聖夜に血塗られた過去の思い出を・中編
結局突入して啓作をジロジロ見てるわけにもいかず。
かと言って他の部屋だと忘れられてしまいそうな不安からオレはこのゲームルーム前で待つ事にした。
「にしても啓作・・・トイレ行かなくて平気なのか?」
普通にゲーム時間が長い分トイレもそろそろ近いだろうと考えた。
が、一向に出てくる気配は無い。
携帯で時間を確認しながら待ってみる。
15分。義一は来ない、啓作もトイレに動くと言った様子は無い。
更に15分。義一の遅刻はともかく、啓作が動かない。
そこから30分。チャイムが鳴ったのが聞こえた。
「ようこそ、義一様」
大きな声では無いにせよ、ここまで聞こえる義一の訪問を告げる執事さんの声。
「やっと義一が着たか・・・そろそろゲーム終わっててくれよ」
扉を少し開ける。啓作はまぁ男の性である行為からは離れていた。
ゲームも別のに切り替わっている。
「なんや麒代、こんなところで」
後ろから義一の声がした。
慌てて何でもないと言ったが逆に怪しまれてしまう。
ま、まぁ・・・啓作のゲームも切り替わってるし入っても問題無いだろう。
オレと義一はゲームルームに入った。
啓作はゲームを続けている。
「なんや、啓作はゲーム中かいな」
そういう義一はそそくさと中に入ってゲームをしている啓作の隣に座る。
(そういえばこいつらのこういう姿見るの初めてだな)
啓作はホモではないし義一もそういう奴ではない。
だから普通に座ってるだけなんだがなんと言うか・・・昔のオレと<あいつ>との関係が思い出される。
やっぱりこう・・・隣に座ってゲームしてたっけ。
ただ、<あいつ>はそっちの人間だったしな・・・。
ってか<あいつ>を思い出すなんてどうかしている。
首を振ってそんな事思いながらオレも啓作の隣でゲームを見ることにした。
会話なんて無い。啓作がオレ達に気付いてゲームを止めてからが会話として始まる。
多分、それでいいだろ。
啓作のやってるゲームを見る限りさっきのエロい奴ではなく普通にアクションRPG物って奴だろうって事は分かった。
オレ達が居てもお構いなしって言うのはある意味気楽だ。
ムリに気を使ってオレ達と話をする。ってよりは気付いたら居てそこから何気ない会話が始まる。
その方がどんだけ気楽か・・・。
1ストーリーと言うべきか進めるだけ進めて啓作がゲームをセーブし始めた。
多分、オレ達にはもう気付いている。
もしかしたらオレが来た時には既に・・・。
気まずい空気がオレから流れ出るのが分かる。
啓作からは気まずい雰囲気なんて感じられない。
ある種堂々としすぎていて怖いものだ。
「ん、来てたか」
今、気付いた的に言うけど啓作・・・オマエの場合は気付いてるか気付いてないのかとか分かりづらすぎだ。
そんな啓作は手を叩いて執事さんを呼んでいる。
「はい、啓作様」
「パーティの準備は?」
「整っています」
「んじゃとりあえず食事」
そう言ってゲームの電源を落すと立ち上がってオレ達を呼ぶ啓作。
案内されて着いたのはオレも初めて来る食事専用の部屋だ。
雑談を楽しみながら食べる為のいわゆる貴族風って言う雰囲気ではなく普通にちょっと広い部屋にテレビとテーブルが設置されている。
オレ達はそれぞれ思う位置関係で椅子に座った。
ちょうど三角のような形になった。
対面と違う点いいんだけどなんだか慣れない。
テーブルの上には既にターキーだとかのクリスマスパーティ用の食事が用意されていた。
「とりあえず手をつけたものは食べきる事」
啓作の言うそれはいわゆるルールって奴だ。
小分けにするのは執事さんだとからしいが小分けにして手にしたものは食べきれ。
啓作の潔癖症と言うかなんと言うかが見えた気がした。
食事が始まってすぐの事。
「俺は───」
啓作が何か言おうとしている。
「俺はちょっと前に親と縁を切った───」
それはオレが知る啓作との秘密。
話は続く。
「俺は父親に命令されるがままに勉強だのをさせられていた」
ここからはオレも知らない啓作の過去だろうと予測させられる。
「父親の会社を継ぐ事を目的に俺は育てられていた。で、二人の人に助けられている」
二人? オレは縁を切る為に協力はした。けれど他にも誰か啓作を助けた人間が居るのか?
