主従関係とは
オレが考える主従関係、それは今のような扱いは絶対にない。
と言うのも一部の映画とかでは主従関係と言えばメイドあるいは執事とご主人様。
もしくは奴隷と使役人みたいな関係だと思っていたからだ。
しかし、オレは首輪はされているとは言ってもある程度の自由が許されている。
今のところ、オレと生徒会長を主従関係と言う言葉に当てはめるなら首輪をして庭で放し飼いにされている犬とそれを見守る飼い主と言う感じだろうか。
が、昨日の電話で主従関係の有り方を変えると言うような話が出た。
放し飼い状態から躾をすると言うような段階なのかも知れない。
とは言っても昨日の段階ではとりあえず説明みたいなものをされた程度だった。
まぁあんまり分からなかったと言うのが現実なのだけども。
「さて、オマエにはそろそろ僕の家に通ってもらおうと思っている」
これが昨日の説明の最後に言われた一言だ。
それで今日の放課後に九家の屋敷に来るように言われてる。
警戒はしている。何を躾けられるのか知らないし厳しいのか甘いのかも分からないからだ。
ただ、オレが考えているような主従関係に・・・と言うのであれば多分オレは向かない。
オレが執事・・・主人と喧嘩ばかりするような執事にでもなれって言うんだろうか?
奴隷みたいに扱き使われて捨てられる・・・と言うのは人道的に無いだろう。
授業中に考えているとは言っても考えは迷宮に入ってグルグルと渦を巻くだけだった。
(どうせ、考えても分かりやしない・・・)
ならば行動で確認するしかない。・・・問題は賢が一緒に来る可能性。
<あいつ>が居るだけで確実に問題しか発生しなくなる。ジンクスとでも言っても過言ではない程。
それはそれで頭が痛い。・・・賢の事を考えるのは良くないな。イライラしてくる。
オレは別に生徒会長は嫌いじゃない。最近はそう思う。
それでも納得がいかない事も多いからぶつかる事も多い。多分それは今後も変わらないだろう。
それで今の放し飼いの犬と飼い主と言うような主従関係から変わるとしたらどんな主従関係に変わると言うのだろうか・・・?
キーンコーンカーンコーン──。授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「───では授業を終える。後で宿題を出すのでやってくるように」
「起立、礼」
授業が終わると同時にオレは屋上へと向かう。
頭が茹っている感じで頭を冷やさないとよくないと思ったからだ。
階段を登る時に副会長と出会った。
と言っても副会長はオレに気付かなかったのか横を素通りされてしまった。
「いつもなら絡んで来るはずなのに・・・どうしたんだ・・・?」
すれ違って振り返って見送りながら呟いてしまった。
らしくない。いつもは嫌なのにそのいつもが無いだけでなんか違和感がある。
多分それだけ慣れすぎたんだろう。
副会長が見えなくなる前にオレは上へ上がる。
屋上のドアを開けて出ると寒気の冷たい風がオレを襲う。
「うぅぅぅ・・・頭冷やす気で来たが寒すぎるか」
しかし、戻っても迷宮で彷徨うだけな気がした。
「そういえば前に秘書だか云々とか言ってたっけ・・・」
そういう主従関係なのだとしたらオレは何をしなければならないんだ?
普通に秘書と言えばスケジュール管理が主だった事。
生徒会長に限って言えばそれは多分自分でやってるだろう。
他には・・・雑務? それは今までと変わらないか。
やっぱり分からない。主従関係の有り方の変化って何だ?
「ここに居たんか」
振り返ると義一が居た。
「なんや知らんけど授業中もなんだかんだで考え事してたやろ?」
オレは頷く。バレていたか・・・と言うよりそこまで深刻そうな顔をしていたのだろうか?
