聖夜に血塗られた過去の思い出を・前編
12月24日。
いわゆるクリスマスという奴だ。
オレは生徒会長の賭けに負けて今日まで『因縁』と言う形で仕事を押し付けられている。
まぁ本当にいちゃもんもあるんだが。
それでも、この24日の2日前から学校の伝統らしく。
クリスマス及び正月休みと言うのが入ってる。
俗に言う冬休みとは別らしい。
冬休みは正確には2月の中旬から3月の第一週までらしい。
だから、この休みは特別と言う事だ。
オレ達キョウゲキ部はと言うと時間の許す限り互いの家を出入りしては…。
ゲームしたり勉強と言うなのおふざけをしている。
時には生徒会への愚痴なんかもオレは言っている。
それくらいの権利は残されている。
と言うより無いと困る。
で、クリスマスの今日は啓作の家でお泊り会と言うのをやるらしい。
かなりガキっぽいけど嫌いじゃない。
ケーキは啓作の家の執事さんだとかが用意してくれるのだとか。
ただ、今回は趣向としてそれぞれの過去を打ち明ける会と言う裏のタイトルが付いていたりする。
オレの場合は過去と言うと暴力的で血塗られた中学時代が代表的どころかアレしかない。
今でも理由は不明だけどオレは荒れていた。
確実に今なら言える。
ただ単に不機嫌だったと。
いや、その不機嫌な理由もあったんだろうけど今は思い出せない。
で、今の所問題としてはその話を如何に話すべきかと言うところか。
まだクリスマス会までは時間がある。
文章に纏めて───…。いや、余計話しづらい。
オレの頭の弱さにガックリしてしまう。
と言うよりも後1時間もすればマルを散歩に連れて行かなくてはいけない。
帰ってきたらマルを留守番させて行かないといけない。
って事は文章纏めてって事自体出来ないって計算が今やって出来た。
うわ・・・オレ頭悪ッ。
賭け事も今回は負けてるしな・・・。
なんかツイてないって言うのかなんていうのか・・・。
それよりもだ。啓作達の過去か・・・啓作の過去はちょっとは知っているつもりだ。
親父さんと不仲でオレと出会って決別した。
これはオレが知る啓作の過去の一つ。最近の事でもあるんだが。
義一については・・・知らない事ばかりだな・・・。
転校理由が親の転勤によるためくらいだったか?
義一の事ほとんど知らないな・・・。
今回のクリスマス会でどれだけ暴露してもらえるか・・・。
いや、どれだけ暴露させられるかだな。
そういう意味では三つ巴の戦いだろうな。
そんな事を思いながら時計を見ると時間だ。
雪降る街をマルと散歩する為に家を出る。
一緒に歩いて少し上を見れば灯る街灯は何故か淡い色をかもし出している。
それこそ時間は動いてるのにオレとマルの歩調が遅く感じられた。
幻想的と言ってしまえば簡単だけどなんて言うか恋人が居ないと足取りを重くさせる足枷のようだった。
オレはさっさと帰りたい。マルもそうなのか自分の身体に積もる雪を嫌がっている。
「これはもっと降るかもな・・・」
その一言は見事に当たった。
マルと帰って夕飯も食べずにすぐに準備して再び外に出るとさっきよりも雪の降る量が増えていたからだ。
地面も少し雪が積もってサクサクと音がする。
「これだとマジで泊まりだな・・・一日だけじゃ済まないか?」
啓作の家に歩いて行く。急ぐ必要性は無いけれど聞きたい過去話を聞き逃すのはイヤだ。
駄々っ子って程ではないにせよ。今まで触れて来なかった互いの過去に触れるんだ。
誰だって気になるだろう。
特にオレは義一の過去が気になる。
二人にとってはオレの過去が気になるだろう。
それくらいにオレ達は『まだ互いの全てを知らない』関係だ。
友達以上親友未満。
オレの感覚からすればこの辺りだろう。
30分くらい歩いただろうか?