「一人は麒代、一人はイヤな事に九先輩」
生徒会長?
「なんでそこで生徒会長の名前が出てくるんだ?」
オレは聞いてしまった。触れられたくないだろう部分に。
「それは・・・」
言いにくそうだ。それでももう後戻りは出来ないだろう。
義一も居る。と言う事はオレが聞かなくても義一が聞いた可能性もあるんだ・・・。
つまり、話を始めた時点で互いに後戻りが出来ない状況。
「まだ中学生時代に───」
啓作は語り始める。
「九先輩は当時、人を完全に遠ざけていた俺にそのままでいいと言った。
荒れた時はあの人自身が身を挺して止めた事もあった。
それからとりあえずは落ち着いたんだ・・・」
そんな事があったのか・・・。
ただ、少し疑問は残る。身を挺して・・・なんか護身術的なのはあったのか?
まぁそれもいずれは分かるだろう。
だからと言って他にも疑問はある。
なんで同じ学校を選んで嫌っていると言いつつそんな思い出もあるんだ?
それにそれならオレに協力する理由はまず無いだろう。
嘘の話なのか?!
「そか、啓作も結構あったんやな」
そう疑惑だとか疑問ばかり頭に浮かぶオレより素直に啓作の話を聞いていた義一。
そして、それをあっさりスルーと言うか受け入れている。
「なら、ワイも話さななあかんな」
今度は義一が話す番か。
オレの頭はまだ啓作への疑惑だとか色々あるがとりあえず義一の話に耳を傾ける。
「ワイがこっちに来た理由はまぁ親の転勤って言えば聞こえはええんよ?」
転勤と言うのは本当と付け加えて更に話が掘り下がっていく。
「しかし、実際は島流しや。才能があるばっかりに親父は会社で浮いとるんよ。
で、ワイはそういうんでイジメに遭うた事もある───」
イジメに遭ったって話は意外だった。
確かにちょっと周りからすれば浮きやすい感じだけど決して悪い奴ではない。
友達とか出来なかったんだろうか?
「その・・・イジメの中で酷いのもあったんよ。
アレは屈辱やな・・・。男に犯される言うんわ───」
男に犯される。その言葉はパーティの雰囲気を一気に凍えさせていく。
「まぁ・・・ここに来てからはまだいいんよ。麒代と啓作居るしな。
ただ、身体的にも精神的にもあんな事を思い出すから怖いんよ・・・。
それにこないだ、一瞬やったけど麒代の目ぇがワイを犯したそいつらに見えたんは本当にびびったわ」
義一の話はここまでだろうな。
啓作が妙に納得している。多分、入院中の話に繋がるんだろう。
だったら、次に話すのは───。
「次はオレか・・・」
正直、義一の話には驚いた。
そういう感じが一切無かったからだ。
だからなのかオレの話はしづらい。
「オレは・・・昔、こう呼ばれていた。『血塗れ』麒代ってな」
この名前を出すのは今でも抵抗感がある。
命名は何処ぞの他校生だった。
「とりあえず名前の由来は知らない。が、オレは喧嘩をよくしていた。
理由は後輩がもたらす厄介事の処理なんて名目だったか・・・。
真功悠、義一とこないだ片付けたあいつもかつてはオレの親友・・・。
そいつとオレで後輩のもたらす厄介事を処理していた───」
ここまで話して儀一はあの日の出来事を思い出しているんだろう。
血塗れのオレを思い出したのか少し震えている。
「まぁそれはまだいい。その時は楽しかった。
オレは賭け事と称して喧嘩する奴らに何かを賭けさせていた。
オレはオレ自身を賭けて・・・。で、奪っていたんだ・・・」
奪っていたのは正確には相手の腕一本とかそういう程度。
しかし、当時はそれで十分全てを奪っていた。利き腕を破壊していたりしたから。
あえては言わない。




