聖夜に血塗られた過去の思い出を・後編
あえては言わないと言うより言って必要以上にびびらせるのも嫌なだけだ。
「奪ったものはまぁ言わない。
けれど、奪っている姿が義一の言う怖さになっていたらしい。
で、ある時崩壊した。
まず、崩壊したのは悠。あいつの精神が逝かれた」
結果的にこないだの件になるまでオレは放置しか出来なかった。
そういう意味ではオレは逃げただけだ。
オレの話を聞いてか外が吹雪く。
「次に後輩がおかしくなった。
オレを見ては・・・んぅ」
言葉が詰まる。<あいつ>の話をするのは今も思い出すだけおぞましい。
「もぅワイ聞いてられへん。麒代の過去はワイの想像以上やし・・・」
義一が割って入ってきた。
啓作は目を瞑ってオレの話の続きでも考えてる感じだ。
「そうだな・・・オレの話はあまりにも血塗られている・・・」
その血塗れがイヤになって高校は自宅が近くのこっちにした・・・。
それが逃げでなくても少なくともオレは逃げたと思う。
異常な世界だった中学生時代。
そんなあってはいけない世界からオレはこっちの世界に割り込んだ。
だから、オレの過去話なんてえげつないとかってより他人の精神を破壊する。
生徒会長だってオレの過去を知っていたらこんな首輪なんて・・・。
「ま、まぁ・・・暗い過去話なんてこれくらいで食べようぜ」
無理やりにでも空気を変えようとしてみる。
確かに皆、食べている。けれど空気は重たく息苦しいままだ。
「「「…」」」
三人で重苦しい沈黙が維持されている。
「僭越ながら───」
執事さんが声をかけてきた。
「私が思うに皆さんはもう少しお互いの好きだの嫌いだのを知るべきだと思います」
いい意味でも悪い意味でもいいタイミングだと思った。
「そ、そうだな」
オレ・・・動揺しまくってる。かっこ悪いな。
「オレが好きなのは・・・」
好きなのを語ろうとして<あいつ>が過ぎる。そして副会長も。
なんでその二人が出てくる?!
い、いや・・・<あいつ>に告白された瞬間、悪くないとは思ったがさすがに無いと思ったはずだ。
副会長に至っては生徒会長の許婚だろ!!
手を出して生きていけるとか思えない。
「オレはおっぱいでかくて可愛い女の子が好きだーーーーーー」
?!?!?
おい、今オレは何を叫んだ?!
正直、何を言ったか自覚が出来ていない。
「おーこの勢い魔ー。ワイらの前で何叫んでるん?」
義一がニヤニヤと笑い出している。
やっとなんか空気が変わった気がした。
「べ、別に・・・いいだろ」
傍らで啓作も笑いを堪えている感じだ。
オレが来た時に啓作がアレしてたとか言ったらまた空気が悪くなる・・・だろう。
「ワイは・・・そうやなぁ。女の子はもちのろんとして男の娘も悪くない思うんよ」
義一の好みはそっちか?!
どっちもいけるみたいな感じなのか?
いや、まぁ男で欲情って事は無いだろう。するんだったらオレら友達とかにすらなれてないだろうし・・・。
「啓作はどうなん?」
義一が啓作に振ってしまった。
オレの頭の中にさっき啓作がやってたエロゲーの女子が思い出される。
「俺は・・・基本雑食。自分が好きになったらそれが何であれいける」
親指立てて答える啓作。
ちょ、それはそれで大胆発言だと思うが!?