まだ啓作の家には着かない。
思ったよりも雪が道を消し景色をガラリと変えているせいか道を少し間違えたりしている。
「これだとマジで過去話が聞けなくなる・・・」
オレは走ろうにも走れないこの状況に苛立ちを覚えていた。
それはある種のイジメだとも思う。
いや、オレにとってイジメとは弱い者が弱い者を甚振る様なわけでオレは強い側だからそんなにイジメでは無いんだが。
それ以前にこれは想定していた事の外で今、雪は深々とだけど止まない状態。
日本の東側で雪の降る地域よりは南に位置しているはずのこの街に雪がこんなに降る事事態イレギュラーだ。
「場合によっては閉じ込められるか・・・?」
マルが若干心配になったが後戻りする退路すら無い。
それよりも今オレは進んでいるのか?
それさえも分からないくらいに街の景色を消されている。
やっとの思いで見覚えのある路地に出た。
この先に啓作の家がある。
冷え込む身体は頑丈さを持ってしてもその冷気には敵わないらしい。
オレの体温がどんどん奪われている事に啓作の家が近くなってから気付いた。
「この辺は比較的雪かきされてるな・・・」
そこは既に啓作の家の範疇、多分執事さんだとかがやったに違いない。
オレは急ごうと油断した。
「ッてぇ・・・」
そう、見事にスベった。
どんな風にコケたかは分からないが確実にスベって転んだ。
実際、あんまり雪が降らないけどこの経験は小学生の時以来か。
それくらいに久々に大転倒。
身体頑丈でよかったと思いつつも立ち上がって啓作の家の門のチャイムを鳴らす。
「お待ちしておりました」
老人と言うにはかなり若い声がして門が開く。
オレは吸い込まれるようにそのまま足を運ぶ。
中に入って早々に若い執事さんの出迎えを受けてジャンバーを預ける。
そして、ここからは此間突入したようにと言うよりもいつも通り中を進む。
啓作の事だ。義一と隠れてイタズラの準備でもしてるかも知れない。
なら、引っかかるか暴くかしないと話は先に進まないだろう。
まぁどっちでもいいんだけど。
だって時間はまだまだこれからだ。
そんな余興があっても別に問題は無い。
「おーい、啓作。義一はもう来てるのか?」
「義一様はまだいらしてません」
その問いに応えたのは若い執事さんだった。
普通の女性や男色家とか言う俗人なら確実にハートを射抜かれるだろう。
オレはその手は分からないでもない。熱い眼差しって言うのは経験あるから。
そんな事よりもだ。
義一がまだ着てないって事は啓作はゲームルームにでも居るんだろう。
そっちに向かって歩き出す。
ズカズカと入っていく様は多分あんまりいい感じじゃないだろうな。
そんな事を思いつつも啓作の家のゲーム部屋に着く。
「まさかこの扉開けたら啓作がイヤホンかヘッドホンでR18のエッチなゲームなんかしててとかは無いよな・・・」
そんな独り言を漏らしつつ部屋の扉を開ける。
「…」
啓作は黙ってゲームを・・・っておぃ。
予想が合ってて最悪だ。しかも、抜いてる最中か・・・。
いや、健全な男子高校生だから分かるんだけども。
こうも露骨に見てしまうとな・・・。
部屋の扉を閉める。しかし、気にもなる。
これも青春って奴だろうか?
いや、単純に気になるだけか。特にエロ方面が。
一瞬の光景でもオレのズボンがテント張るくらいは簡単な事だった。
そういう点はオレも健全な男子高校生なわけだな。
そんな事を思って少し涙を溜める。ってこれじゃ入れないな・・・。
啓作の事だ。まず聞こえてないだろう。扉の開く音で気付かないのだから。
んで、執事さん達は分かっているんだろう。だから立ち入らない。
ここで義一待つのもな・・・。




