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座敷童子と幽霊少女

作者: 夕凪秋香

僕は幼い頃から周りの同級生に『座敷童子』と呼ばれていた。

理由は、幼い頃に出来た額の傷を隠すために目まで伸びたぱっつん髪と存在の薄さ。先生にさえ存在を忘れられる事が多かった。だから付いたあだ名が座敷童子。そのあだ名でからかわれたりしたけれど、あの頃からそのあだ名で呼ばれる事はなくなった気がする。


高校1年のとても寒い雪の降る日だった。

学校から塾へと向かう一本道をいつもの様に通っていると、道の近くにある雑木林の奥から誰かの声が聞こえてきたんだ。

いつもなら人の声なんて無視して通り過ぎるけれど、ちらりと見えた声の主の姿が女の子だった事とその子の姿が制服以外何も防寒具を身につけていなかった事が重なって思わず追いかけて林の中へ入っていた。その時の僕はもしかしてその子が自殺するんじゃないかと思ったんだ。実際は違ったけれど。


元々体力の無い僕が必死に女の子を後を追いかけていると、いきなり開けた場所へと出てきた。

少し小高い丘の上には、僕の身長を遥かに越える大きな桜の木が生えていて、その根元に彼女は立っていた。

長い黒髪を揺らしながら木の幹を見つめる彼女の姿はどこか幻想的で、綺麗だった。思わず見とれていると僕の存在に気づいたのか彼女はくるりと振り返って一瞬きょとんとした顔になった。


「えっと……こんにちは?」


とりあえず挨拶してみると、彼女は左右を見た後に「私に言ってるの?」と言いたそうに自分自身を指差す。それに何度も頷くと、彼女は目を輝かせながら僕の手を掴んできた。女性の手なんて母親と妹ぐらいしか触ったことのない僕にとっていきなり女の子に手を握られるなんて混乱するのは当たり前の事で、一瞬で頭が停止してガッチガチに固まった。


『私の事が見える人なんて初めてだよ!見つけてくれてありがとう!』


「あえちょっ手、手っ」


『だーれも気づいてくれなくてもう諦め半分だったんだよー!幽霊になってからもう寂しくて寂しくて』


その彼女の言葉にゆっくりとだけど停止していた思考が動き出した。そして冷や汗をかきながら彼女の足元をみると




彼女の足は半透明になっていて、地面に足がついていなかった。





「……うわぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!??????」




それが彼女と初めて出会った時のことだった。その後はもう散々で、ずっと彼女に慰められるーわ塾には遅れるーわと大変な一日だった。







『ふーん…座敷童子ねー』


初めて出会ってから1ヶ月が経っていた。あれから僕は塾に通う日は必ず彼女の元を訪れるようになっていた。彼女から頼まれたというのもあったけれど、幽霊と話せるなんて滅多にない事だから話してみたいという気持ちもあった。それに彼女自身とてもいい子だったし。

彼女はいつも桜の木の下で歌を歌いながら僕を待っていた。僕が林を抜けてここへ来ると、いつも目を輝かせて僕を迎えてくれるんだ。それが無性に嬉しかった。家に帰ればいつも厄介者として扱われているから、彼女の好意がとても嬉しかったんだ。

話を重ねてわかったことは、彼女も同じ高校生だということ。彼女の着ている制服は僕の学校の旧式の制服だということ。そして物凄くポジティブ思考だということ。


『変わったあだ名ねー。私なんて生きてる時は才色兼備なんて言われてたわよ』


「ハイハイソウデスカ」


『絶対信じてないでしょっ!本当だったんだからね!?』


「はいはい」


頬を膨らませて拗ねる彼女の姿はとても可愛くて、思わずぽんぽんと頭を撫でていた。ポカンと口を開けて僕を見つめる彼女にハッとなって「ご、ごめん」と謝りながら手を離そうとしたんだけど、今度は彼女の方が僕の手に擦り寄ってきた。嬉しそうにでも切なそうに僕の手を掴んで擦り寄ってくる彼女に、思わず息が止まった。


