表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

八日目

 ゆっくりと、流風は零箱の大地を踏む。空中を漂っていたときとは、やはり感覚が異なる。ざあ、と空に大気が踊る。ただいま、と小さく呟いた。

 そして、不意に彼は立ち止まる。何処かの広場のような場所だった。男が一人、月夜に言葉を紡いでいる。彼の視線の先には、もう葉も落ちた木がある。

「――さくら。何処にいるんだ?」

 ぼそりとした声は、流風の耳へと流し込まれていく。人気のないその場所で、流風は動かずにじっと男の後ろ姿を見つめる。

「今まで、ずっと目をそらしてきて悪かった。さくらは、どんな見た目であっても、さくらだったのに。さくらが飛び降りた、って聞いて――生きた心地がしなかった。正直、母さんが線路に飛び込んだと聞いたときよりも。あのなあさくら。信じてもらえないかもしれないが…さくらが産まれたとき、母さんはずっと泣いていたが、父さんは別の意味で泣いていた。――可愛かったんだ。例え、皮膚がどうでも。赤くてしわしわの猿みたいな顔だったし、髪も薄くてなあ…。それでも、可愛かった。一生、守っていこうと思った。さくらが例え犯罪者になろうといつか結婚して、手元を離れようと――ずっとずっと一生愛して、守っていくと…誓ったんだ。…そうだな、神に、かもしれない」

 だから、とその声は言う。

「もう一度、会えないだろうか。さくら。――もう一度、きちんと誓いたい。父さんは、さくらのことを、愛している」

 その後は、嗚咽が聞こえた。流風は暗闇の中で、只それを聞く。そして、一人の少女を思い浮かべる。あの時、真っ直ぐな瞳をしていた少女を。

 それから、またゆっくりと流風は歩き出す。鳩尾を撫でて。ただ、この箱の中で繋ぐために。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