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予兆

首輪を付けられて2ヶ月弱。オレは専ら副会長相手に躍起になる日々が多い。

「とぉーー」

飛び蹴りを咬ましてくるのは相変わらずオレも慣れてきて反撃するようになっていた。

「食らうかッ」

そんなやり取りが大体挨拶みたいになっていた。それを止めるのはいつも啓作だ。

そして、それを冷やかに見ているのが生徒会長。こんな構図が大体だった。

傍から見ればくだらないだろう。そんな日々を繰り返し始めていた。

「───今日は放課後に身体測定がある。各自体操着に着替えたうえで放課後は残るように」

突然だった。とは言え、時期を考えれば当然なのだろう。

ホームルームで言われた事に期待やら不安やらを抱える。

啓作はいつものように心此処に在らずと言う感じであまり反応が無い。

ただ気がかりなのは放課後と言う事だ。

またマルの餌が無くなっているなんて事になりかねないだろう。そう思った。

(そういえば中学卒業する前に計ってから身長伸びたんだろうか・・・)

意識はしてなかったがふとそう思う。身体だけでかくなっているなんてオチは願い下げだったからだ。

そんな事を思っている間に一時限目のチャイムが鳴り響く。

一時限目はあまり好きになれない科目の一つ・・・歴史だ。

オレの頭はこれだけで大概オーバーロードしがちになる。

なんとか切り抜けたと思ったら二時限目はまた好きになれない物理学だ・・・。

これでオレの頭は持たないそう思った。

三時限目が体育でよかった。オレにとってはリフレッシュするのに一番いい。

しかし、一度オーバーロードした頭はすぐよくなる訳じゃなかった。

休み時間、オレは生徒会・・・厳密には生徒会長に呼ばれる。

「オマエは放課後に身体測定の手伝い、確定事項なので確かに伝えた。それと参加部活の申請が来ていないがどうするつもりだ?」

オーバーロードしているせいでちょっとフリーズしている。すぐに答えが出ない。

「まぁいい。オマエが部活に参加しないのであれば生徒会の仕事をさせるだけだ」

そう言って書類を何枚か渡された。何が書いてあるかは思考が鈍ってて理解出来ない。

書類を貰うとチャイムが鳴った。のろのろと教室に戻る。しかし、誰も居ない。

正確には出遅れた。四時限目は音楽で教室移動だったのをすっかり忘れていたのだ。

オレは書類を机の中にクシャクシャに入れて急いで音楽室に向かう。

先生は何も言わなかった。いや、先に根回しされていたからなのかも知れない。

生徒も誰一人オレを気にせずに授業を受けていた。もはや、オレが呼び出し食らうだとかは当たり前になっているのかも知れない。

ただ、一人生暖かい目が見る奴がいた。啓作だ。

何かを勘繰る様にオレを見る目は何処か怪しく輝いている。

教室を移動した場合の席は啓作の隣になる。それだけにその目が物凄く気になった。

取りあえずそそくさと席に着く。すると啓作からメモを渡された。

(ん? 「どうせ、放課後の身体測定は手伝うようにって事だろ?」)

オレはメモにYESと書いて返す。すぐに返事を書いて渡された。

『麒代は部活、どうするんだ? その事も生徒会長に言われたんだろ? 俺は新しい部を作る事に決めたんだが・・・』

既にお見通しのようだ。が、啓作がそんな事を考えてるとはオレにも分からなかった。

どう返事していいのか分からない。そしてそのまま授業が終わった。

(・・・部活か・・・)

誰かとやりたい部活も無ければ一人でもやりたいと言う部活も無かった。

(やりたい事が無ければ啓作の部活の手伝いでもしてればいいか・・・)

中学時代と比べるとオレは活発的ではなくなってしまった感じがする。

それでも、退屈はしてない。よくも悪くも生徒会長の影響だ。

決して抗う気持ちが鈍ったわけではない。

そして、感傷に浸っているわけでもないが考えさせられるハメになってしまった。

オレは何処か諦めていたのだろう。少し思い知らされた気分だった。


「───で、どうするかだな・・・」

オレが啓作の部活に、と言う点で一つ決めかねている事があった。

いや、オレが気にしているだけかも知れないのだが・・・。

啓作の過去、オレが入ると言う事は少なくともそれを話される機会がいつか必ず訪れると言う事だ。

それを受け止められる覚悟がオレには無い。無いと言うより知って啓作が距離を置き始めるのが怖かった。

そして何よりオレ自身が距離を置くのが怖かった。

親友とは思っているが実際には言ってる事自体よりはまだ友達と言う感じだ。

数少ない友達を失うのはあまりしたくはない。

でも、知りたいと言う気持ちもある。それで絆が深まるならばと考えればだ。

相反する考えでオレは板挟みにされている。少なくともこの昼休み中は。

カレーパンとコーヒー牛乳を食しながらもオレの頭は少なくとも啓作の事でいっぱいだった。

「トクマキー」

副会長がオレを見つけてなのか広場から屋上のオレを呼んでいる。

近くには啓作も居た。生徒会長は居ないようだ。

なんと言うか啓作は少し重たい顔をしている。

オレがあのメモの返事をしていないのが原因なのだろうか・・・?

それとも、『啓作の過去』の事でだろうか?