幽霊だから感触なんて伝わってくるはずないのに、彼女の頬はとても柔らかくて温かかった。








『最近、座敷君って明るくなったよねー』


「そう…かな?」


彼女と出会って2ヶ月。僕はよく雰囲気が明るくなったねとクラスメイトから言われるようになっていた。

幽霊なのに明るく僕と話す事が大好きだと言ってくれた彼女の影響が、少なからず出ているのかもしれない。この時期から先生にも普通に認識して貰えるようになったし、あだ名じゃなく本名で呼ばれるようになっていた。


『私と会った頃はビクビク怯えてたもん。話しかけるたびにびくっ!て』


「そこまで怯えてたつもりはなかったんだけど…そもそも人と話すのは苦手で」


『えーなんで?普通に話せてるじゃない』


「君みたいにわかりやすい人ばっかりじゃないんだよ世の中」


『地味に貶してない?ねぇ私の事貶してない?』


「キノセイキノセイ」


こんな風にタメ口で話すなんて今までの僕なら想像できなかったけど、これも彼女の性格のおかげなのかなと思うと、少しだけ複雑な気分になるのは気のせいだろうか。いや、うん。おかげなんだから感謝しとかないといけないんだろうね。この頃は妹からも「お兄ちゃん最近根暗じゃないね」と心にぐさりと来る言葉も言われてたし…。


『あー…いいなぁ学生。私も戻りたいなー』


別れ際にそう呟く彼女の姿がどこか寂しげだった事を今でも覚えている。








彼女と出会ってもう5ヶ月が経ったある日の事、僕は髪の毛をバッサリと切った。彼女に切った方が似合うのにと言われたからだ。彼女に言われたから切るってこの頃の僕がどれだけ彼女に依存していたのかわかりきってしまうけれど、今まで晒してこなかった額の傷を鏡で確認してドキドキしながら学校へ行ったら、何故か僕として認識されなかった。転校生かと勘違いされた。


2年に上がるか上がらないかの微妙な時期に転校生っておかしいだろって思ったけれど、クラスメイトからの評判は上々で元々真面目な性格だった事もあり、2年に上がると一躍クラスの中心人物になった。

その事を報告しに行こうと急ぎ足で彼女の元に訪れると、いつも出迎えてくれるあの明るい声が聞こえない。姿も見えない。慌てて辺りを必死に探せば、彼女は木の上で眠っていた。


あどけない表情で眠る彼女に安心すると同時にどんだけ必死になって探してるんだ僕と、自分自身に呆れていた。が、そこで見てしまったんだ。


彼女の足が、手が、体全てがぼやけている事に。


「…っ!起きて!ねぇ、起きてよ!」


『ふぇ?何よそんなに慌ててー』


大声で彼女を起こせば、すぐに返事が帰ってきた。姿もしっかりと見えている。ホッと安心したけれど、彼女が幽霊だという事をその出来事で再確認してしまった。

そして、彼女と別れる日が近いという事も。







その別れの日は突然きた。彼女と出会って1年が経った時だ。その日もまた寒い冬の日で、僕はまた彼女に会いに行こうと鞄に教科書を入れている時だった。


『あ…あの!』


その声は隣のクラスメイトの子だった。男女関係なく人気の、いわゆるアイドル的存在の子だ。

僕には関係ないことだろうとさっさと鞄へ向き直るとその子が顔を真っ赤にしながら僕に近づいてきた。

驚きながら何食わぬ顔で「僕に何か用事ですか」と聞くと、下を向いたまま言いよどんでいたけど、覚悟を決めたのか真っ赤の顔のまま僕に手紙を渡して教室を去っていった。

なんだったんだ?と思って手紙を眺めていたら、横からクラスの男子に取られ、中身を朗読された。


それは彼女からのラブレターだった。そこでようやく彼女から告白されたのだと気づき、自分の顔が若干赤くなるのがわかる。

そりゃあ、可愛い女の子に告白されて嫌な奴はいないだろう。しかも憧れに近い存在の人からの告白だ。

だけど、嬉しい半面何処か心の中でモヤモヤしたものが生まれてきたのがわかった。


その手紙に書かれていた約束の場所へ向かうと、その子が一人佇んでいた。その後ろ姿は初めて会った時の彼女と何処か似ていて、なんでこんなタイミングで彼女を思い出すんだ?と不思議に思った。

