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見舞い

オレが入院して二週間くらいした頃だ。

「よぉ」

「ん」

義一と啓作がやってきた。

オレは右手を上げるだけで大した反応をしてやれない。

「おいおい、元気無いなー。どうしたん?」

「は゛な゛れ゛ろ゛」

寄り付く義一に掠れ声で払いのける。

「なんや、声やられたんか? なして?」

そりゃ・・・みっともない理由だ。

医者と喧嘩したり云々騒いでいた結果、喉を痛めてこのザマ。

とは言いたくても言えなかった。

「まぁなんでもええんやけど、食欲はあるん?」

その問いには頷いた。

機嫌が悪いせいか腹が減って仕方ない。

病院食もあんまりおいしいとは言いがたいのもあってここ最近ロクな食事が取れてない。

「そかそか、カレーパンとか色々買うてきたで」

スーパーの袋一杯のパンだとか菓子だとか大量に入っている。

こういう時、ありがたいと素直に思えるだけマシだろう。

オレはまずカレーパンから食べる。

「あーそれとな・・・」

義一の歯切れが急に悪くなる。

「これは俺から言う。キョウゲキ部に監査が入る事になった。で、麒代の傷の原因をキョウゲキ部での事にすればいいと言う案が───」

そこまで聞いて大体分かった。

ようはオレの出来事を不祥事ではなくキョウゲキでの演劇にしろと生徒会長に言われたんだと。

頷いてほぼ聞き流す。

そして、片手でokサインを出す。

こういう時どうせオレには拒否権は無い。

状況的に拒否出来ない状態にしてからこういう話をする。

生徒会長のいつもの手だ。なら、こういうのは受け流す。

それくらい学習しないと疲れるだけだ。

喉がこんなんだと尚更、何を言ってもな・・・ってのもあるが。

「ま゛ぁ゛、そ゛の゛へ゛ん゛は゛ま゛か゛せ゛た゛」

さすがに喋るのもつらい。

「喋るのムリせんでええで」

とりあえず頷く。

「にしても、麒代が居ないだけで結構寂しいもんやな」

そうなのか? と首を傾げてみる。

「なんて言うか静かで退屈だな」

啓作がそんな事を言うとは思わなかった。

それくらいには青春してたって事か。

自分でもそこはやっぱり自覚してない。

と言うより自覚する暇すら与えてもらえてなかったか。

とりあえず言葉にしようと携帯を取り出す。

「ん? どしたん?」

『で、生徒会長だとか副会長に不穏な動きとかは無いよな?』

メール機能で文字を打ってそれを見せる。

返答は首を横に振るだけで分かった。

(こう穏やか過ぎるのも嫌な感じだな・・・)

