その異世界転移はおかしいだろ パート2
息抜きシリーズ第4弾です。
えっと、あたしは田原トモカ。
最近社内で密かに行われている、抱きたい女子社員ランキングが気になるお年頃のOLです。
週末の深夜、サキイカをかじりながらビールを飲んでいたと思ったら、突然目の前が眩しい光に包まれて、気が付いたらまたもやゲームの世界に来ていました。
異世界転移の小説、投稿サイトでたくさん読みました。
勇者として召喚されたり、異世界に転移してしまった友達を助けに行って切なくなったり、クラスごと転移したりとか、いろんなお話を読んできましたよ。
でもさあ……。
「出発進行~」
「なんで電車運転シミュレーションなんだよ! これなら、前回のダンスゲーの方がマシだったじゃんか!」
「車内、お静かに願います~」
「あ、はい……」
淡々と運転する車掌さん。
流れる無感情のアナウンス。
視界に浮かぶ速度メーター。
違うよ! あたしの知ってる異世界転移で主人公の視界に浮かぶのは、こういう機械的なメーターじゃなくてステータスとかスキルとかだから!
「場内進行~」
急なブレーキに場内が大きく揺れる。
なんて乱暴な運転なの!?
すると、ブレーキによろめいたあたしの目の前に、突如台本のようなものが現れた。
これを読むの……?
「えっと、ブレーキが……強すぎますぅ……?」
……え? あたしの仕事、これだけ?
ふざけんな! こんなのあたしじゃなくてもいいじゃないか!
せめて恋愛要素とか、イケメンとの出会いをあたしによこせ!
電車運転シミュレーションでもそういうのあるだろ! ……無いか!
「待ってたZe……」
妙に聞き慣れた声に車掌の方を振り向くと、運転席の座席にはパイナップル頭の男が座っていた。
「HEYレディー! オレとトレインシミュレーション! 警笛鳴らせYo!」
「……車掌どこ行った!? ってゆうか、お前! 成仏したんじゃなかったのかYo!」
「別の世界へ遊びに行ってただけだYo!」
突然車内に流れるトランス系ミュージック。
いつの間にか備え付けられたミラーボール。
いや……、あたしは回らないから。
「オレ特製のダンシング運転テクを見せてやるYo!」
「立つな! 大人しく座って運転してろ!」
てゆうか、こいつじゃ無くて車掌さんどこ行っちゃったの!?
このままじゃ……あたし達、パイナポーの運転でヘブンドライブしちゃうYo!
「えー、次は……ボサノバー」
「曲の種類じゃ無くて、次の駅の名前言えーッ!」
電車はどんどん突き進む。
野を越え山越えどんどん進む。
谷越え駅越えどこまでも。
「どさくさにまぎれて、停まらなきゃいけない駅越えてんじゃねぇぇええええッ!!」
「どうなってんの~?」
「す、すみません、お客様!」
なんで、ゲームの世界に来てまであたしが謝らなきゃいけないんだ!
このままじゃ……。パイナポーじゃ駄目だ! やっぱり車掌さん探さないと!
「ねえ、車掌さんをどこにやったの!?」
「あいつなら悪役令嬢に転生したYo!」
「なんでしれっとTSまでしてんだ! それに、さっきまでそこにいたでしょうが!!」
あたしじゃ駄目だ、もうこのパイナップル頭は止められない。
そうだ、お客様の中にキャサリン……もしくはキャッシィさんいらっしゃいませんか!?
「あ、私キャサリンですけど」
いた! お客様の中にキャサリンいた! なんでも聞いてみるもんだ!
「今すぐパイナポーを連れ帰ってください!」
「でも私達……もう終わったの……」
あんた達、また婚約破棄したのかYo!?
「そう、あれは彼と浜辺で……」
「それって長くなりそうですか?」
「急に海面に雷が落ちてきて、彼の自慢のヘタがアフロヘアーに……」
「くだらねー理由で婚約破棄すんな!!」
そうこうしているうちに、電車は最後の駅へ向かって走り出していた。
「ここからが、本当の地獄DA……!」
弱気になるパイナッポー。
自慢のヘタも下がり気味。
目の前に現れた台本を見て、あたしは驚愕した。
制限45の後に停止信号、減速60を過ぎたあたりでまた制限45。
次の駅まで残り時間90秒。距離的にも、速度制限を守っていたら絶対に間に合わない。
「パイナポー、あんたの持ちタイムは?」
「2秒だZe……」
絶対無理ーッ!!
「ボブ……」
「キャッシィ……なぜここに」
「私が間違っていたわ……アフロでも、パイナップルはパイナップル。ごめんなさい……」
待って待って! その流れ、嫌な予感がするから待って!
「ボブ……、私が悪かったわYo……」
「キャッシィ……」
眩しい光に包まれる二人……そしてやっぱり天に上がって行くのね!?
「お前の熱い警笛、忘れないZe……」
「あなたはあなたの通勤経路を守って……」
警笛一回も鳴らしてないんですけど!?
あと、あたし、自転車通勤です!
よくわかんないうちに締めに入ろうとしてるけど、タイムリミットがどんどん迫ってる!
そして、なぜか並走する電車からさっきからパッシングされてる!
五回点滅……! キュ・ウ・テ・イ・シのサイン!?
って、なんで電車が並走してんのよ!?
「約束の時間に遅れちゃうー!」
「すみません! すみません!」
そして、目の前に現れた全ての項目に次々捺されて行く『不可』マーク。
あたしのせいじゃないのに、あたしが運転してたんじゃないのに……!
えーん! ちゃんとした異世界転移したいよー! こんなのばっかやだよー!
ダンスゲーじゃないのにパイナップルは出てくるし、そもそも電車運転シミュレーションなんて異世界転移ですらないし!
悪い夢なら覚めてよーッ!
………………
…………
……
ジリリリと目覚ましが聞こえる。
あれ? 電車は? パイナップルは?
テレビのモニターを見ると、某鉄道がデモプレイで優雅に走っていた。
やっぱり、夢だったの?
そういえば、会社の鉄道サークルの姫になりたくて、電車運転ゲーム買ってきたんだったっけ。
疲れてそのまま寝ちゃってたんだ、あたし。
正直興味も無いし、にわか仕込みじゃやっぱり駄目だね。
あ、今回は亡くなったお父さん全く関係ないです。
それにしても、またパイナポーの夢か……。
一度お祓いに行った方がいいかもしれない。
次こそは乙女ゲーでもしながら寝落ちしよう。
そして、今度こそ逆ハーのチートでウハウハのゲームのヒロインの友人のモブになるんだ。
あたしはそう誓って、近所のゲームショップへと出掛けた。
お読みいただいて、ありがとうございました。