目の前の子は僕が来たのに気づいてこちらを振り返って、微笑んだ。


『手紙…読んで頂けましたか?』


「うん」


『…ここに来たって事はお返事がいただけるんですよね?』


「うん」


不安そうな瞳が僕を射抜く。彼女の思いは嬉しい。1年の頃から僕を好いてくれていたっていう彼女の言葉は、嘘ではないんだろうとその姿勢や目でわかる。以前の僕だったら、喜んで彼女と付き合っていただろう。でも、今の僕にそんな気持ちはない。


「ごめん。付き合う事は出来ません」


少し躊躇いながら言うと、一瞬泣きそうに潤んだ瞳が閉じられる。そして、目の前の彼女は綺麗な笑みを浮かべた。


『わかってたんです。こうなるんだろうなーって』


「どうして?」


『だって、1年の頃と全然違うんです。言葉使いとか態度とか。それを変えるきっかけになった人がいるんだろうなーって薄々気づいてました』


その言葉にちょっと苦々しい思い出を思い浮かべて、から笑いが出てしまう。

あんな性格の人と話してたら嫌でもこちらの性格が変わるものだと思う。実例がここにいるんだし。


『…それって、たぶんですけど、好きな人ができたんじゃないのかなって』


小さな声で呟かれた言葉はしっかりと、僕の耳に届いた。そして僕の心に突き刺さった。

その言葉を何度も頭の中で繰り返して、思い浮かんだのは『彼女』の笑顔だった。

そこでようやく納得できた。そうか。


僕は彼女が好きなんだと。


でもそう思った途端胸が苦しくて、切なくて、少し震えた声で自分に言い聞かせるように言った。


「……うん。でも、好きだって言うつもりはないんだ。叶いそうにないから」


だって、彼女は既に死んでいる。僕が告白すれば下手すれば彼女をこの世に引き止めてしまう理由の1つになる可能性がある。彼女は心配性だから。

そう言うと、頬に強い衝撃を受けた。頬を叩かれたと気づいたのは目の前にいた子が、僕の首元を掴んで叫んだからだ。


『私だって!叶わないと分かっていて告白したんです!!私があなたの心にいないと分かっていても、勇気を出して告白したんです!叶わないって思っていても、行動に出さないとどうなるかなんてわからないんですよ?!』


「え」


『もしかしたらその人だってあなたの事が好きなのかもしれないじゃないですか!』


「か、彼女は遠い存在なんだ。それに僕のことなんて…」


『遠い存在だって構わないじゃないですか!ただ好きだって言うだけで、変わることだってあるんですよ……私だって、それを少しだけ期待してたんですから』


最後の言葉はもう涙声でかすれかすれだったけれど、彼女の言いたい事は伝わった。そして、これだけ想っていてくれたのかと思うと、僕は少し彼女の身体を抱きしめ頭を撫でた。

僕も、覚悟を決めないといけないのかもしれない。


「ありがとう。僕を好きになってくれて」


『…っ!』


瞳から涙を零しながら震える彼女は、僕の身体から離れると小さく『行って…ください』と呟いた。

その言葉にしっかりと頷き、もう一度「ありがとう」と言うと、後ろを振り返らないように走った。後ろから女の子の鳴き声とそれを心配する声が聞こえてくるけれど、僕は走り続けた。





雪が降るほど寒いのに防寒具を一つも付けず、鞄を掴んで僕は必死に走った。

彼女に逢いたくて。彼女に一言好きだと言いたくて。

彼女がいつもいる桜の樹が見えてきて、彼女の姿が見えたと思ってホッとしたのも束の間、彼女の体が薄くなって空中へ溶けていっているのが見えた。瞬間、僕は鞄を投げ捨てて彼女を抱きしめた。