まぁ・・・バレていようが変わらないんだが。
「なぁ・・・主従関係の変化って何だと思う?」
何を思ったのかオレは義一に尋ねた。
「さぁ?」
即答されてしまった。考える気が無いんだろう。
ただ、オレはオレが思っている以上に主従関係の変化と言うのを意識していると言うのは気付いた。
この首輪の事も含めてオレは受け入れ始めている・・・んだろう。
まだ納得は出来ていない。オレの気持ちも在り方も操られているようで。
「まぁ麒代が悩む程の事では無いと思うんやけどなぁ」
義一的にはオレが考えても仕方ない事だと言いたいんだろう。
それでも、オレは考える。流されるままでいいのかと。
嫌々やってたはずの主従関係に慣れている現状を受け入れていいのかと。
それに対立する為に作ったはずのキョウゲキ部はどうするのかと。
「そういえば最近キョウゲキ部の活動してなかったな・・・」
不意に思って口走る。しかし、既に義一は居なかった。
虚しく消える独り言、それをこの冷たい風は無かった事のようにかき消す。
「ハックシッ、頭だけでなく身体も冷えてきたか・・・」
頭が完全に冷えたか確認する必要は無かった。
オレの頭で考えても到底理解が出来る程簡単な事ではなかったし無駄な努力だったと分かったからだ。
それでも、一つ感じるのはオレと違って義一はあんまり危機感が無いって事だ。
まぁ啓作はこの件に関しては無関心かも知れないな。
オレを心配して話しかけるでも無いし義一に探りをって言う感じも無かった。
それはそれとしてだ・・・。
「主従関係が変わってオレはどうなるんだ・・・?」
結局、オレは迷宮の入口に戻ってきている。バカだ。
そうやって、思考の迷宮を彷徨っている間に時間は過ぎて・・・。
放課後になってしまった。
「啓作・・・今日は部活───」
「今日は無し。用事があるから。それじゃ」
急いで帰ろうとする啓作を呼び止めてすがる気持ちで今日の部活があるか聞いたがダメだった。
部活で少しでも先延ばしにしようなんてオレの考えが甘かった。
啓作を呼び止めている間に義一はとっくに帰ってしまってもう居ない。
今から九家に行くのか・・・。
「気まずい・・・」
窓から校門を確認する。賢は居ない。
居れば面倒になるだけだが今は居ない。
それでもこれから起こるであろう面倒を考えると賢が居ようが居まいが関係無いんだが。
「ブチったりしたら・・・後が怖いよな・・・」
独り言を言いつつ首に電流が流れる感覚を思い出して背筋がゾクゾクしてしまった。
これが快感とかになってたらさすがにヤバイがオレはそこまで変態じゃない。
正直言うとこの感覚は今でも気持ち悪い。
「うぅ・・・嫌なもん思い出した・・・」
最近は電流を流される事はほとんど無いがトラウマなんだろうか。
悪寒みたいに感じる。
それでも九家に行かないとこの感覚は現実になるわけだ。
それが分かっている以上オレにブッチする気力は出ない。
九家に着いて通されたのは五六さんの居る書斎ではなく、初めての場所だった。
雰囲気は落ち着いた部屋ではある。が、所々子供っぽいと言う感じがする。
部屋の主は生徒会長・・・? と言うには随分子供っぽい気もする。
生徒会長の部屋と言うよりはその弟か妹の部屋のような感じだ。
(生徒会長に弟や妹が居るなんて聞いた事無いんだけど・・・)
五六さんもそういう話をしていないし生徒会長もそういう話題を出さない。
だから、居るか居ないかって事は分からない。しかし、オレ的には居ないと思っている。
(もし、居るとしたら───)
───オレと生徒会長が主従関係としてそれとは別に主人になる人間が・・・?
