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真実は、いつだって単純明快だ。

「で、ここが異世界だってことは納得してもらえた?」

 どこかぼんやりと、いや、遠い目線で何処かへと意識を飛ばしかけていた太生は、なんとか根性で意識を戻す。

「……納得はしたくないしできないけど、納得する」

 その言葉に少年は、青い瞳を瞬かせる。

「諦め悪いなぁ」

「悪かったな!」

 投げやりに言い捨て、睨みつける。

 一応、納得はするといったが、今だ『夢落ち』を諦めてはいない。というか、諦められない。諦めたらそこで終了だ! と、どこかの誰かが言っていた気がするその言葉が、脳内リピート。

 無駄な努力である。

「あ、そういえばアレ」

「ああ、そうでしたね」

「……アレ?」

 ふと、何かを思い出すように言った少年の言葉に、青年は袋から何かを取り出す。

 水筒、に見えるものとコップ。

 こぽこぽと注がれたそれは透明。

「……?」

「どうぞ」

「あ、どうも」

 条件反射で受け取って、太生は困惑する。

 ……飲めと、いうことだろうか?

 ちらりと視線を少年にやると、太生に渡されたのと同じものを持っており、当然のようにそれを口に運ぶ。

 どうやら危ないものではないようだと思うと同時に、先ほどから叫びすぎたせいか、喉がからからだという事実に気づく。

「……いただきます」

 ならばありがたく頂戴しようと、欲求に従い、一気にそれを喉に流し込み。

「そういや君の」

「ブゥ――っっ!!!??」

 盛大に、噴出した。

「ケ、ケホっ、て、おま、これ、酒じゃねぇかっ!!」

 色は透明、微かに香る甘い桃のような香りに、ジュースだと思って飲んだら実は果実酒。

 なんの嫌がらせだコノヤロウ!! と、詰め寄ると、なぜかきょとんとした瞳とぶつかった。

「……そっちの世界では、これが最高のもてなしなんじゃないの?」

 心底不思議がっている様子の少年。もちろん青年も同意見なのか、困惑した表情を浮かべている。

「いや、ない。ありえないから。それが適用されなくもないのは大人だけであって、未成年のオレには適用されないから」

 その様子に太生は、妙に冷静にきっぱりと否定した。

 少年は、そうなんだーと、呟きながら再度コップに口をつける。

「おかしいなぁ、確かにこれが最高のもてなしだって聞いたのに」

「ちょっとまて! 今の台詞にも突っ込みたいところはあるが、ちょっとまて! お前何歳だ!? オレと同じくらいだよな?」

「年齢? 17になったばかりだけど?」

 それが何か? と首をかしげるその姿に、太生の言いたいことは一つ。

「未成年が酒のむんじゃねぇぇぇぇ!!」

 心の底から叫んだ。今どきの高校生はひょっとしたら隠れて飲んでいるやつもいるかもしれなくもないが、太生にそれは当てはまらない。

 彼が姉から受けた教育は、とてもきっちりとしていた。

「てかそこのあんたも止めろよ!」

 びしぃっと、指をさす。人を指さしちゃいけませんと幼き頃に教わったが、今だけは深海に沈めておく。

 だが、言われた青年はさらりと告げた。

「こちらでは、このくらいのお酒は水と同じなんです」

「…………へ?」

「5歳の子供でも飲むよ、この程度なら」

「…………マジで?」

「うん」

 人生17年、確かに外国にはワインだかなんだかを水のように飲むところがあると聞いた気がしなくもないが、……日本人としては、ちょっと論外。

 異世界って、こういうことなんだ……と、かなり間違った方向で納得し始めたとき、ふと、あることを思った。

「でさ君のな」

「ちょっと聞いてもいいか!?」

「……どうぞ」

 少年は、何かを堪えるかのようにため息をひとつ。

 だが、太生は気づかない。

「そっちからすればオレは異世界人ってことになるんだろうけど、驚かないのか?」

 小さな疑問。だが当然の疑問。

 こちらがこんなに驚き、現実逃避までしているというのに、この差はなんだというのか。

 なんで異世界人と異世界人があってるのに、こいつらは微塵も驚いてないんだ! とういう、無茶苦茶な八つ当たりめいた思考が、太生の脳内で展開していた。

 ちなみに、呼んだ側だからじゃない? という事実は華麗にスルー。

「ああ、そこからなんだ……」

 なにがそこからだというのか。ややムスッとした太生を前に、二人はどこか納得したように視線を交わした。

 あのね、と少年は口を開く。

「僕らにとって異世界って、あたりまえのことだから」

「不公平だ!」

「いや、そう言われてもね……僕が決めたわけじゃないし」

 その通りである。

 だが、不公平に変わりはない。

「まずは、僕らにとって異世界が当たり前な理由なんだけど……」

 さて、どう話したらいいかなぁ……? と、首をかしげる少年。

 暫し思案した後、いい言葉を思いついたと言わんばかりに、ぽんと手を叩いて言った。

「神々が親バカだったのが理由なんだ」


 ……。

 ………。

 …………。


「……………すいませんさっぱり理解不能です」

 一応、その言葉を脳内で何度か再生のち自問自答してみたのだが、正解にはたどり着けなかった。

「ていうか、親バカってなんだよそれ……」

 ヒクリと、頬が引きつるのがわかる。

 きっと、少年の言葉はとても的確な説明なのだろう。少年が「親バカ」発言をしたとき、なるほど、と言わんばかりに同意を示した青年が視界にばっちりと収まっていたため……なぜだろう、それはとても不安を煽った。

