分かれ道
放送室を無断使用した直後に担任に怒鳴られた。
更には職員室に呼び出しを食らう始末。
反逆宣言したその日はそれだけで疲れた。
啓作と義一は話しかけてこなかった。
多分、動揺しているんだろう。
もしくはまだ頭の整理が出来ていないか。
キョウゲキ部の活動も休みだった。
オレは間違った道を選んだ?
分かれ道の間違った方向へ進んでいる?
それでももう後戻りは出来ない。
家に帰ってからも少しウジウジしていた。マルが吠えるくらいに。
実際にはお腹が空いていただけだろうが。
時間を忘れるくらい道の事ばかり考えていた。
そして、今日。
学校へと登校する。
朝からオレは注目の的。
ただし、生徒会の人間には誰とも会っていない。
わざと避けられているわけではなく偶然らしいが。
教室に入るとまだ啓作も義一も着て居なかった。
この時点で既にオレの意志は揺らいでる。
そんな簡単に決意したわけでもないんだが・・・親友を失う恐怖がオレの意志を揺らがせている。
でも、ここで別れ道だったとしても親友ではいたいな・・・。
それが我侭だとしても、傲慢だとしても。
オレが教室に入ってから10分して啓作が、更に5分してから義一が登校した。
互いに挨拶はしない。と言うよりも気まずいのか出来ないでいる。
「よ、よぅ・・・」
オレから挨拶をしてみる。
二人とも返事は無い。
怒っているのかそれとも悩んでいるのかさっぱり検討付かない。
「あのさ───」
話をしようとした時にタイミングがよくも悪くもチャイムが鳴る。
そのままホームルームが始まる。
オレにとっては反逆の一歩。だけど啓作や義一には別れの一歩だったのかも知れない。
そう思うと反逆声明を少し後悔する。
後悔する・・・。正確には残念に思っているのかも知れない。
バカ騒ぎしてそのノリで付いてきてくれると信じていたのかも知れない。
それはただの慢心で自己満足でしかないわけだ。
だから、そのギャップにオレはガッカリしていて残念に思っている。
それは二人に対して失礼なんだけども・・・オレにはそれくらい自分の事しか見えていない。
逆に言えば二人もある意味自分の事しか見えていない。
オレと共に生徒会に反旗を翻すか否か。
それを迫られているに等しい状況で自分以外の誰かを構っている余裕があるとは思えない。
余裕があるとすればそれは予測している人間か考えるのを辞めたか・・・あるいは──。
どの道オレ達には距離がある。
今日が永遠の別れって事にはならないだろうが付き合い方に変化が訪れる分かれ道だ。
オレはそこから逃れる事は出来ないしその術も知らない。
そして、オレに選択する権限は無い。
けれど出来る事が無いわけじゃない。
付き合い方が変わっても友達だと思い続ける事。それだけは出来る。
と言うよりそれしか何も許されないような状況に自分でハマっているのが現実。
反逆声明は諸刃だったな・・・。と今更思っても無駄な後悔だが。
それよりも二人がどう思ってるかを知りたい。
(マルの時みたいに意識の波長でもあって・・・なんて非論理的だよな・・・)
特に今はそんな非現実的な事を思っても叶うはずはない。
どちらかと言うなら現実はただ、授業と言う時間へ真っ直ぐ進むだけ。
オレ達に会話は無くただ単にギクシャクした空気だけが間を流れる。
周りは気付かないだろうがオレ達には確実に見えない壁がある。
オレの生徒会への反逆は二人を既に巻き込んでいる。
今更何を言っても撤回出来ない分オレは二人から声をかけられるか何か言われるまで何も出来ない。
正直もどかしいな・・・。
病院で入院していた感じに似ている。
あれは別の意味で何も出来ないと言うのが辛かったが。
今は二人にかける声が無いと言う意味でツライな。
オレが招いた結果だから受け入れるしかないにしてもだ。
そんな事を思っている間にホームルームは終わり既に一時限目の授業が始まろうとしている。
慌てて教科書だのノートだのを出す。
いつもなら生徒会に呼び出しを食らってもおかしくない。
けど、この日に呼び出しが来る事は無いだろうとオレは思っている。
反逆声明翌日と言う事もあってまだ色々熱が冷めていないからだ。
そんな状態でオレを呼んでも素直に応じる事は無い。
それに呼び出して応じでもしたらそれこそ笑い者、犬だ。
オレは成り下がるつもりは無い。
利口と言うよりも計算高い生徒会長ならこんな事は分かっているはずだ。
だから、今週は少なくとも動きを見せることは無いだろう。
