生徒会長から逃げろ
オレが入学してから数日、首輪を付けられて以来、生徒会長からの命令と言ったものも無く不気味な日々が続いていた。
加えて、道東も休み時間になると消える事もあり妙に動きづらい感じの日々でもあった。
キーンコーンカーンコーン──。今日は既に3時限目が過ぎている。
「はぁ…」
ここ2、3日は暇と言えば暇だ。
入学式からしばらくは友達を作る為に話し込む人もいた。
オレはどちらかと言えば話し込まれる方だった。
入学式当日の時点で首輪を貰った事で翌日には質問攻め。
他には興味の無い事も話す奴もいた。妙に気が合う奴もいた。
ただ、あまりにも普通過ぎて逆に不気味さが増している。
普通に考えればペットにしたならばすぐに命令でもしてくると考えていたからだ。
オレは机に伏せて考える。
「もし───」
もし、これが生徒会長の慈悲なら受け取ってはいけないはずだ。
もし、これが猶予ならば何かしなければならないはずだ。
ただ、忘れている…と言うにはあまりにもマヌケだ。
何か準備している…と言うなら何を準備しているんだ…。
オレでは想像もつかない事を考えているとしたらとも思った。
ピンポンパンポーン。そんな時校内放送が入る。
『生徒会、いや生徒会長より連絡だ。首輪を貰った諸君は至急第四会議室に集合するように』
生徒会長直々に放送してきた。
オレはイヤな予感しかしていない。
特に何かを仕込んでいると言うような示唆をされてはそう考えるしかない。
逃げるか? 何処に…。抗うか? どうやって…。
色々考えながらも席を立ち第四会議室に向かっていた。
教室を出ると道東が戻ってくるところに出くわした。
「…そう身構えなくてもいいはずだ」
「どういう事だ…?」
すれ違いざまにその一言を告げると立ち止まる事も無く自分の席へと戻る道東。
すぐさま振り向き聞くも返事は無い。オレは道東の言った事をさっぱり理解出来なかった。
頭がオーバーヒートしそうな程の思考を巡らせながらオレは第四会議室の前まで来ていた。
結局、バカなオレが何を考えようと無駄だった。
トントン。扉をノックして入る。
入ると首輪を貰っているであろう人物が既に数名来ていた。
「君が最後だ。時間が惜しい。すぐにでも説明を始める」
どうやら、想像以上に時間を食っていたらしい。
片肘をついている様子からして生徒会長はイライラしている様だ。
その苛立ちをオレに向けられるような気がしてオレは並んでいる列の端っこにくっついた。
「君達はこの僕が選んだ。それは分かっているだろう…」
生徒会長は言葉を濁し手を組み、あまり言いたくないような素振りをしている。
「理由は───」
話が急に止まった。首輪を付けた理由、その説明が無ければ誰も従う事は無いはずだ。
「…現生徒会は人手不足だ。やれる事は限られている…」
それだけの理由とは思えない程簡単な理由だ。
「それだけとは思えない…」
ポロっとオレの独り言が出てしまった。目線がオレに向く。
「だってそうだろ? それだけならば首輪を付けてまで強制する必要性があるのか?」
勢いに任せて思うがままに言ってしまった。
生徒会長の溜め息が聞こえる。
「強制しなければならない程ボランティア精神に欠けているのだ!」
言い切る生徒会長だが説得力はイマイチだ。
パチッ─。疑惑の目線が生徒会長に向けられると全員に電流が流れた。
「いてッ」
最初に食らった微弱と言うよりは静電気のような電流だ。
「この理由だけでは不満…と言うわけか…」
電流を流した直後とは思えない言葉だ。
つまりは納得出来ない、あるいは服従しなければ制裁…なのだと思った。
「に、逃げろ──」
生徒の一人が逃げ出した。
それに釣られてオレ以外の全員が慌てて出て行く。
