高校生活最初の年明け
結局、あの後執事さんから詳しくは聞けなかった。
つまり、啓作に彼女は居る。しかも外国で入院生活をしているらしい。
オレは勘繰ってもいいがそこまでして啓作の彼女に会いたいとは思えなかった。
義一に話したらいけないネタが増えたって感じだ。
で、12月31日の夜の11時まで何もする事が無くて二度寝していたオレだった。
今、その夜の11時。もう少しで元旦ってわけだ。
オレらは啓作の家にある唯一の和室でゴロゴロしていた。
もちろんこの部屋にもテレビがある。だから、テレビ見ながらこたつに入ってグダグダとみかんなんか食べて喋っている。
「年越し蕎麦、まだだよな?」
「そろそろ来るから問題無い」
「ワイはみかんでもう腹いっぱいかも知れん・・・」
そんな他愛も無い会話だが一つだけ問題発言があるように思える。
「義一、みかん食べすぎで年越し蕎麦食えないとか無いからな」
「わーっとる。そやかて、待ってる間の退屈に手が進むんや」
うわ、ダメじゃねぇか。そんな話をしているとすぐに年越し蕎麦がやってきた。
「ほら、さっさと食って縁起担がないとな」
「別にムリして食べなくてもいいんだけども」
啓作、縁起はせめて気にしようぜ・・・。
それに時間も時間だ。そろそろ食わないと夜食の年越し蕎麦が冷めるだろ。
「まぁキョウゲキ部の今後も考えると一応少しは食おうぜ」
これからもキョウゲキ部は続くんだ。縁起くらいは少しは考えてもいいだろ。
ま、元は部活がイヤで逃げる場所として作った部活だけど。
それでも、今は生徒会相手に立ち回ってるんだ。
遊びって言うよりは何かから逃げるための部活が何かと戦うのに縁起が悪い。
強いては演技が悪いなんて言うのはダメだろ。
キョウゲキ部の一つ意味としては演技だ。
だから、演技が悪いって言うのはどうかと思う。
「そやなぁ・・・。まぁ食えなくはないんよ? ただ、食ってゲロゲロー言うんはあかんやろ?」
つまり、義一・・・それって食ったら吐くって事だよな・・・。
そんなになるまでみかん食ってるとかどんだけ暇だったんだよ!!
「量、減らしてもらうか?」
義一はそういうと執事さんを呼んだ。
「───では、この器で食べれる量をとってください。残りは片付けますので」
義一にお茶碗くらいの器が渡された。
「うぅ・・・こんなんならみかん食べすぎん方がよかった・・・」
年越し蕎麦を少量とってしょんぼりする義一。自業自得だ。
オレが食べ終わる頃になるともうすぐカウントダウンが始まる頃だった。
「そろそろやな・・・ぅぇ」
食いすぎな義一はちょっと吐きそうな感じだ。
リバースとかは勘弁願いたい。
「おい、義一リバースすんじゃねぇぞ」
威嚇と牽制の言葉を義一に浴びせる。
それで凹む程やわではないらしい。
へいへいと言いつつも義一はこたつに伏せてテレビを見上げている。
「カウントダウン始まった」
啓作の声に反応してオレもテレビを見る。
『さぁいよいよ年越し1分前です───』
あぁ始まったか。って言っても1分前か。
啓作は眠そうだな・・・。あくびなんかしてるし。
つられてオレもあくびをする。
「眠そうやな・・・ふぁ~・・・」
言ってる義一が一番眠そうじゃないか。
『いよいよ、残り10秒、9、8、7、6、───』
「「「5、4、3、2、1」」」
「明けましておめでとう」
「あけおめー」
「ハッピーニューイヤーや~」
各々それぞれに元旦の挨拶を口にする。
オレは地味に啓作が面倒だって顔を見逃さなかった。
カチンってきそうになるけどこれも初めて見る啓作だからなのだろうと思いとどまる。
「皆さん明けましておめでとうございます。この後ですが───」
執事さんが時間になったからかやってきた。
しかし、この後って言われてもな・・・。
初詣行くか行かないかだろ?