ってオレは生徒会長に仕えてるわけじゃないから主従関係と言うのもおかしいんだが。
「~♪」
鼻歌が聞こえる。生徒会長ではない・・・他の誰かが来たようだ。
そして、扉が開いているこの部屋でお互いに出会った。
「誰だ?!」
相手が声を張り上げて警戒してくる。
「え~・・・っと・・・ボク、ここは君のようなガキんちょが来る場所じゃ───」
見た目でガキ扱いしたのが悪かった。オレはガキ扱いした直後に金蹴りを食らってのた打ち回る。
「誰がガキだと? それに人の部屋に勝手に入ってるオマエこそ弁えろ」
偉そうな口ぶりだ。イラっとくる。
「んだと?」
「やるか? ぁあ?」
喧嘩腰と言うよりも既に喧嘩が始まってると言ってもいいだろう。
しばらくお互いに睨みつけていた。
「義理兄さん・・・やめてください。オマエも辞めるんだ」
止めに入ったのは生徒会長だった。
「っつてもコイツから振ってきたんだ」
オレはガキ?を指差して言うが生徒会長は相手にしていないようだ。
必死になってガキ?を宥めている。
「・・・まずはオマエに説明を。
この人は九家の分家である十家現当主の十 九さんです。
見た目は・・・ですが、歳は19。僕より2つ、オマエよりは3つ上。年功序列的に言えばこの人がこの中では一番上です」
説明をする生徒会長ではある、けれどさっきの義理兄さん発言を思い出してオレは見た目等で逆だろうと思っていた。
「で、ひー。コイツは誰なんだ?」
オレへの説明が終わるとガキ?は生徒会長に説明を求めていた。
「えー・・・コレが義理兄さんの望んでいたものです・・・」
歯切れの悪い生徒会長は久々に見た。
そして、望んでいるものと言われてオレはなんとなく分かった気がした。
オレはこのガキのような見た目の人の下僕・・・あるいは手下・・・そんなものにされるんだろうと。
そんな事なんて手に取るようにわかるんだろう。
この十と言う人に不機嫌そうな顔をされた。
多分、お互いに不服と言うか納得出来ていない。
なら、なんで・・・と言う疑問が頭に浮かぶ。
ただ、理由は色々あるだろう。
生徒会長と同じ理由云々・・・。
それでも、この人と仲良くと言うのはムリな話だ。
よく知らないから第一印象で言うとオレとこの人は確実に合わない。
生徒会長ですらまだうまく行ってないと言うのに。
オレの性格だとかが問題だと言うのもあるだろうがそれ以前に色々耐えられない。
見た目がガキなだけにどうしてもそういう目で見てそういう扱いをしそうになる。
それは多分、この人も望んではいないだろう。
この人は多分、それだけに周囲の目を気にする。
部屋は・・・まぁこれは個人の趣味だからどうこう言える事じゃない。
が、体格とかの面で不遇なのをわざわざ実感させられると言うのは屈辱なはずだ。
それがましてやオレなんかだと余計そうなるんだろう。
オレは比較的には体格に恵まれている。頭は残念だが。
この人は直感かも知れないけれどそれを感じ取っている。
だから、気に食わないって印象がオレの第一印象として付いているはずだ。
加えて反抗的と来れば余計だろう。
正直に言うとオレなんかは望む望まないに関わらず生徒会長に絶対逆らえない。
首輪が原因と言ってしまえばそこまでだが何か別の理由もあるかも知れない。
どんなに嫌と言っても生徒会長の命令となればオレは・・・逆らえないだろう。
どんなに逆らう意志があっても、どんなに逃げたい感情があっても。
「手伝いが欲しいとは言った。だがな、ひー。コイツはダメだ。この反抗的な目もそうだが俺の築きたい主従関係のイメージとは違う」
「義理兄さんの築きたい主従関係とは?」
「そうだな・・・簡単に言うと俺が築きたいのは絶対服従、それに可愛い子でだな・・・」
可愛い子・・・あぁ、この人が欲しいのはメイドか。
とっさにそう思ってしまう程にはなんとなくこの人の願望って言うのが分かった。
可愛いメイドにチヤホヤされつつ手伝いされたい。
多分、こんなところだろうな。ってかオレもそれなら手伝いされたい。
しかし・・・まぁイメージと現実は違うんだよな。
メイドを希望したはずがこんなガタイのいい男だと・・・そりゃ気分も悪くなるよな・・・。
内心苦笑いするしかなかった。
「義理兄さんの要望するような人材なんて僕の手持ちにはいません。これで我慢してください」
モノ扱いされるオレもだがこの十って人もつくづく不運だよな・・・。
どんなに主従関係云々言おうがピラミッドの頂点にいるのは間違いなく生徒会長なわけで。
義理の兄とは言っても立場的には分家と本家じゃ本家に逆らえない。
そう思うと何処かこの人も哀れと言うか・・・主従関係ではオレと対して変らないのかもな。
とは言ってもだ。決定事項・・・だからってこの人の手伝いもしなきゃならないのか・・・。
憂鬱だ・・・。