そう思いながら携帯の日付が目に入る。

『文化祭いつだ?!』

急に思い出した。文化祭だとかが近い。

準備とかも含めるとそろそろだろう。

「えっと・・・麒代が退院する翌日くらいやろな」

それで完全に把握出来た。

今は機をうかがっている。生徒会長も副会長も機会を伺っている。

ただ、伺っているんじゃなくてバシバシ働かせる為に一番いい時期をだ。

とは言ってもオレは病院飽きたからな。

心がどんどん腐っていく感じで死臭でも漂ってきそうなくらいに暗い空気が渦巻いている。

この大部屋なんかは特にそうだ。誰も彼も大人しすぎる。

それでもってただ、外を見ては腐っていく。

オレはそんなのごめんだ。

なら、生徒会長だとか副会長を待つよりも・・・それは出来ないか。

抜糸だけは確実にしないといけない。

これだけはどんなにかかっても確実にしないと後がヤバイって聞いている。

あーもう面倒だ。

なんであんな時にあんな馬鹿やったんだオレ。

一人悶々と頭を抱える。

「大丈夫か?」

メール機能ですぐ返事を返す。

『大丈夫、ただ病院ってだけでイライラするだけだ』

少し笑いそうな義一。

入院ってだけで人はこんなに束縛されないといけないのかと思うと生徒会長の方がまだ束縛は緩い。

それに何より基本行動自由なのがオレにとっては一番、心のバランスを取っているらしい。

病院生活で左腕は固定。右腕で食える食事も限られるし、病院食がマズイマズイ。

こんな事を公に言ってたら大笑いだろう。それくらいには今がすごく嫌だ。

それにしても、嫌な空気。

そして、嫌な予感。

抜糸までは我慢するとして、今は今後来るであろう色々な事を考えないといけないかも知れないな・・・。

何しろ、生徒会長の事だ。

オレに何をやらせるにしても時間の猶予なんて本来与えてはくれないのだから・・・。

「麒代どないしたん?」

オレが黙り込んでいると義一が不思議そうに顔を覗いてきた。

『別に何でもない。ただ、な』

言葉は出なくても携帯が使えてるだけマシ・・・。と思っていたがそろそろ電池がヤバそうだ。

オレは携帯の電池残量を指差す。

「あー充電器? 一応あるで」

マルチタイプの充電器・・・義一何処まで準備のいい奴なんだ・・・。

まぁそんな小さい歓喜を他所に啓作も何か思慮深く考えているようだった。

あえてそこを聞くような間柄じゃない。聞いたところで・・・と言うのもあるんだが。

多分、オレ以上に想定しているはずだ。生徒会長の事を。

副会長みたいな能天気系は別にじゃれてれば害は少ない。

実害が出るのは生徒会長。それと一部のキチガイだとか悠だとかああいう輩だ。

もし、現時点で啓作がゲームだとか考えているなら啓作にとってはゲームと言う世界で世界を見ているだけの事であって

オレがそこに深入りしていく必要性は無い。

だから、啓作が思慮深い顔をしていようがそれはそれだ。

それはそれとして、義一が後ろ手に持っているものが気になる。

『それ・・・なんだ?』

義一に尋ねる。

「あぁ、これな。副会長さんが麒代の為に作った言っとたよ」

・・・あんまりいいイメージが無いな。

とは思いつつもケーキっぽいものを開ける。

やけに緑っぽいチーズケーキ・・・いや、タルトか?

「枝豆チーズタルトやって」

ずんだ餅だとかじゃあるまいし・・・。

とは思いつつ食べる。うまい、が二切れ目から胃に来るのか重い。

隅っこにはメモ用紙が入っていた。

『これ食べて早く元気になってよね』

メモは至って健気な女子高生・・・なんだが。何故文章の後にドクロマークとハートマークを描いて置く必要がある?!

どう捉えればいいんだ・・・。

このなんとも言えない空気に周りの沈黙云々全て吹き飛ばしててでも突っ込みたい。

まぁ副会長がいない時点で突っ込みすら出来ない不燃焼なのだが。

もはや、蛇の生殺し・・・いやホルマリン漬け並みに酷い。

これはオレに対する嫌味か?!

いや、それともこうやってしか愛情表現・・・は無いな。

愛情表現ってタイプでも無いだろ・・・副会長は。

何にしてもこんな所でオレはどんよりだとかしていても仕方ない。

早く退院して、いつもの生活に戻れればそれでいいんだから。


それより・・・食いすぎたか・・・。

さすがに腹が痛い・・・。

「ほな、ワイらは帰るで」

義一がその一言を言って啓作を連れて行く。

その後、オレはさすがにタルトの影響だとか色々あってトイレに数回は篭るハメになった。

(副会長覚えてろ・・・)

半分以上は自業自得なのは分かっているがやっぱり人の性。

誰かのせいにもしたくはなる。

にしても、あのまま義一とか啓作がもう少し居たら・・・。

その考えに少しおえっとする。

リバースからのベッドの惨劇ー。これだけは絶対にしたくなかった。

というよりしたら最悪、人前に出るのすらヤバくなるだろう。

そう思うと色々心情的には重たくもなる。


結局、それからしばらく抜糸するまでに1週間以上の時間がかかった。

傷は深い、と言う訳でも無いが痕は残った。

ああいう事は多分、一度の人生でそうそう出会う事は無い。

だから、オレにとってはケジメでもあり救えなかった友への手向けでもあるこの傷。

生涯忘れはしないだろう。

これでもオレの中の過去の一つに一区切りついたに過ぎない。

それでも、この区切りは重要だ。

無いままの区切りより、目に見える形で残ったこの区切りは大きい。

人だから、後悔もする。色々ある。

そんなのは分かっている。それでも、生徒会長と対立しながらオレ自身を探せばきっと───。

・・・柄にもない事を考えてしまった。

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