マッドサイエンティストの文化祭
「───と言うわけでオマエには」
いきなり何故、授業も出ずに生徒会室でこうなっているのかと言うと。
退院直後、文化祭の準備云々の影響なのかは知らないが1週間程、怖いぐらい何も起きなかった。
で、1週間後文化祭の準備が始まった時にそれは起きた。
『警告
生徒会は政府の非人道的プログラムより引け
そして、政府に我々の推奨するプログラムを推すように』
それは学校でも一部しか知らない情報だった。
まぁその非人道的プログラムの被験者がオレを含めた首輪の連中なわけで。
とは言っても、特に非人道的過ぎる程の稼動労働をさせられているわけでもない。
だから、紙自体に学校全体が動かれる程の影響は無い。
学校はそのプログラム自体の執行そのもので多大な影響を受けているわけでもないからだ。
が、生徒会だけとなると別になる。
非人道的な事を行っていると言う噂だけでも十分信用問題が起きるからだ。
それが元で緊急会議の結果、4時限目はオレを含む首輪の連中は生徒会が借りると言う名目で集められた。
で、現在まで戻ってきて。
「囮になってもらう」
囮ねぇ・・・。
「何処の誰が仕掛けたかは大よそ推測出来るが・・・」
歯切れが悪い。
「こう、反抗的でよく命令を聞かないような犬と言うイメージのオマエしか囮に出来そうなのが居なくてな・・・」
いや、そうだろうよ。
オレ以外の首輪の連中の大概は電流はオレより弱い。
これは最近知った事だ。
だが、ピリっとしただけで過剰な反応を見せるらしく危険因子になるから監視していると言うのがオレ以外の首輪の連中の扱いらしい。
「そういうのは分かってんなら殴ってでも・・・」
「そういうのはダメだよ。今回そんな事すれば逆に罠にはまっちゃう」
副会長が脳筋的じゃないのも珍しいがそれを制止するのは更に珍しい。
相手は相当な曲者なんだろう。で、具体的にどうするのか?
「僕としては証拠を抑えてと言うのがセオリーなのだけども。何を推奨するのかも一応把握したいのが現状だ」
潜入しろってか?
部活はどうするんだ?
色々聞きたい事があるんだが・・・。
「基本的な調査は時雨に任せるので大丈夫です。さて、麒代、オマエ以外は解散でよろしい」
オレだけ残すって事は別件だろう。
「腕はもう大丈夫なのか?」
こういう気遣いをする生徒会長も珍しい。と言うより慣れないな・・・。
「と、とりあえずは・・・」
しどろもどろ、オレまでペースが狂う。
と言うかなんでこんなんで喜んでいるんだ?!
違うだろ!!!
「で、あんたがオレをどう扱うかは知らないけどな。オレはキョウゲキ部を辞めるつもりは無いぜ?」
キョウゲキ部は退院オレの直後のオレが居るのでしばらく休止していたが文化祭の関係でやる事がある。
「それに、相手が分かっているのに態々突っ込むのもどうかと思うんだが!?」
罠にハマって自滅とか言うパターンは嫌いだ。
「何もする必要は無い。いつも通り部活をしていればいい」
そんなんで囮になるのか?
「まぁ色々な考えはひふみんに任せてok~って事で」
副会長がいつもの感じになってきた。
「あ、そうそう枝豆チーズタルトの感想聞かせてー」
今必要な事か・・・?
「一切れ目はうまいが二切れ目からキツイな」
大体20cmホール仕様のタルト自体がキツイだろう・・・。
「あー、一人でほとんど食べたんだ?」
馬鹿とでも言うような目で見られた。
「20cmホールだよ? 皆で食べればと思って持たせたのにぃ」
そうならそうと書いておけ。
後ドクロマークとハートマークの件も言いたいが話が逸れていく。
「とりあえずいつも通りでいい。それだけです」
その一言の後、オレも開放された。
いつも通りと言うのが指摘されると分からないものだな。
少し困惑する。
で、何故かはわからないけど生徒会室を出てから少し後ろに気配を感じる。
特に何をしてくるわけでも無いが気になる。
啓作や義一みたいな気配ではない時点で他の誰かなのは分かる。
先生・・・って言うような気配でもない。
結構気になるもので途中で止まっては後ろを振り返る。
「誰もいない・・・」
なんか本当に面倒な事だ。
・・・張り紙をした奴?
オレを付ける理由はなんだ?
付けたところで何も無いと思うんだが・・・。
購買でカレーパンを買うにもトイレに行くにも気配が付いてくる。
ある種気持ち悪い。
いっそ怒声で叫んでやろうか?