どちらにせよ、オレと啓作の間に少しだが深い溝を感じていた。

いや、それ以前に見ている高さが全然違うか。と思い直す。

オレは上を見て啓作は下を見ている。屋上と広場の話ではなく見ている方向と言う意味でだ。

その時点ですれ違いはあるのだろう。

それでも、ここまで何かと協力してくれる啓作。それはあいつが世話好きだからとかそういうものじゃないだろう。

多分、もっと別の何か───。そう、例えるなら波長が合ったと言うべきか。

その啓作が今は重い顔をしている。

過去を打ち明けられなかった事によって自分で抑えようと必死になっているからだろう。

そして、部活を作ると決めてオレに入って欲しいと願い、それが叶うか叶わないか分からないからなのだろう。

・・・今のオレでは弱い気がした。今のオレでは啓作から支えられる事はあっても啓作を支える事は出来ない。

屋上に居るオレと広場に居る啓作との距離や高さ、心の溝などを含めてオレはまだ同じ立場には居ない。

それどころか知る事を恐れて逃げている。

結局のところ、オレが原因で啓作に重い顔をさせているのだと思うと苦しかった。

お互い何も言わずに屋上と広場で目が合わない。言葉も出ない。

副会長はそんなオレ達を不思議そうに見ていた。

ちょっと目を背ける。すると生徒会長が広場に向かっているのが見えた。

「せ───・・・」

呼んでも良かったがなんか声を掛けづらい雰囲気を出している。

啓作を見つけたのかそっちに向かっていくのをオレは見ているしか出来なかった。

「ひふみーん」

「────」

「────」

副会長のでかい声だけは聞こえる。が、啓作と生徒会長の声は聞こえない。

何を話しているかは分からない。ただ、遠目で見る限りで分かるのは啓作が逃げようと身構えているくらいだ。

「何故、逃げるッ!!」

生徒会長の怒声に周りの生徒達も驚いて見ている。余程、珍しいのだろう。

特に上級生の数人は驚いて腰を抜かす者まで居る。

オレが知る限りでもあんな大きな怒声の生徒会長は知らない。

「啓作ッ、君はッ・・・。君は────」

怒声ではあったが少し冷静さを取り戻したのか生徒会長の声はまた聞こえなくなった。

「俺はそれに従えないッ。だからッ!!」

啓作もオレが今まで啓作から聞いたことがない大声で反発している。

何があったかなんてオレには分からない。生徒会長と啓作と言う組み合わせからしてもオレが想像もつかない世界なのだろう。

『従えない』という事は生徒会長に何かを強いられたのだろうか?

それもこれもあの時オレが止めた啓作が話そうとしたであろう過去の話に関係している事なのだろうか?

そんな余計な事を考えてると啓作が何処かに行ってしまったらしく見失った。

生徒会長と副会長は何か深刻そうな顔をしている。

「やっぱ、捌け口は必要だよな・・・」

ツライ事をツライと誰かに言いたいと言うのはオレにも経験があったからよく分かる。

「親友・・・として認めているから話そうとしたのか・・・?」

受け止められる自信は無くても聞くしかない状況が迫っている気がした。

啓作が自然に話してきたならオレは・・・オレは受け止められるだろう。とそんな気もしていた。

キーンコーンカーンコーン──。

「やばい、昼飯途中だった」

慌てて食べ、少し喉に詰まらせつつもコーヒー牛乳で飲み込んで急いで教室に戻った。


五時限目、頭を使うのが嫌なオレにとってはまたも嫌な科目の一つの数学だ。

「ここの数式は───であるからして、イコールになる───」

嫌いな方の科目で先生の言葉はほとんどオレの耳に入っていない。

それよりも目の前に居る啓作の背中ばかり見ていた。

(オレが聞いてはダメだ・・・啓作から自然な形で言わせないと・・・)

もはや授業よりも啓作の事で頭がいっぱいになっていた。

過剰過ぎる・・・のかも知れないが啓作の事は知りたい、そして助けを求められているなら手を差し伸べたい。

正直、オレに何が出来るかは分からないが。

それでオレも自然な形で・・・過去を話せればいいのだろう。そう思った。

オレの過去なんて啓作や他の人に比べれば大したものではないだろうが。

それでも啓作の過去を聞いてオレが過去を話さないのは何か違うと感じた。

「──徳間? おい、聞いてるのか? ここ答えろ」

先生に言われてオレは啓作を気にしつつも立ち上がり黒板の数式を解いていく。

実際にはこの数学の答えも啓作の重い顔の理由の答えも分からない。

だけども、オレは足掻くしか出来なかった。それがオレが出来る精一杯・・・のはずだ。

「徳間、どうも分かってないようだから戻っていいぞ」

先生に言われて気付くと黒板は数字か何か分からない物を書いていた。

『あれ』だとか『これ』だとか書いている。自分で見ても心がどっかに行っているのが分かるくらいだ。

啓作以外の生徒に笑われながらもオレは席に戻るとまた啓作の背中をじっと見ていた。

意識しすぎで自分でも変になっていく感じだ。

こんなのがまだ続くのかと思うと啓作の苦しみも少しは分かる気がした。

普通の人間なら音を上げても収まらないだろう。

オレは音を上げるつもりは無いがそれでもこれは耐え難い苦しみだ。

こんな気持ち啓作も味わっているのかと思うとやっぱり胸の奥の方が苦しくなった。

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