まだ彼女の体に触れられる。だけど、その髪が、肩が、腕が紐を解く様に端の方から消えていっている。


「待って、まだ行かないでっ」


『ふふっ珍しく慌ててるじゃん。いつか来ることだって思ってたから心配しないでよ』


「だってっ!僕まだ、お礼も何も言ってない!ちゃんとお別れしたかったのに、なんで急にこんな形でわかれなくちゃいけないんだよぉ!!」


泣き叫びながら必死に彼女の身体を抱きしめていると、彼女が笑っているというのがわかった。

そしてぎゅっと僕を抱きしめ返してくれる。彼女の体の温かさ伝わってくる。これで最後だなんて思いたくなかった。

だけど、彼女は別れを告げるように少しずつ自分の事を話し始めた。


『思い出しちゃったの、私が死んだ理由。未練っていうのかな?しかもそれが叶っちゃったから成仏してるんだと思うんだ』


彼女は僕の腕を剥がして少しだけ距離を置くと、僕の頬を両手で包んだ。もうその手も消えかけている。

涙を拭うようにしてくれてはいるけど拭えなくて彼女は苦笑いをした。


『私ね、生きてる間に1回も恋を知らなかったの。いつも恋とか愛は全部本の中の物語だと思ってた』


僕が呆然と話を聞いていると、彼女は少し照れながら僕の額にキスをした。

その感触は柔らかくて、彼女が僕に触れたのだと気づくまで数秒思考が遅れた。


『私それが知りたかったの。死んだことに後悔はなかったけれど、それだけが未練として残って、こんな形になっちゃってたの。でも、座敷君が教えてくれた。異性を愛しい、好きだって思う気持ち』


