不思議な一日
文化祭が終わってからのある日の日曜日。
オレはまだ夢の中に居る。
とは言っても夢の中って分かるのはマルの目線でオレがオレを見ているからだ。
目の前にはオレが居る。
正確にはオレがマルになっている感じだ。
鳴く事もせずにオレの上で起きるのを待っている。
オレがオレの体が起きるのを待っている時点で夢だと分かる。
こんな不思議な夢を見るくらいだ。
相当疲れているんだろう。
目の前のオレは起きない。
上に乗っているマルになっているオレもそのまま起こそうとしない。
疲れているのが分かっているからだ。
だからってこのままだと目覚めないんじゃないかと思う程心配にもなる。
起こそうか? それともこのまましばらく様子を見るか?
まぁまだ6時くらいだ。
10時まで起きない時は起こそう。
少し暇だな・・・。
いつもマルはオレが起きるまではこうやっているのか・・・。
そう思う程、人間の感覚だと暇な時間が流れていく。
(ふぁ~)
自然とあくびも出る。
マル・・・意外と退屈な毎日を送っているんだな。
それでもオレを気遣ったりして・・・結構優しいんだな。
もし、これで暴れん坊だったりしたらオレは困っていただろうな。
そう思う程には今、マルの気持ちが伝わってくる。と言うよりそう感じる。
そんな思いを感じた瞬間に意識が遠くなる感じがした。
もしかして、オレは目覚めるのか?
それともまた別の夢でも見るのか?
期待や不安がありながらも身を任せるように意識を手放す。
次に目が覚めると天井が見えた。
身体の上に何か乗ってる。
まぁ分かりきっている。マルが乗っているんだと。
とは言ってもまだ夢の中に居る気分だ。
ふわふわ・・・と言うかぷかぷか・・・と言うべきか。
意識と身体のバランスが取れていない感じだ。
起き上がろうとしてみるもすぐに起き上がれない。
マルが重たい・・・と言うわけでは無さそうだ。
ただ、身体がまだ目覚めていない感じだ。
それから30分くらいしてやっと起き上がれた。
腹の上辺りに居るマルも目が覚めたと言うよりオレが起きた気配で目を開ける。
「さっきの夢はオマエの気持ちか?」
マルは返事をしない。それでもいいと思った。
「いつも悪いな」
そう言ってマルの頭を撫でてやった。
今日は不思議な一日になる。そんな予感がした。
あんな夢を見たからだろうか・・・。
とりあえず起きたことだし朝飯を食べよう。
マルを抱っこして部屋を出る。
マルは暴れることも無くオレに身を預けている。
その時点でやっぱり利口と言うべきか面倒なだけなのか・・・。
朝飯を食べて運動がてらマルと散歩に出る。
家に鍵をかけて歩き出す。歩いていて気付いた。
マル、結構大きくなっているな・・・。
決して大型犬みたいに急激に大きくなっているわけじゃない。
それでも、月日が経っている証明にはなる。
一回りくらいだろうか。それくらいには大きくなっている。
「マル、オマエも成長してるんだな」
微笑ましくもあり少し寂しい感じもした。
親になるってそういう事なのかも知れない。
まぁオレの親はそこまで寂しくは思ってないだろう。
だからこそ、オレは一人でこの家に住んでいられるのだから。
逆に成長を喜んでいるかも知れない。
とは言っても怪我しても来ないのだから見放されてる可能性も否定出来ないんだが・・・。
しかし、それで否定するのは違うだろうな。
だって入院費用だとかはちゃんと支払われている。不器用なだけだと思いたい。
勝手な妄想でしかないわけなんだが。
「よし、マル。少し寄り道していこう」
どうせ日曜日だ。寄り道したところで特に影響は受けない。
それより、夢で見た通りならマルはオレともっと一緒にいたいと思うはずだ。そうであって欲しい。
そんな願いを思いながら寄り道の為に散歩のルートから外れて行く。
寄り道・・・何処へ行こうか。
ぼーっとしながら歩く。
何処に行くでも無くただ道を外れて。
マルの行きたいところへ行くのが一番だろう。
マルに引っ張られる身体をそのままにマルについて行くように歩いた。
気付けば久々に九グループの運営するドッグラン。
あぁ、運動がしたいのか。
会員証だとかは散歩の時はいつも持ち歩いている。
だからいつでもここには入れる。
だけどいつの間にか来なくなっていた。
理由は怪我だとかなんだとかで忙しかったから。
とは言ってもマルはここに来たいと思ってたんだろう。
そんな事も気付けなくなる程、入院してからおかしくなっているんだろう。
いや、その前からか。
とりあえず会員証を見せてドッグランに入場する。
二重の入り口を抜けて内側の入り口が閉められるのを確認するとマルからリードを外す。
するとマルは走っていく。
オレはそれを見送って近くのベンチに腰掛ける。
マルが一度戻ってきた。オレの前で座る。
そんなマルを撫でてやる。
疲れているんだろうか。ちょっと眠気がオレを襲う。
首を振ってから頬を両手で叩く。
マルはそんなオレを見て首を傾げる。
「ちょっとうとうとしているだけだから遊んで来い」
その言葉を聞いてマルは他の犬とじゃれる。
オレはそれを確認すると少しうとうとしたまま眠りに入った。
しばらくもしない内にオレは夢を見る。見ていると自覚する。
(この大きい奴はなんだ・・・?)
