キョウゲキ部vs生徒会・組み手
一月騒動、つまりはオレと啓作がキスしたって話と生徒会長が普段は強がってる人って騒動が起きてから1週間。
オレ達キョウゲキ部は生徒会に呼ばれていた。
「で、用ってなんすか?」
強がってると分かればあまり気負いする必要は無い。
だからってちょっと今はだらけている。
そりゃだらけたくもなる程疲れているからだ。
「用と言っても簡単な事です。明日からキョウゲキ部と生徒会で合同の練習をします」
練習って言うと演劇とかか? いや、それはオレ達キョウゲキ部だけでいいはずだ。
だとしたら何の練習だろうか? 疑問が膨れる。
「んとね。普段なら生徒会のメンバーだけでやるんだけど護身術競技があってね。今回生徒会メンバーが不足してるから人数合わせでって事」
副会長が言うことはつまりは数合わせで武術の練習をしろって事だ。
「そんな事言われても競技の内容とかわからないんすけど」
当然だ。武術関連はド素人のオレ達が競技とかって言うの自体知らなくても普通なわけでそれを聞くも当たり前だ。
「んと、護身術だからあくまで自分の身を守る事が出来ているかが重要で武術の種類は問われないよ」
それはそれでおかしな話では無いか。
普通に考えても競技と言うのであれば何か特定の武術とかって言うのが普通だからだ。
しかし、オレらど素人の手を借りたいとは・・・。
対立関係とかも無視なんだろうか?
いや、そんなはずはない。
「オレらと生徒会は対立してるはず・・・なのに呼ばれた理由が手を貸せ? 冗談じゃない」
対立関係ならば対立関係らしく組み手で本気の勝負とかならば分かる。
けれど、競技で一緒と言うのは虫唾が───。
「まー競技って言ってもビデオ審査だし、学校でやるから問題は無いと思うよ?
それともやられ役はやっぱイヤ?」
やられ役・・・って噛ませ犬になれって奴か。
あぁ・・・それで呼ばれたのか。演技でやられと。
オレはノリ気にならない。何かイヤな予感もあるし、何より演技でもやられるって言うのは気持ちがいいものではない。
「オレはパスって事で───」
「そんな事させないよッ」
パスするのは分かっていたらしい。副会長のドロップキックが飛んできた。
オレは避ける暇すらなく伸される。
「・・・麒代が言うようにキョウゲキ部と生徒会はあくまで対立関係。演技とは言ってもこういうのは気が進みません」
啓作が改めて断りの言葉を発すると副会長も生徒会長も黙ってしまった。
「まぁそういう事や。なんや分からんけどワイも勘弁やな」
義一も啓作に便乗して断りの一言を言うとそそくさと生徒会室を出て行ってしまった。
残ったのはオレと啓作。
尚も生徒会長と副会長は黙っている。
「せめて対立と言う立場で言うのであれば今回のお誘いは・・・正直に無いと思ってます」
啓作は沈黙を破るように話をしだす。
オレは副会長に伸されてすぐに起き上がれると思っていたが押さえられてしまった。
「それに対立関係が無かったとしても俺は先輩に協力する義理も無ければ気もありません」
啓作は追い討ちをかけるように生徒会長を拒む。
「・・・この話はすぐに答えを出してもらうつもりは無いのですが・・・こうもすぐに答えを出されると困りますね」
生徒会長は珍しく困っている・・・ように見えた。
多分、対立しているから戦えと言うのも分かる。
噂だとかもあるから対決でもすれば消えると考えているのも分かる。
けれど、対立図が仮にも決まっている以上啓作も義一も協力する義理は無い。
オレもそうだが・・・首輪の件もある。迂闊に拒絶すれば伸されるか電気ショックって言うのが待っているだろう。
「とにかく、義理は無いので俺も失礼します」
啓作はオレを置いて行ってしまった。
残るオレは未だに副会長に押さえられている。