そう思う程に気色が悪くなる行為だ。
それが何日も続いた。
キョウゲキ部としての活動はしている。
が、常に誰かの気配を感じると言うのは不愉快なもので・・・。
「麒代、最近イライラしてるな」
啓作が言うとおりオレは少しイライラしていた。
いつも通りと言う事も出来ない感じでイライラしているのに尚更イライラが募る。
「だぁーーーーーーーーー」
いきなり叫んだ。義一や啓作は別に驚きもしない。
イライラして叫んだ程度で受け取っているようだ。
「誰かは知らねぇけどコソコソ何かぎまわってんだ?!」
その一言を言った途端に気配が消えた。不気味だ。
こういうのは生徒会長に報告・・・するのが普通なんだろうが・・・。
オレの場合生徒会長とはあまり会いたくないから限りなく一人で解決を試みる。
それでも、今の気配消えてる状態なら普段通り過ごせるかも知れない。
文化祭まで残り1ヶ月。これ以上の厄介事はごめんだ。
「そういえばキョウゲキ部は文化祭で何するか・・・」
肝心なことをまだ決めていない。
「即興劇とか」
啓作・・・さすがに人が集らないだろう。
「ワイは屋台でも出したいなー」
義一・・・それこそ今からどうやって準備するんだ?!
オレ達三人結局いつも通りキョウゲキ部はぐうたらなことばかりしている。
「いっそ、文化祭を回ってレポートでも提出するか?」
それこそ、オレ達には似合わない事だが。
「仙台行った時みたいな事出来ればええんやけどねー」
適当に言ってるように感じた。
とは言ってもそういうのがオレ達らしいのだろうけど。
さて、キョウゲキ部は何をしたものか・・・。
クラスの方は屋台をやる事になっている。
いっそ、屋台めぐりでもするか?
そう簡単な話でもない気がするが。
「まぁ何にせよワイらは自由に文化祭楽しもうや」
それはそうだ。
楽しまなければ多分、同じ時間は来ないだろう。
多分、今のオレ達に必要なのは楽しむ事。
青春の流れに身を任せてただ、自由に生きる事だろう。
───文化祭まで残り2週間。
オレ達は結局クラスの出し物はやるけど部としては屋台めぐりをする事にした。
学校としては張り紙の事もすっかり忘れられている感じだが文化祭って感じは徐々に色濃くなってきている。
屋台の土台を組むところ、演劇の為の舞台セットを組み立てているところ等々。
オレ達のクラスは屋台だが内容としては焼きそばだ。
マヨネーズはかける、かけないだの意見が出ていて屋台の土台は組みあがってるのに肝心の中身は今だ議論中だ。
1年のオレ達は文化祭が初だから色々やりたい。
だから、議論も白熱していく。
「そこは───」
「だからそれじゃ──」
「だったら───」
それでもこの雰囲気は結構楽しい。
ただ、気になるのは少し前の事。
(あの気配はなんだったんだろうな)
そういうのも含めて何処か皆と距離感が分からないで居る。
楽しいはずなのに楽しくない。
いつも通りのはずなのにいつも通りじゃない感じで居心地が悪かった。
「くそッ」
オレはその一言を小さく呟くと教室を後にした。
文化祭が近いときは授業は行われても時間が短縮されていたりする。
そのせいか考える時間がありすぎだ。
何か考えたい時はここがいい。
来たのは屋上の扉の上。
誰もいない場所で少し肌寒い青空を見ていると気が紛れる気がした。
「オレ・・・何をしたらいいんだ・・・」
考えるのは苦手な癖に考える。
───文化祭当日。
オレ達はやっぱり出店めぐりをしていた。
「おーここはお好み焼きやな」
義一ははしゃいでる。これじゃ祭りに来た子供だな。
啓作ははしゃぎはしないがそれなりに雰囲気を楽しんでるようだ。
オレはと言うと後ろの気配が気になって仕方ない。
当日になってまた付けられるとはいい気分ではないな。
ガサッ。誰かとぶつかった。
「あ、すいま──?」
もう既に誰もいない。気配も消えた。
(ん?)
財布は念のために確認した。ある。
とは言っても何もされていないって感じでもない。
おかしな感じだ。
文化祭も結構な時間が過ぎた。
人の賑わいは絶えず、また出店の賑わいも衰えず。
楽しんでいると生徒会長が見えた。
(うわ・・・)
自然と啓作や義一に紛れて通り過ごす。気付いていない。
仕切るだけで忙しいんだろうか?
