トラブルメーカー
入学して2週間、同じように首輪を付けられて2週間。
オレは高校生活にも慣れてきていた。
4日前まで副会長の呼び出しは数日続いたが、ここ最近呼び出しは無い。
代わりに部活の勧誘が始まっていた。
「───部、楽しいよー」
「──部は全国大会に行った経験が──」
校舎入り口で叫んでいる先輩達。
部の存亡もかかっている所もあるんだろう。熱気も凄い。
生徒会長は何処の部になるんだろ。
ふとそんな事を思った。が、思ってすぐに頭を横に振る。
「…オレにだって選ぶ権利くらいはあるはずだ」
叫んでいる先輩達の近くを通りながら色々見た。空手、野球、研究──…。
ただ、どれもやってみたいせいかすぐに決まりそうに無い。
「とうーッ!!」
「ぐふぉ…」
校舎に入るなりいきなり飛び蹴りを背中に食らいオレは吹っ飛んだ。壁にぶち当たるくらいに。
「おー結構飛んだねー」
後ろから蹴り飛ばしたであろう人物の声が聞こえる。
「大丈夫か?」
隣からは聞き覚えのある声。
振り向くと生徒会長が呆れた顔で立っていた。
「あ…」
体は大したことは無いが気マズイ…。
「おーすっ、ひふみーん」
するとさっきの声が近寄ってきた。誰かを呼んでいるが特定が出来ない。
「時雨…その呼び方はやめてくれと前に言ったはずです。それに君はまだ───」
「はいはい、そっちは慣らしながらって事で~、ね?」
親しげながらもなんとも言えない二人をオレは呆然と見ているしか出来なかった。
それが伝わったのか生徒会長と話していた小柄な男の子…とも女の子とも言えないような人がオレをジーっと見てきた。
「で、ひふみん。首輪付けてるけど…これ、誰?」
蹴っておいてこれ誰とはイラっときた。取っ組み合いでもしようかと一歩踏み出す。
生徒会長はオレを抑えようと目線を送っている。
「これ…ですか───。時雨が何度も呼び出していた徳間麒代だと言うのに───」
話の流れが見えない。それどころか生徒会長は呆れ返っている。
「へぇ、ボクが呼んでた徳間君って君なんだね~」
この人はにこにことオレを見ている。凄く不気味だ。
「徳間…き──、ん~」
呼びにくいのかオレの名前で噛んでいる。
「と…トクマキー、これでいっか」
「オレは何かの巻物なのか?」
安易なあだ名の名付けに突っ込んでしまった。
が、オレにあだ名をつけてこの人はご機嫌なようだ。
「時雨、自己紹介を忘れています」
この人の前では少し敬語が硬い生徒会長。何かを意識しているのだろうか。
「あぁ、そうだったね。ボクは岩城 時雨、此間から呼び出していた生徒会副会長だよ」
この小さい人が副会長?! と思うぐらい驚いた。
「オマエも驚くだろう、この時雨が副会長だという事には」
見た目以上に大人な生徒会長とは間逆の副会長は正直困惑する。
オレは生徒会長と副会長を交互に見た。それほどまでに色々差がある。
「ふ、副会長はなんでオレを…──」
ふいに出てしまった言葉を慌てて止める。
「なん────」
止めた言葉がもう一度出てきた。
キーンコーンカーンコーン──。
「やばっ」
チャイムが鳴った事でオレは聞く事を忘れ慌てた。
─オレは呼び出した理由を聞きそびれたうえに遅刻扱いになりそうになるのだった。
─2時限目終了のチャイムが鳴る。
休み時間になると放送が入った。
「首輪を貰った君達は昼休みに体育館第二倉庫前に集合」
こんな時に呼び出すんだ。きっとろくな事はないだろう。
そんな事を思いつつ気まずかった事も忘れオレは呼び出された事に対して従おうとしていた。
座ったまま顔を伏せる。
「徳間ー、お前こんな時間から昼寝か?」
「体力温存してんだろ、昼休み呼ばれてたしな」
笑い声とかが聞こえたが答える気にもならなかった。
さっきの副会長を考えていたからだ。
あの小さい背丈からはオレと同じ学年…いや、生徒会長と親しげだったから上か。
とは言ってもどう見てもオレより下に見えていた。
それにあの蹴りはなんだ? あの小ささで出るような威力じゃないだろ。
普通に考えて常軌を逸脱している副会長。
穏便な生徒会長と対照的で目立つのになんで気付かなかったんだ?