・・・今オレがどうするべきか。
考えても考えても何も出てこない。
今ハ何モスルナ。
裏のオレはそういう。
何をしても裏目に出ると知っているからだろう。
オレも理解しているはずだ。
けどどうしても何かしなければと焦ってしまう。
オレが生徒会長に目を付けられて首輪を付けられて半年近く。
こんなに悩んだのは初めてだ。
何もするな・・・か。
何も出来ないから何もするな。
今のオレの言葉に他の生徒や先生達を巻き込む力はあっても親友二人をどうにかする力は無い。
ある意味では無力だ・・・。
そうやってただただ時間だけが過ぎて行く。
そうして、啓作と義一と言葉を交わす事無く下校。
部活はどうしたかって言うと騒ぎの影響でそんなにやれていない。
オレは家に直帰すると部屋に入ってベッドに倒れこむ。
部屋を開けっ放しにしていたのでマルが入ってきてオレに飛び掛る。
「マル、やめッ、くすぐったいだろ?」
頬にスリスリしてくるマル、尻尾の辺りが首の辺りを撫でてくすぐったい。
「結局オレは・・・」
マルを胸の上に掲げて視線を合わせて言いかけた。
オレは親友には何もしてやれないダメな人間だと。
それを堪えた。言ったら何かが崩れてしまいそうで怖いからだ。
マルは不思議そうに首を傾げる。
「あぁ・・・そういえば・・・」
マルを降ろしてパソコンを起動する。
ここ最近色々有りすぎてパソコンを起動するのは随分久々だ。
キーボードの辺りに少し埃が積もってる。
それを吹いてからパソコンの起動を確認しSkypeを起動する。
オレ達キョウゲキ部の部室の一つ、とでも言うべき場所。
起動すると発言が99件を超えていた。
それも当然だ。1ヶ月以上ほぼ放置していたんだから。
とりあえず古いのは確認せずに昨日辺りから確認する。
『麒代の奴、凄い声明してたな』
『生徒会長の策略の一つだろうけど』
『で、ワイらはどうするん?』
『麒代を助ける』
『そんで、具体的には?』
『反逆声明までが生徒会長の策略ならこっちはしばらく様子見』
『麒代には黙っとくん?』
『ここを見たらどうせ分かる』
『そか』
『だから、麒代がここを見るまではお互い喋らなくてもいいだろう』
この後は二人とも寝るとかそんな事しか書いてなくて具体的に反逆声明の事はここで途切れていた。
オレは泣きそうになった。
助ける。この一言はオレにとって既に救われたも同然の一言だから。
そして、今日オレがログインしたのを知ってか知らずか二人ともログインしている。
『昨日のログ見ただろ』
『そういう事や』
『何も表立って何かしようとかしなくていい』
『ワイらはずっと麒代と友達・・・いや親友や』
いきなりそう言われても戸惑う。慣れていないからだ。
『ありがとう』
とりあえず打てたのはこれだけだった。
その後は何を言おうか迷うばかり。
するとチャットにこんな事が書かれだす。
『キョウゲキ部として生徒会と対立する関係と言うのを演じたいと思う』
書き込んだのは啓作。
オレはそれを見て驚いた。
『そんな事して大丈夫なのか?!』
すぐにオレが聞き返す。
『あくまで「演じる」だけだから実際に対立しようって話じゃない』
それを聞いて安心する。
『俺達はまず生徒会と対立する構図を要するわけだ』
啓作が続ける。
『それを成すには麒代、オマエが鍵だ』
オレが鍵・・・。正直イマイチピンとこない。
「オレが鍵・・・どういう事だ?」
そのまま呟いた事をチャットにも書き込む。
『そのままの意味、正直に言うと今のまま反逆声明の状態で生徒会の指示を無視してればいい』
そんな事だけでいいのか? と思う程に簡単な事だ。
『まぁそれに便乗してワイらが麒代側に付く雰囲気出してればええんやろ?』
義一の方が理解が早そうだ。
『そういう事。だから麒代は演じる必要は無い。演じるのは俺と義一だけ』
つまりは個人の反逆声明を利用してキョウゲキ部と生徒会の対立を組みあげるのか。
やっと理解出来た。と思う。
『っと結構話してたから時間が・・・』
時計を見ると夕飯時だ。
それぞれに一旦夕飯でパソコンから離れる。
それから夕飯後にオレ達はSKypeで互いに意志の確認をした。
オレは生徒会とは一度も交わる道を歩んでいないと思う。
親友二人の態度は学校では分かれ道だと思っていた。
だけど実際には分かれ道だったけどその先で再び交わる道だったと思った。
オレはそれだけで十分嬉しかったし何より救われている。




