富士山をつかさどる女神は木花之佐久夜毘売コノハナノサクヤヒメ。彼女はアマテラスの孫であるニニギノミコトの妻にして、東国の要である富士の山と、欠かすことのできない華やかな春の訪れをつかさどる、この国には欠かせない女神だ。相当な美女であり、海外から「日本の美神ヴィーナス」扱いされることもあるのだが、「ちょっと違うんだよなー」というのが八百万の神々の総意であった。要するに美しさそのものの女神ではないというのが日本側の主張なのだ。


「ね、このあたりはコノハナノサクヤヒメの勢力圏。だから美人が少ない、なんて噂話があるくらい。」


アマテラスはそう言って周囲の女の子たちを見渡した。もっとも、国民的女優やアイドルを時々生んでいる地域であることは、神々も承知している。


「つまり、この地域で生まれ育つ子どもたちは、コノハナノサクヤヒメの影響下にあるわけですよね?」


「まぁ、そういうことだな、兄上。駿河国は浅間信仰の一大根拠地で、結構独自のルールも多いから、国津神もだいぶ気ぃ使ってるんだぜ。」


「姉上、スサノオ。例の宣託の瞳を託された姉弟、もしかして、コノハナノサクヤヒメが関わっているのではないかと。」


「つまり、ツクヨミは、コノハナノサクヤヒメにあたるべきだと考えているのね。」


「ええ、姉上。コトシロヌシとオオヤマツミは、三島では同じ社を分かち合っている。ゆえにコトシロヌシはオオヤマツミであり、オオヤマツミはコトシロヌシとも言える共存体制になっていると考えていい。コトシロヌシは例の姉弟のことを幼いころから知っていたと言っていた。おそらくオオヤマツミもだ。」


ツクヨミは続けた。


「コトシロヌシは宣託の瞳の話まではできた。宣託の瞳をつかさどるのはコトシロヌシだからだ。自分の意志で話すか話さないか決められる。でも姉弟のことは話せなかった。つまり例の姉弟はオオヤマツミの領域なんだ。この地域で生まれ育つ子どもたちがコノハナノサクヤヒメの影響を受けているのであれば、父であるオオヤマツミの領域であるのは当然のこと。」


「オオヤマツミのおやっさんは、駿河国は娘にほぼ任せてる。となると、コノハナノサクヤヒメにあたる方が手っ取り早いな。」


スサノオはプリンをかっこむと、勢いをつけてウッドデッキから立ち上がった。


「兄上、姉上、さっさとコノハナノサクヤヒメのところ行こうぜ。ついでに富士宮焼きそばといきましょうや。」


「あら、いいわね!」


「姉上、スサノオ。どうやって行くつもりですか?」


傍から見ると地元のヤンキーカップルのような姉と弟は、冷たく光る夜の神の視線をあびて凍り付いた。



サブタイトル、わかる方は同郷ですね!

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