「おー啓作は雑食か。だったら男の娘で───」
そっちの話に持っていくなー。
オレが付いていけないだろー・・・。
愕然とした。オレの了見が狭いだけなんだろうか・・・。
いや、まだこいつらの言ってるのは二次元の話だよな・・・。
オレみたいにあんな告白体験はしてないはずだ。
だったらあえて話を合わせて・・・ってムリだ。叫んでしまったオレにはムリだ。
これ、なんかオレだけ絶望とかってパターンだよな・・・。
どよーん。なんかアニメとかだったらそんな感じだろう。
いやまぁそこまでじゃないにせよ・・・これは絶望的なはずだ。
「あぁ・・・オレ・・・」
「大丈夫、麒代にも男の娘のよさを教えたるから」
いや、それはそれで大丈夫じゃないだろ・・・。
って義一も親指立てなくていい───。
そんなこんなで男の娘談義が進められて・・・いやいや。
パーティは結構進んでいた。
時計がちらっと目に入る。
「もう10時か」
既にパーティだけで3時間、うち男の娘談義だけで1時間くらいだろうか。
そりゃ、少しは部屋の空気が寒くなってくるはずだ。
「皆様方、お風呂はどうします?」
執事さんが聞いてきた。
オレとしては是非入りたいんだが・・・なんか気恥ずかしいと言うか。
いや、変な事は無いはずだ。
普通に風呂入るだけなんだから。
義一辺りがじゃれてくる・・・が一番怖いか。
それでも、この冷えはさすがに堪えるか・・・。
「オレは───」
「全員入る、大風呂の方の準備は?」
啓作が堂々たる姿で執事さんに尋ねている。
「えぇ、既に準備は終わっています。着替えはどうしますか?」
オレは別に着替えなくてもいい。
とは言っても泊まるって知ってて着替えを持ってこないわけが無いが。
「あーワイ、着替え忘れたかも」
義一は天然なのかもな。
こういう時に忘れ物って・・・普通はあんまりしないだろ・・・。
それに今外に買出しっつても時間も考えれば店なんてないだろうに。
「サイズ、測らせていただいても構いませんか?」
執事さんの問いに義一は頷く。すると執事さんは密着するようにサイズを測り始めた。
「・・・このサイズならありますね。問題なくご用意出来ます」
まぁオレが見る限りでもLサイズくらいの服なら問題なく着れるだろう。
「麒代様は着替えのご用意は?」
執事さんが今度はオレに聞いてきたのでオレは着替えを持ってきていると伝えた。
「風呂はこっち」
啓作はあんまり気付いてないかも知れないけどたまに言葉が端的になる癖がある。
そういう時思考はあんまり働いてないって最近なら分かる。
とにかく今は風呂。多分それだけだろう。
大風呂って言っても家庭のより少しでかい程度だと思った。
が、バカだった。この家は見た目よりもでかい事を忘れていた。
銭湯とか温泉とかそういうくらいの大きさの風呂がどーんとある。
裸の付き合いって言うのは無いわけじゃないけどこのメンツでは初めてだ。
プールの時だって着替えは別々だったしな。
ちょっとこれをワイワイと言うのは無いな。
そんな年でも無いと言うか・・・。
いやまぁまだ子供だけど、そこまでキャッキャ言う程のガキでも無いだろ。
とりあえずさっさと入るか。
脱いでオレが一番で入る事になった。
次に啓作、義一の順で入る。
身体を洗って湯船に浸かると義一が何か言いたげな顔をしだした。
「腕なら大丈夫だ。血塗れの異名の頃に浴びる程の返り血よりはな」
そう言って左腕を突き出す。お湯に触れて水しぶきがあがる。
「いや、そういうんやなくて・・・麒代は意外と華奢って言うかな・・・。
女装させたら意外と似合うんやないかと見てしもうたんや・・・悪い」
背筋がゾッとした。
こいつはオレの身体見て女装の妄想をしたのかと。
「プールの時はガタイよく見えたんやけど今は華奢で女装させたら似合うような感じやなーって」
あぁ・・・そういえばその間にこの腕の怪我があったんだ・・・。
入院で多少ガタイがいい身体も華奢にはなるだろ。
昔の血塗れの称号だとかは気にしないか。
特に啓作は気にしてないな。
それもそうか・・・グロいのもゲームでやってて想定済みなんだろう。
なんか拍子抜けだな・・・。
でも、やっぱりあの時の・・・義一を庇ったあの時の血塗れは未だに感覚が残ってる。
オレの血でオレ自身が血塗れになったアレは多分、消えないだろう。
クリスマスだってのにオレは血塗れの思い出ばっかりだな・・・。
変わったと思っていたのに・・・。