オレはどっちでもいい。ただ、神社と言うとアレが出てきそうだ。
吉大 正成。あの大凶を叫ぶアレが。
あいつ、確か神社の跡取りとかって話だったはず。
行けば確実に遭遇するよな・・・。
啓作は知らないだろうがアレの面倒は厄介だ。
「初詣ならオレはパスな」
「なんや、行かんのか?」
「大凶なんて年初めに叫ばれてみろ・・・」
オレはこめかみを押さえて思い出した事を口にする。
「例の彼か。確かにアレは年初めにはあかんよな」
「なら、俺もパス。厄介なのは先輩との知略戦だけでいい」
啓作は啓作でこの休みをぐうたらで満喫したいらしい。
「では、皆様この後の初詣は無しと言う事でよろしいですね?」
オレ達は各々返事をする。
これで神社に行った場合の面倒事には絡まれないだろう。
少なくともそれだけで今年はいい事があるような気がする。
そうで無いと困るのはオレなんだが。
ただ、まだオレ達は高校1年生だ。
4月になるまではこれまで通りだろう。
問題は4月かも知れない・・・。
新入生が入ってきて先輩と呼ばれる事に・・・───?!
<あいつ>を思い出した時点で何かが過ぎってる。
今からそんな事考えても仕方ないんだが憂鬱になってくる。
「一旦寝よう・・・」
オレの一言で啓作も義一も部屋に戻りだす。
さすがにオレも気分的に寝たい。寝て忘れたい。
吉大 正成の事も<あいつ>の事も忘れたい。
どっちもオレにとっては災厄の元凶だ。
部屋に戻ってすぐにベッドに潜り込んだ。
布団を頭から被ってイヤな事を忘れようと必死になる。
「忘れようとすればする程しつこくなってる・・・」
気分最悪。元旦にこんな気分じゃ縁起としては悪い。
「っても縁起ばっかり気にしてもな───」
そんなにいい事は無い。オレの場合はこの首輪がある以上は少なくともだ。
ただ、縁起を気にしないってのも悪い。
気にしないと誰かのせいにしてしまう。誰かのせいにするのはかっこよく無いだろ。
「ただ、そこまで大人ぶってもな」
所詮は未成年。考えるのは子供のいい訳だ。
だったらそれに溺れても・・・。
いや、子供っぽさ全開で居られるような年齢でもないんだよな。
「微妙な年齢だもんな・・・」
少しは大人な考えもしないとやってられない。
大人な対応としてはまず<あいつ>とのケリもつけるとしてか。
あんな事が無ければオレはもうちょっと子供で居られたんだろう。
「それはそれとしてだ・・・」
啓作に彼女か・・・。義一にも居るんだろうか?
オレには男ばっかり寄ってくるんだが・・・彼女なんて出来るんだろうか?
考えれば考える程悶々とする。んで、結論に至るわけだが。
女性と言う聖なる探究をしたいと思ってもな・・・。
中学の時は<あいつ>が邪魔してくれたおかげで・・・。
だんだん興奮してきた。怒りと言うかなんと言うかで。
「あーァ、寝れないじゃないか!!」
自分でグチグチ言っててイヤになる。
「っつてもな・・・」
外は雪で少なくとも外に出ては身体を冷やすだけだ。
それにまだ真夜中の2時前だ。
外に出たら凍え死ぬだろう。
「・・・マルも寝てるしな・・・」
意外とこういう時にお利口過ぎてオレが騒ごうが何しようが起きる気配は無い。
「音楽でも聴くか」
MP3プレーヤーを鞄から取り出す。
入ってるのは流行の、だとかオレ個人が気に入ってるものばかり。
が、しばらく聴いてると飽きてきた。
まだ寝れそう無い午前4時前。
2時間近くは聴いてた。大人しく。
しかし、興奮も収まらないし眠気も来ない。
最悪な事にこのまま日の出を見ることになりそうだ。
オレは高校で年の初めの元旦に変な思考にハマッて寝れないで苦しむだけ苦しんだ。