 思わずぼそりと呟く。

「聞きたくないかも……」

 その言葉が的確な理由なんて。

「え? なんか言った?」

「いやいやいやいやなんでも御座いませんとも!」

 聞きたくはないが、気になるのも事実なので。

 さあ続きを! と、若干やけくそ気味に促すと、なぜか少年はきょとんとした表情をした。

「続きって言われてもこれで全説明なんだけど……納得できない?」

「できるかぁっ!!」

 今のどこが説明なんだ! と思わず怒鳴る。

 すると少年は、すぐさま一転した笑顔でひらひらと手を振った。

「やだなぁ冗談に決まってるじゃないか」

「ですよね。これで理解できたら尊敬に値します」

「……っ、……っ」

 ああもうなんかこいつら殴りたい! と先ほどから怒りのゲージが下がったり上がったりと忙しい太生。せめてもの抵抗なのか無言で地面を叩く。

「なんか顔が青くなったり赤くなったり、異世界人てほんと面白い人種だね」

「誰のせいだ誰の!! 大体お前がっ……て」

 再び怒鳴りかけて、ふと気づいた。そういやこいつらって誰? と。

 通常、最初に気づくべき事柄に、太生は遅まきながら思い至った。

「……ああ、名前?」

「あ、うん」

 沈黙した理由に気づいたのだろう、なぜかため息をつきながら言われた。

「僕は、ゼニス。ゼニス・ヴェルディグ。で、こっちが」

「皇子の傍仕えをしております、レイナードと申します」

「あ、どうも」

 優雅に一礼され、慌てて頭を下げる。

 なんか身分の高そうな人だなぁと、ぼんやり考え……って皇子?

「でさ君のなま」

「皇子って言ったか今!? おまっ……じゃなくて、ゼニスって皇子なのか!?」

 やっぱり異世界って、こういうのが定番なのか! と、やや興奮気味な太生。

 一方、頭痛でもするのか片手で頭を押さえるゼニスと、苦笑気味のレイナード。

「……あーうん。確かに僕は皇子だけど、そこら辺はあとで説明するからさ」

「え? いやでもっ」

 オレ的にはそこら辺がちょっと今重要なんだけど……と、言いかけ。


「いいから、聞け」


 静かだが、反論を許さない声音に、それを呑みこむ。

 ……なんで怒ってんだ、こいつ?

 なんとなく感じる静かな怒りに、疑問符が浮かぶ。

 実は先ほどからゼニスが何かを問いかけようとするたびに、わざとかと言わんばかりに遮りまくっている事実に、太生はこれっぽっちも気づいていなかったりする。

「で、さっき言ってたことなんだけど、まず、この世界のすべては神々が作ったと言われていて、僕らには神々に与えられた力がある」

「力?」

 すっと、ゼニスは手のひらを上に向ける。

 すると、瞬き一つで静かに炎が灯った。

「……手品?」

 もちろんそんなわけないのだが、いまだ『夢落ち』説をどこかで期待している太生は、現実を無視した。

 だが、ゼニスはスルー。

「神々が与えたのは、精霊と共存する力。たとえば夜道の灯りや暖炉の火とかは彼らの力を借りている。つまり、僕らの生活にはなくてはならない力だ」

「えーと、……魔法、とかって、いうやつ?」

 認めたくはないが、一応聞いてみる。すると、ゼニスは首を振った。

「へ?」

「これは魔法じゃない。あくまでも自然な力だ。魔法は自然の力を体の中に蓄積させて使うものであり、修練を積まないと使えない力」

 なにやらいろいろとあるらしい。

 へえ、と太生は頷く。

「で、続きは?」

「つまり、この精霊と共存ずる力というのは僕らの世界では全員が使える力であって、それは生まれた時からある当たり前のものだ。が、ある日神々の子供の中で、力を持たないものが生まれた。当然、神々は嘆いた」

「……嘆くもんかぁ?」

 太生には、よくわからない。ちょっと不便かもしれないけど、ないならないでいいじゃんと、思う。

 それが伝わったのか、ゼニスは苦笑した。

「ま、僕らにとっては呼吸するのと同じくらい当たり前の感覚だからね。で、嘆いた神々はその子供のために不自由のない世界を与えることにした。――それが君たちの世界だ」

「……はい?」

 いきなりの結論だった。

 ま、だから君たちの世界の住人は僕らのことを知らないんだよ、とゼニスは軽く言うが、太生的にはちょっとまてと言いたい。

 あまりにも、あまりにも、こう、どうしようもない感が胸中を占める。

 確かに、ゼニスの説明はおそらくいろいろ省きまくっているのだろうとは思うのだが、それにしてもこれは、ない。

 だが一方で確かに納得した部分もある。

 ……ああ、だから神々の親バカ……ね、と。

「今度は納得できた?」

「……できた、なんか微妙だけど、確かにできた」

 それはよかったと、笑うゼニスを見つつ、太生は溜息。

「で、オレがここにいる理由はなんだ?」

「ああ、呼んだ理由?」

「そう。聞きたくもないけど、こういう定番でいくと……なんか助けてほしいことがあったり?」

 世界の成り立ちが微妙ではあるが、異世界召喚とくれば、やっぱり何かがあるはずなので。

 さっさとそれを終わらせて帰ろうと決めた太生だが、ゼニスはまったをかける。

「その前にさ、ちょっと聞いてもいいかな?」

「……まだ、なんかあるのか?」

 やや身構えた太生を前に、ゼニスはにこりと笑みを浮かべ、いままで言いたくても言えなかったソレを口にした。


「君、誰?」


 殴ってもいいですか? と、太生は自問自答した。




(個人サイトからの加筆修正掲載です)

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