そのままオレは5分くらい沈黙した部屋で押さえられていた。
「・・・いい加減オレも開放してほしいんですが・・・」
声は虚しく部屋に響く。
どうやら二人とも沈黙しているようで考え事をしているようだ。
「・・・麒代だけを従わせて・・・しかし印象は最悪・・・になりますか・・・」
独り言のようにぶつぶつ言い出す生徒会長。
念仏の方がマシと思うくらいに生徒会長の独り言は恐ろしい内容を語っている。
「・・・ん~・・・トクマキーごめんね。今逃げられると後でボクが叱られちゃうんだー」
副会長はオレを未だに押さえてる理由を簡単に話してくれた・・・と言っていいのだろうか。
何故かそこには個人的にオレを逃がして叱られるのがイヤだからと言う理由以外の何かがあるように感じた。
とは言っても勘繰っても何も分からないわけだが。
「・・・時雨、麒代を連れて体育館へ行きます」
「はいはーい」
生徒会長は何か算段をまとめたらしくオレを連れて行くと宣言した。
副会長はそれに相槌をうって押さえていた手をオレの首根っこに位置を変えて引っ張り始める。
もはや、オレに逆らう気力は・・・いや、あっても今は温存だ。
逃げ出すチャンスはいつか来るはずだ。
ズルズルと引きずられる様を他の生徒達が見ている。
恥ずかしいと思う羞恥等とっくに失せている。
いや、そんな羞恥等捨ててしまって逃げるチャンスを探している。
こういう時に本当は逃げるが勝ちなんだろうがそのチャンスが来ない事にはしばらくは付き合うしか無い。
「どうしてこうなったし・・・」
溜息混じりの小言が口から漏れた。
そしてそんな小言が漏れる頃には体育館に到着していた。
「・・・鍵を忘れました。時雨、それを離さないで待っていてください」
生徒会室から直行した事で鍵を忘れたらしい生徒会長。
副会長にオレの監視を任せて職員室に向かった。
副会長だけならなんとか撒けるか・・・?
そうは思ったが何分力が強い。仮に逃げられてもまた伸される気がした。
「はぁ・・・アニメとかだとこういうピンチの時には何か必ずアクションがあるよな・・・」
昔見たと言うか最近もチラチラ見ているアニメの事を思い出した。
ピンチあれば必ずチャンス有り。それがアニメの鉄則で今まさにそんな感じのオレ。
しかし、力の強さから言って首根っこから手を引き剥がす事は出来ても厳しい。
(案外、体育館入って準備する時がチャンスか?)
普通に考えれば安全考慮してマットだとか何かしら装備を準備とかするはずだ。
生徒会長は10分くらいで戻ってきた。
・・・そういえば2対1と言う前提で考えれば何をしようが逃げられないな。
マットを出すと言う作業も一人が押さえてればいいわけだし。
もしかして・・・いや、もしかしなくてもオレ逃げられない・・・よな。
正直、このまま練習までやらなければ開放される見込みは無い?
それって完全な敗北だよな・・・。
(トイレに行くと言って・・・監視されるか)
ピンチをチャンスに・・・と言う発想はあってもどうチャンスに変えればいいのかが思いつかない。
どうにか逃げ出す方法を・・・って考えてるうちに鍵は開けられ中に引きずられた。
「僕は見ていますので時雨が相手を」
生徒会長は監視か。
兎にも角にもオレは体育館の真ん中でやっと首根っこを離して貰えたわけだが・・・。
副会長相手にどうやって立ち回れと言うんだか。
オレは喧嘩はした事はあっても武術と言うのはド素人だ。
・・・ド素人だからいいのか?
確か・・・最初護身術と言っていた。つまり、襲われる前提。
オレが勘違いして武術って考えていただけで喧嘩の延長戦上なのか?
「始め」
生徒会長の合図と共に副会長は一気に間合いを詰めてくる。
これでは武術───?!
