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休日子犬物語

ある日曜の昼間。オレの目の前には子犬が居た。

「うっ…そんな目でオレを見るんじゃねぇよ…」

空き箱に入れられて座り込んでいる子犬。

明らかに捨て犬だろう。しかも、拾ってくれと言わんばかりの目をしている。

それにオレは困っていた。

時間は少し前に戻る。


休日と言う事もありオレは家で寝ていた。

「だるい…」

副会長に会ってからというもの脅されては働かされる日々で中々休みなんて無かった。

今日までに分かったのは生徒会長そのものは首輪は付けたものの特に命令するわけでもないと言う事。

副会長は対照的に命令してくると言う事。

電流スイッチの有効範囲は15mと言う事。電波が届かないところでは電流スイッチは使えないと言う事。

基本的に危険視するなら生徒会長よりも副会長だ。

「生徒会長が指示を出さないなら首輪なんて要らないだろ…」

そんな事を寝ながら考えていた。

テルルルルルルル。ずっと横になっていて二度寝をしようとしていた時に携帯が鳴る。

「はい…もしもし…?」

「トクマキー午後一で学校に集合」

半分以上寝ぼけ眼で電話に出ると嫌な声を聞いてしまった。

「オレ─」

「あ、これは強制~以上だよ」

ブツっ。言うだけ言って切られた。

しかも、何をやるかも聞いていない。

しかし、行かなければ翌日に電流の刑が待っている。

仕方なく起きて顔を洗いに行く。

正午まではゆっくりボーっとしていた。

「そろそろ出るか…」

だるい体を引きずりながらオレは家を出て学校に向かう。

途中の電信柱近くに箱があった。

興味本位で開けてしまって今に至る。

「ワン」

「うわっ鳴くな」

周りの目がオレに向けられている。

この状況非常にマズかった。

仕方なく箱ごと子犬を連れて行くことにした。


学校に着くと生徒会長と啓作がいた。

「えっと…」

オレが言葉を探していると生徒会長が説明してくれた。

「時雨の呼び出しです。いつもの事なので気にしないで構いません」

横の啓作を見ると呆れ顔で諦めていた。

「にしても、その箱なんだ?」

啓作がオレの持っている箱に気付いた。

中を見せてやると少し心配そうな顔をされた。

そんな事をしているのに肝心の副会長がいない、と言うよりは来ない。

生徒会長も呼び出している以上、何かやる事は間違いないはずだ。

「ワン」

また子犬が鳴いた。

何を言いたいのかは分からないが鳴いたと思ったら箱の中で暴れ始めた。

「暴れるなッて、落としちまうだろ!」

オレは箱を落さないように必死になった。

啓作も生徒会長もそれを微笑ましいというような顔で見ている。

「トクマキー、それ何?」

何処からともなく現れた副会長はニコニコと不気味だ。

「途中で拾ったんだ。周りの目があって仕方なく…」

軽く説明すると副会長はオレからいきなり箱を奪った。

「んじゃ、この子は後で誰かに引き取ってもらうとして…」

副会長はそのまま箱を地面において呼び出した理由である事を実行しようとしていた。

「今日は──」

「時雨、そこまでです」

副会長が何か言いかけた途端に生徒会長がいきなり割って止めた。

「オマエもいい加減遊ばれてる事に気付いたらどうだ?」

オレに対して指差して言い放つ言葉は副会長に対する言葉とは別だった。

「そ、それは分かってるって!」

ちょっと意地張ってしまった。

途端に空気が重くなり静まり返る。


「ワン」

静寂を破ったのは子犬の鳴き声だった。

「…今日やる事は僕が決めます」

生徒会長が副会長を差し置いて命令を出すのは珍しい事だ。

オレは意地を張りながらも耳を傾ける。

「えー今までボクが決めてたじゃん」

副会長は不服そうだ。

「それは時雨が勝手にやっていた事だったはずです」

それを聞いてオレは愕然とした。

副会長の命令は全て気まぐれだったのかと。

「今日はこの子犬を引き取ってくれるところを探します」

オレや副会長を無視して話を進める生徒会長。

その姿はいつもの生徒会長とはまったく違っていた。

「俺は降りますよ」

啓作はノリ気じゃないのか帰ろうとしていた。

「待てよ、啓作。お前はなんで今日来たんだ?」

啓作の肩を掴んで尋ねた。

「別に…何もすることなかったから来ただけだ」

振り向いた啓作の目は虚ろで本当に退屈だから来てみただけと言う事を物語っていた。