毛むくじゃらの大きい奴。多分、犬かなんかだろう。
それを確認するのに時間はかからなかった。
身体が勝手に動く。と言うより多分オレは見てるだけだ。
マルは起きている。けど何かの拍子にマルの意識にオレがシンクロしているんだろう。
まぁオカルト染みた事やマッドサイエンティスト染みた事で理解の範疇を超えるよりは現実味がある。
だから、今はただ身を任せてみようと思った。
オレはマルの気持ちを最近感じていない。
それなら、今この状態を利用する。
理解出来ない現象だがそれでもマルの気持ちを少しでも分かるなら不確定要素とかはどうでもいい。
それにこれがマルの気持ちじゃなかったとしてもマルがオレをどう思っていても何かが伝わってくる。
それだけでオレはマルを構ってやれなかった時間を埋める事が出来る気がした。
幻想でも何でもいい。だって、考えれば考える程ドツボにハマる。
なら、今は身を任せてただどうなるか見守るだけだ。
決断とかそういうのはどうでもいい。
身を任せた結果に従う・・・違うな。
身を任せて出た結果をオレは受け入れる。
ただ、今日の時点でマルは喜んでいる。
楽しそうな目をしている・・・。
けど、少し寂しそうな顔もしている。
オレはマルに何か出来ないのだろうか?
いくらなんでもマルは我慢しすぎているんじゃないだろうか?
ちょっと考えるだけで泥沼にハマって抜けなくなりそうな感じだ。
寂しそうな目を感じた・・・オレは起きるべきだと思った。
けど起きれそうに無い。
意識はまだマルとシンクロしたままだ。
多分マルが気付けばオレは寝ている事だろう。
少し上を見ればまだ昼過ぎ。
寝ていても問題は無いだろう。
けど、実際にはオレは焦っている。
マルに何もしてやれてないと。
オレの心がこの状態で伝わっているのだとしたら少し情けないな。
それくらいにマルが愛おしいんだろう。
オレはオレでまずは起きる事だろうか・・・。
意識を自分の身体に戻すように念じてみる。
科学的にもオカルト的にもこんなんで戻れるならシンクロも自由なはずだ。
だから無謀だと分かっていてもこんな方法しか思いつかない。
戻って何をするかとかって明確な目的とかも無い。
だからはっきり戻れるとも思っていない。
けど、起きて何か出来るとするならオレはマルを構ってやる事だ。
少しは集中しているのが効果あったのかオレは自分の身体の方に吸い寄せられる感じがした。
身体に吸い寄せられてそこで一旦意識が途切れる。
次に目を覚ますと目の前でマルは大きな犬と社交的に遊んでいた。
「・・・マル、そろそろ帰るか」
そう一言言うとマルが駆け寄ってきた。
オレが呼ぶと尻尾を振って喜んで駆けて来る。
あぁ、そうかマルは話しかけて欲しいんだ。オレに。
だから近くに居るのか。
そう思うとマルが愛おしく感じた。
多分これは間違いでも勘違いでもなく紛れも無くそうなんだと思う。
オレとマルはドッグランを後にして家の方向に歩く。
いい感じに夕方だ。寄り道するなら買い物くらいだな。
そんな事を思いながらもマルとまずは帰る事を優先した。
オレはまだマルの事もちゃんと知ってるわけじゃない。
これから知っていく事も多い。
だから今日の不思議な体験はオレにとっては多分一回だけ与えられたチャンスかも知れない。
だったら無駄にするよりはマルに話をして遊んでやって・・・。
そうやってオレをリラックスさせてくれるマルをオレは少しでも理解していなければ。
もっといい関係なんて作れないんだろう。
・・・生徒会長はを理解しているんだろうか?
そんな事を思ってしまう程センチメンタルな今のオレが居た。
飼い犬にも感情はある。オレは今日それを知った。