次の瞬間にはオレは天井を見上げていた。
「トクマキー油断しすぎ~」
のん気な副会長の声が体育館に響きオレに対して手を差し伸べられる。
「今のじゃ犯人役でもノロマだよ~」
そう、やっぱりオレは護身術の技をかけられる方らしい。
だが、それ以前に常人よりも遥かに武道派の副会長相手ではオレは大根以下だ。
「ノロマと言われても副会長の方が常人じゃないんだろうが・・・」
愚痴は口から漏れる。
「トクマキ~? 一回伸されておく~?」
黒い笑みと言うのを見た気がした。
いつもの事だが、直後にオレは伸されてしまう。
ただ、今回はいつもより手加減・・・されたらしい。
いつもより動けるまでの時間が短かった。
「・・・時雨、交代してください」
見かねたのか生徒会長が副会長と交代するようだ。
「オマエは全力で向かってきなさい」
オレが立ち上がるとその一言を放ち立ったまま不動になる生徒会長。
日頃のお返し・・・は出来ないだろう。
今までオレは生徒会長を相手に戦った事なんて無い。相手の実力は未知数。
つまり、どんな事が起きるか予測が出来ない。
(・・・何をされるか分からなくてもとりあえず一発顔面には入れておこう)
日頃の鬱憤を晴らせるならばと不意打ちのように突然に拳を突き出し殴りかかる。
生徒会長はそれをゆっくりと右手で触れるようにして受け止めようとしている?
「隙だらけです」
生徒会長のその言葉と共にオレは再び天井を見る事になった。
何が起こったか全然理解出来ない。
副会長の場合は確かに接近して何かされたって分かるけれど生徒会長は何をした?!
それこそ、生徒会長はオレに触れたのか? 触った感触すら無い。
「護身術とは本来自分から向かうのではなく相手が襲ってきた場合に対処する術です。
時雨は自分から行きましたがそれではダメです」
生徒会長は副会長にダメだしをしている。
そうだ・・・。確かにオレが攻撃して何かがあった。
それこそ護身術って言うのは自分からは攻撃しないんだろう。
だから、オレに何が起こったとかわからないのかも知れない。
「次、始めます」
それから何度も何度もオレは組み手をしていた。
普通に考えれば逃げればいい。
けれど、生徒会長はオレが逃げないのを知っているかのようだ。
頭に血がのぼっている・・・と言うほどでは無いにしろ、オレは今、とにかく一発食らわせたいって気持ちで逃げる事を忘れていた。
組み手をしているとは言ってもオレが一方的にやられている。
つまり、掌の上で踊らされている。
息が上がる程に殴りかかったりしていた。
「・・・今日はここまで。時間も時間です」
外はまだ明るい。とは言っても日が落ちるのは早い。
それで止めたんだろう。
(今なら・・・)
オレは卑怯な考えに基づいて行動した。
つまり、止めると言ってる相手に殴りかかった。
「終わりと言ったはずです」
隙は無かった。言葉と共にオレは投げ飛ばされていた。
今度は分かった。生徒会長はオレには触れていない。
触れてはいないけれど服には触れている。
そう、服にだけ触れてオレを投げている。
しかも隙が無いのだからオレは完敗だ。
「そんなに元気ならば明日撮影します」
審査用のビデオ撮影は明日。それを言い残してオレを置いてけぼりにして去る二人。
「結局、一発も当たらなかった・・・クソッ」
悔しさのあまり体育館の床を殴りつける。
翌日になって改めてオレ・・・いや、キョウゲキ部は生徒会に体育館へと呼ばれた。
もちろん昨日の話が確かなら撮影だ。
「とりあえずトーケーとぎーちゃんは見てて~」
生徒会長は後ろを向いている。
「ビデオ回しっぱなしだからいつでもいいよー」
オレはそんな事は関係なく襲い掛かる。もちろん背後から。
しかし、オレが触れる事は無く、あっさりやられた。
ビデオの撮影はこれでいいかも知れない。が、納得は出来ない。
これが実力さと言うならオレは・・・勝てない?
組み手だからこの程度で済んでるのだとしたら───・・・。
生徒会長の実力は未知数、それだけが今回得た唯一の何かだった。とは思いたくない。