「…じゃあ従う事も無かったんじゃないか?」

「従う従わないは俺の自由じゃないのか?」

「それはそうだけどな…。面倒に巻き込まれるって分かってただろ」

別に争ってるわけでも無いけど空気はどんどん悪くなっていく。

「面倒って思ってるのは麒代だけだろ?」

啓作の言い方からは暇つぶし程度に思っている事が窺える。

が、どの道面倒になるのが生徒会だとオレは思っていた。

「そこ二人、僕の話を聞け」

生徒会長がややキレ気味でこっちを睨んでいる。

「とにかく、この子犬を引き取ってもらう事が今日最大の目的で──」

長たらしい説明を受けたが、ようは一軒一軒当たるという事だ。

重々しい空気とやや険悪な雰囲気をまとってオレ達は子犬を連れて行く。

愛らしい瞳と小柄な体型からはどんな犬種かは分からない。

ただ、この子犬を引き取るのは多分、オレ達4人の誰かになるだろう。

そんなことを思いながらオレは最後尾を歩いていた。

「トクマキー、君が先頭を歩くんだよ?」

いきなり復活したかのように命令して先頭に引きずり出そうとする副会長。

オレは反発してもがく。すると箱の子犬がオレによじ登ろうと暴れる。

「うわっ」

「あっ」

案の定倒れた。しかも、オレが下で副会長が上で間に子犬と言う不思議な状態だ。

「このまま唇でも奪う?」

そう言って副会長の顔が迫ってくる。オレは雰囲気的なものに内心ドキドキしていた。

パシンッ。その音でハッとすると生徒会長が副会長の頭を叩いていた。

「バカな事をしている暇はないはずですが?」

かなりキレているのか不機嫌な生徒会長。副会長の首根っこを掴むとズルズルと引きずる。

オレは残念感とともに生徒会長が副会長に抱く思いも少し感じていた。

「何をしてるんですか? さっさと行きますよ」

そう言いながら生徒会長は先頭を歩き出す。

オレは子犬よりもこのモヤモヤした気分をどうにかして欲しいと思っていた。


「すいません、───」

1件、また1件と訪問しては頼んでみた。頼むその度に断られた。

生徒会長はイライラしているのか腕を組んで地鳴らしをしている。

副会長はと言うと子犬を撫でたり、オレにちょっかいを出したりしては生徒会長に怒られると言う事を繰り返していた。

10件程回った頃だろうか。副会長が生徒会長の体を触りだした。

「時雨、な、何をするのですッ。」

副会長は生徒会長の服の中から電流スイッチを探り取り出していた。

そして、そのスイッチを勢いのままに押す。

パチッ。オレの首に電流が流れ出す。

「イ、いてっ、痛ッ、ってぇ」

断続的にしかし連続で来る静電気並の電流にオレは勝手に言葉を発していた。

「あ、ゴメンゴメン。でも、いつ見てもトクマキーの痛がる姿は面白いよ」

笑顔で毒舌を吐くこの人はどんなに天使のような笑顔を持っていたとしても悪魔なのだろうとオレは思った。

無言でスイッチを取り上げて切る生徒会長。副会長は不貞腐れる。

そんな事を何度か繰り返してやっとの事で1区域分頼み終わった。

空は夕暮れから夜を告げようとしていた。

「…そろそろ、時間的に頼めないですね…」

「あ、じゃあしばらくこの子はトクマキーが世話するって事で、ね?」

生徒会長がボソっと言うと副会長がオレに子犬を強引に押し付けてきた。

「ぁ、ぇ?、ぇ! オレが面倒見るのか?!」

困惑するオレに副会長は黒い笑みを浮かべるだけだった。

しばらく無言でいた啓作に助けを求めようと見たが眠そうに目をこすっていた。

「啓作っ…には頼めないか」

あまり子犬に関わろうとしない啓作に預けても心配には心配だった。

副会長に預けるのは尚更心配だ。

「…俺…帰ります…」

体調が悪いのかその一言を言うと啓作はふらふらと帰り始めた。

「…取りあえず、解散します。犬に関しては元の場所に戻すも良し、今夜泊めるも良し、判断はオマエがすることです」

そういうと生徒会長も帰ってしまった。

副会長は完全にオレに預けるつもりでいるらしく生徒会長について行ってしまった。

「どうするか…」

ボソっと呟いて子犬を見る。

とてもじゃないが元の場所にまた捨てると言う事はオレには到底出来そうになかった。

「仕方ない…」

オレは子犬の入った箱を持って誰も居ない道を歩く。

もうこの子犬をオレが飼う事は決定したも同然だった。

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