おそらく首輪を付けられた時には電流を流されなかったのだろう。
「さて、後輩の頼みは聞いた。逃げたのはいずれ従うだろう…」
その一言で道東の言葉と繋がった。…そんなに身構えなくてもいいはずだ。
つまりは、道東が少し根回しをしたと言う事だ。
が、身構えて逃げるか抗う姿勢をすれば全て聞くことは出来なかったのだろう。
生徒会長はオレだけに続きを話し始める。
「…。これは政府からの要請だ」
生徒会長はおもむろにジャケットの胸ポケットから何かを取り出しオレに投げ渡してきた。
投げ渡された物は見ると生徒会長の名刺だった。
どうやら、会社の跡取りと言う名目も持っているらしい。
「会社の幹部は秘書あるいは執事を一人以上雇う事。その為の審査は各自に任されている」
政府の要請…ようは就職支援と言う事だ。それを学校の生徒から選ぼうと言う算段らしい。
他、現段階での社会人には有望な株は無いと言う事もこの行為から窺える。
が、しかしだ。半分は自分の退屈しのぎのはずだ。でなければ仕込み首輪等用意する必要も無いはずだ。
まぁ続きを聞いた時点でオレは既に逃げ遅れている。
「…」
二人きりのこの状況で黙り込んでしまうのは何かマズイ気がした。
「お、オレはあんたには従えないぜ」
言葉がおかしくなってしまった。しかし、言いたい事は言った。
キーンコーンカーンコーン──。休み時間の終わりを告げるチャイムと同時にオレは逃げた。
他の奴ら同様に逃げた。
息を切らしながら急いで教室に戻り席に着く。
道東はチラッとオレを見て笑った…ように見えた。
数学担当の先生が入ってくると道東は前を向いた。
号令と共に授業が始まると同時にオレは第四会議室での事を思い出し考える。
確かにオレは生徒会長と決別した。…とは言ってもすぐには割り切れない。
国からの命令に近い要請を背負って、まっとうしようとしていただけの生徒会長。
が反面、遊びも兼ねて首輪を付けた生徒会長。どっちも同じ生徒会長だ。
軽蔑しきれるとは言えない。
それに、首輪を付けられただけでまだ何も押し付けられてはいない。
だけど、オレは確かに従えないと言ってしまった。
それだけに今までも近づかなかったが余計に生徒会長の周辺には近寄れない…。
──と言う事はしばらくは生徒会を含めて生徒会長から逃げるしかねぇじゃねーか…。
それから授業が終わってから身を隠すと言う行動を繰り返した。
オレは今、生徒会長から逃げている。
抗うのではなく逃げている。
「オマエ…そこだとバレバレだろ」
しかし、隠れては道東に見つかっている。
逃げているとは言っても生徒会に見つからないようにと言うだけで誰にも見つからないと言う事は無い。
オレは道東に尋ねた。
「なぁ道東──」
第四会議室で最後まで聞いた事を道東に話した。
が、それはニュース等で大よそ知っていたらしい。
「──おまえならどうするんだ?」
道東の答えは簡単だった。お気に入りから外れるように行動する。それだけだった。
オレはそれを出来ているとは思えない。
けど、他に何かあるか聞くとこう答えられた。
「何もしない」
「はぁ?! 」
思わず大きな声になってしまった。
こいつ、オレを助けるつもりは無いのか?
それどころか自分の事でも途中で投げ出すタイプなのか?
道東啓作…やっぱり分からない奴だ。
ピンポンパンポーン。体育館裏で道東と話していると放送が入る。
『徳間 麒代君、生徒会副会長からお呼び出しです』
今、一番近寄りたくない生徒会…それも副会長から呼び出し…。
オレはそれに従わない。放送は休み時間に入るたびに流れ下校時刻まで呼び出しは続いた。
それを全部無視してオレは帰った。…それが波乱の幕開けになるとは今のオレには分からない…。