照れながら微笑む彼女はもう既に下半身が消えていた。僕は涙を流しながらもう一度彼女を抱きしめた。

今度はすぐに抱きしめ返してくれた。そして彼女も僕と同じ様に泣いた。


『大好き、です。わた、し、生きて座敷君に、逢いたかった。一緒の時間を生きたかったよぉっ』


「僕も好きだよっ。最初から僕を認めてくれて、僕を変えてくれたのは君なんだよ!もうこれでお別れなんて、嫌だっ!」


彼女の体がどんどん空中へと消えていく。抱きしめている感触まで消えてく。それはもう彼女の存在がこの世から無くなってしまうということだ。

それが僕の心に重くのしかかってくる。でも彼女をこの世に留める方法はもう無い。もう生きている僕には何も出来なかった。


『ねぇ座敷君。私ね、幸せだった。今までの人生で君と過ごした日々が一番、幸せだった』


「僕も幸せだった。絶対に、忘れないから。死ぬまで忘れてやるもんか」


『ふふ、嬉しいなぁ…。じゃあこのリボン、約束の印ね』


そう言って彼女が僕の手に巻いてくれたのは、彼女の制服についていた赤いリボンだった。

巻かれたリボンを握り締め、僕が涙でぐしゃぐしゃになった顔に無理やり笑みを浮かべると、彼女も笑顔になった。

そして、どちらからともなくキスをした。彼女の存在を忘れてしまわぬ様に。


『…嬉しい。ねぇ、忘れないでね、私の事』


「忘れないよ。絶対に」


『私、絶対頑張って生まれ変わってくる。そしたら、見つけてくれる?』


「最初の時みたいに見つけてあげる。じゃあその時にリボンを返すよ。でも生きてる間にしてよね」


『わかってるって。あっ、名前言ってない!』


「あっ」


そういえばあだ名とかは言ったけれど、本名を教えてもないし教えてもらってもいないのに今気づいた。

僕たちは慌てて別れる時に自己紹介をしあった。僕ららしくて、いい別れ方だったと思う。


遠月(とおづき)彩音(あやね)です』


海田(かいだ)(しゅう)です…また、会おうね」


今度は無理やりじゃなく、自然な笑顔で彼女をもう一度だけ抱きしめる。もう肩まで消えかかっていたけれど、ちゃんと抱きしめた。

彼女は頷いて、幸せそうに目を閉じて空へ消えていった。もう腕の中に何も無い。

彼女は本当に消えてしまった。そう思うと、涙がどんどん溢れてきて僕は彼女のくれたリボンを握りしめながら泣いた。大声で、泣いた。

そんな僕に笑いかけるように、花びらが舞う。今まで咲かなかった桜の花が、満開になって僕の上に降り注ぐ。雪と一緒にピンクの花びらが地面へと落ちていく。

僕はその花びらも握り締め、彼女が居た場所へ泣き崩れた。


帰りが遅いと連絡があったのか、唯一彼女の事を相談していた親友たちが僕を迎えに来てくれたけれど、僕の姿と満開の桜を見て、何も言わずに傍に居てくれた。

それがとてつもなく嬉しかった。結局僕は泣いて声が枯れるまでそこで泣き続けた。

それはもう親友たちの笑いのネタになるぐらい泣いた。今思うだけでも恥ずかしい。










あれから10年以上の時が過ぎた。もう僕も30代だ。親にも妹にも誰か見つけて結婚しろよと言われるが、僕はそんな気さらさらない。

だって、彼女以上に好きになる人が出来ないのだから仕方ないだろう。

今日もまたいつものスーツに着替え、仕事に行く日々だ。あれから僕は大学へ進学し、卒業して高校の教師になった。医者になっても良かったんだけど、あの桜の樹を時々見に行ける場所がいいと思っていたんだ。

彼女と別れた日から桜はずっと咲き続けたままだ。今では僕たちの秘密の花見場所として活用していて、今でも時々訪れている。


そういえば、高校のあのアイドルは高校を卒業した後に、海外へ行った。結婚式を挙げるために。

実はあの告白がうまくいかなかったら、親の決めた婚約者と大人しく結婚すると決めていたらしい。それを後から聞かされた僕としては複雑な気分になったが、彼女自身がそう決めたのだから口は出さない事にした。今では時々婚約者と一緒に遊びに来てお見合い写真まで持ってくる始末。もう一人の母親が出来た気分だ。


「心配してくれてるんだろうな…」


だけど、僕の気持ちは変わることはない。ってこんな暗い気持ちで学校へ行ったら生徒に心配されてしまう。

彼女がくれたリボンをつけた車のキーを掴み、鞄を持って急いで学校へ向かう。

今日は入学式だ。新しい生徒が入ってくる。そのために早めに出て教室を掃除するために、朝早く出勤するんだ。

職員室へ向かうと、まだ先生でさえ来ていないはずの時刻に職員室の前に人影を見かけた。しかも女子生徒のようだ。珍しいこともあるもんだ。

まだ日が昇りきっておらず暗いせいか顔が見えにくい。その生徒がこちらを見た。


「そのリボンそこに付けたんだ。うん、まぁ座敷君にしてはいいんじゃないかな?」


「は?」


このリボンについては親友にも話していないのに何故この子は知っているんだ?しかも高校の時のあだ名…。

そこまで考え、一度車のキーのリボンを見て、ハッと思い出した僕は生徒の方へ向き直った。自然と涙が溢れてくる。

困った表情を浮かべながら、彼女は僕へ近づいてきた。そして頬に手が伸ばされる。それを僕は握り締めた。


「最初に僕が見つけてあげるって言ったじゃないか…っ」


「んーそれはごめん。待ちきれなくなっちゃった!」


「くっそ…なんか悔しいなぁ」


「ふふふ~悔しかろう悔しかろう」


そう言って笑う彼女は、あの時の彼女のままで、ただ一つ違うのは真新しい制服を着ていることだけ。僕は嬉しくなって思いっきり抱きしめた。

突然のことでびっくりしたのか受け止めきれず、彼女が後ろへと倒れる。慌てて彼女を庇うように抱き抱え廊下へ倒れると二人して大声で笑いあった。

散々笑って、その顔に触れる。確かにそこに彼女の顔があった。


「もう幽霊じゃないよ」


「うん、生きてる」


「そう、生きてる。でね、また会えたら言おうと思ってたんだけどね」


「ん?」


「私と結婚してください」


「ちょっと待って付き合うの通りこして結婚してくださいって色んな意味でおかしいよね」


「え、いいじゃん」


「いいじゃんじゃなくて今の僕の立場考えてくれますか!?僕先生君生徒!」


「大丈夫!私が先生の婚約者だーって言いふらせばいいだけだから」


「僕の体裁考えてないよねそれ?!」







後々、僕はこの申し出にOKしてしまうのだけれど、もう幽霊の彼女はいないし座敷童子の僕もいない。

その話はまた別の機会にでもしようかな。





実はこのお話の主人公である少年のモデルは兄です。

兄が実際に高校で呼ばれていたあだ名で思いついたお話です。

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