オレに気付かなかっただけだろうか?
とは言ってもなんかいつも相手にされているのに今、相手にされないのは少し寂しいと感じている。
・・・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、違う。
なんで寂しいなんて感じているんだ!?
入院してからなんかオレおかしいだろ!!
これじゃマルと同じ犬か!!? いや、マルは賢いからな・・・。
構ってちゃん・・・?!! 急にガックリと来る。
なんだかオレ・・・根本的に間違ってきているような・・・。
いいや、まだ大丈夫なはずだ。
そんな事を考えていると急に身体の自由が利かなくなった。
(なんだ?!)
声すら出せない。
啓作と義一は気付かずにオレの前を歩いていく。
一方のオレはと言うと身体が勝手に動き出す。
そして、何処かを目指して歩き出していた。
(一体何処へ行こうってんだ?)
思考の自由は利く。しかし身体の自由は利かない。
「ようこそ、生徒会の犬君」
目の前に現れたのはメガネでいかにも理数系だと分かる先輩だ。
「ふん、君のような素材を使わなければいけないとは・・・」
一人ぶつぶつ言うあんたは誰だ?
んで、何の目的があってオレの目の前に居る?
疑問点はいくらでも出る。
だけど声が出せないのは変わらない。
「おっと、実験体を放置して私は何をしていたんだろうか───」
実験体? どうやら何かの実験をオレで行っているらしい。
思い当たるとしたら張り紙だとか最近付けられている気配がしてたとか───。
この男が犯人?
なら、近くに生徒会長が居たり・・・。って目は動かせるのか。
目だけで動かして辺りを確認する。
副会長が居た。ただ、助ける気は無いのか様子を見ているのか一定の距離を保っている。
この状況を誰か説明してくれ!!
でないと何がどうでこうだとか理解が出来ない。
「さて、茶番はそれくらいでいいでしょう」
そんな事を思っていると後ろから声がした。
もちろん、声で分かる。生徒会長だ。
「3年A組、科学研究部部長。加賀 才艶先輩。残念です。あなたがマッドサイエンティストに落ちていたとは」
わざとらしい残念さを表現しているようだがオレには見えない。
「生徒会として非道な事は許すわけにはいきません」
これが演技だとしたら確実に食えねぇ・・・。
素だとしたらこういうキャラだったか? って思う。
「君の犬はこの私が預かっていると言うのに君は私に物言うのかね!?」
キレ気味のマッドサイエンティスト野郎。
動けるなら一発殴りを入れたいところだ。
「はぁ・・・そこの反発的な奴なら別にあなたが操る必要もないでしょうに・・・」
呆れているのがわかる言い方だ。
「そ、そんな言葉で助けようとしたって無駄だ。私の作った作品は───」
そんな事を口走ってる間にオレの首に電流が流れる。
「ってーな、オィ」
ん? 自由に喋れる。
手を動かしてみたり屈伸したり・・・体の自由が戻っている。
「な、何をした?!」
加賀が慌てる。
「何、機械に電気を流しただけです」
確かにそうかも知れねぇけどこういう話は聞いてない。
囮にされるのは分かってたとは言ってもこういう段取りだとかは聞いてない。
オレは生徒会長を睨みつける。
「とりあえず、加賀先輩は現行犯で職員室でみっちり搾り取ってもらいましょうか」
オレの睨みを無視して生徒会長はこの科学研究部部長を連行するように待機していた副会長に合図を送る。
「んじゃいこうか~」
ゆっくり出て来たと思ったら確実に逃げられないようにする副会長はやはり武術においては強い。
「で、オレに説明は?」
ここずっと命令も何も無かったのもあるがいつも通りと指示されていつも通りで居られなかった事の説明を求めた。
返事は無い。と、思ったら生徒会長がいきなり近づいてきて・・・。
オレの首に右手を伸ばしてきた。
え? 首輪外されるのか?!
待ち望んでいた瞬間が来たと思った。
しかし、それはあまりにもかけ離れた理想でしかなかった。
「証拠回収。オマエもご苦労だった。・・・首輪は外さないから勘違いはするな」
現実はこうだ。
現実に心を打ちのめされていわゆる泣き顔みたいな感じになっている。
「後は文化祭をちゃんと楽しむように」
少しは気遣ってくれているのだろうか?
時々謎な言動を見せる生徒会長はオレにとっては理解しがたい。
まぁ、とりあえず科学研究部のマッドサイエンティストが起こした文化祭事件はオレに色々謎を残す不思議な文化祭になった。