そんな事を考えながらオレはそのまま眠ってしまった。
「徳間──。徳間──。ぉぃ徳間──。おい、徳間起きろ!」
目を覚ますと先生が立っていた。寝ぼけ眼で時計を見る。今は3時限目の半ばだろうか。
「そんなに眠いなら夜更かしとかするんじゃないぞ」
夜更かしではないがそんな注意を受けてしまった。教室は笑い声で溢れている。
異様な疲労感がオレを襲った。正直休み時間の時よりもだるい。
今日は道東が休んでいる関係もあって話し相手もいない。ほとんど言うと退屈だ。
そんな中、頭を過ぎるのは副会長の事だ。
知らない人間にいきなり蹴りをかましたりする以上、予感としては何かハプニングがあるに違いない。
体育館第二倉庫もきっとそんなハプニングの塊のはずだ。そう勝手に想像し警戒する。
が、実際にその時間になり体育館第二倉庫前に来ると驚いた。
「んじゃ、君達にはこの中の掃除をしてもらうよ」
ノリノリの副会長だが手に持っているのは首輪の電流スイッチのみ。
足元にはオレ達に用意されたであろう掃除用具…容易に考えられた。
「あ、逃げたりしたら全員電流の刑だからね~」
ニコニコしながら言う言葉は何とも残酷なものだ。
仕方なく従う…振りをして箒を持って副会長に襲い掛かる。
「スイッチさえ壊せばッ!」
それは安易な考えだった。襲い掛かったオレがいつの間にか倒されている。
「あ~そうそう、ボクに襲い掛かっても無駄だよ。一応空手部の部長だからね」
そんな事を言ってから手を叩く副会長。
「さあさあ、早く仕事しないと放課後もやってもらうことになるよ?」
ニコニコとおぞましいこの副会長の言葉に誰もが従うしかなかった。
体育館第二倉庫は見た目以上に中に色んな物が入っていた。
それこそ、スコアボードから体育とは関係のないであろう派手な衣装まで様々なものが。
時間をかけてようやく半分が終わった頃だろうか。チャイムが鳴り、昼休みが終わってしまった。
「んじゃ、全員放課後にもう一度集合ねー」
そんな事を言ったかと思うと既に居なくなっていた。
午後の授業は無事に終わり放課後。
再び体育館に来ると誰も居なかった。
「放課後もやるん…だよな…?」
誰か来るだろうと思って待ってみた。
「5分待てば…」
そんな事を言って1時間経った。が、結局誰も来ない。
「オレ一人でやれって事か…」
仕方なく一人で始める。
「──でさぁ。──」
誰か来た。慌てて第二倉庫から出るとバスケ部の部員だった。
「あれ? ここは今からバスケ部が──」
そんな事は見れば大体分かる。
「生徒会は何をやってるんだ?!」
一人黙々とやっていた怒りが吹き出た。ただ、それを見ていたバスケ部員は引いていた。
掃除を途中で辞め出したもの全てを片付け生徒会長を探す為に走る。
廊下を走り会議室を回り、2年の教室を回った。
しかし、生徒会長どころか副会長すら見当たらない。
オレは探し続けた。迷子の子犬が母犬を探すように。
手当たり次第に教室を回った。生徒の過半数は帰宅か部活で教室には居なかった。
部室も回った。生徒会長のやっている部活なんて知らない。
副会長のやっている空手部を目掛けて走った。
「なんで居ないんだ…ったく」
口から出る言葉は愚痴ばかりで言っている自分にも腹が立った。
空手部の部室に着いた…部室には空手部員も誰も居ない。
そこを用具のおじさんが通った。
「空手部の…部長は?!」
息も切れぎれに聞いた。空手部は今日は休みと言う返事だった。
じゃあ、生徒会長も副会長も何処に居るんだ。
オレは探せる場所を探し尽くした。それでも見つからない。
帰ったのだろうか。それとも何処かで入れ違いになったか。
夕暮れの太陽が校内を照らす中、オレはただ呆然と歩いていた。
自分の教室に戻りカバンの中の携帯を見る。
「もう6時か」
さすがにこの時間帯になって探そうとは思わない。
それどころか掃除をまたするのも嫌になっていた。
「帰ってやるッ」
そんな事呟いて教室を出ると首輪に電流が流れた。
「ッ…」
何処から操作してるのか辺りを見渡した。誰も居ない。
故障…でもしていればと思ったが取れない時点で故障ではなさそうだ。
この電流は誰かがスイッチを押さないと作動しない…だけど辺りは静かだ。静か過ぎるだけに不気味だ。
不気味にも電流はしばらく続いた。
静電気くらいのものだがずっと首が痒い感じで気持ち悪い。
季節外れの怪談かとも思った。そう思いながらもカバンを持って校内から出る。
校舎から出れば電流は流れなくなるだろうと思ったが甘かった。
校舎を出た途端に電流が少し強くなったのだ。
「何処から操作してんだ?」
操作してる奴が何処にいるか探そうとそこら辺を歩いてみた。
体育館の方に少し向かうと電流が弱くなった。逆に校門の方に向かうと電流が少し強くなった。
悪戯と言うには随分意味深な電流の流し方だ。
「そんなに掃除させたいのかよッ」
そんな独り言が虚しく響いた。
仕方ないと思って体育館に戻り第二倉庫の掃除をまた始めた。すると電流が止まる。
バスケ部も帰った体育館で一人虚しく掃除をした。
時折携帯で時間を確認すると結構遅い時間になっていた。
「はーい、お疲れ~」
何処からともなくいきなり副会長が出てきた。
「探す時間無駄だったね~」
「何処に居たんだ?!」
間髪入れず副会長に聞いた。
「何処ってずっとトクマキーの後ろでずっと見ていたよ?」
まったく気配がなかった。
「トクマキー全然気付かないんだもん。見てて楽しかったよ」
それどころかそれを楽しんでいたかのような発言にオレは呆然とした。
「ほ、他の奴らはどうしたんだ?!」
オレ以外の奴らが来なかった事が気になった。
「ん~、帰ってもらった」
ニコニコしながら言う言葉は完全にオレをオモチャのように弄んだと言う事を意味していた。
「はぁ?! それじゃ…なんでオレ一人でやってたんだ…」
怒りを通り越して呆れてしまった。無駄に動き回ったからか疲れがドッと出てきてへたり込む。
「まぁまぁ。トクマキーは頑張ったよ。また頑張ってもらうけどね」
なだめていると言うよりまだ弄びたいという感じにしか聞こえない。
副会長…この人は確実にトラブルメーカーだ。オレはそう思いながら倒れこんだ。