麒代の居ない日・啓作編
麒代が入院して1週間が経った。
俺たちはキョウゲキ部で出来る事がほとんど無くて退屈だった。
「そういえばせんぱ・・・生徒会長が義一に何か決めさせるのに1週間猶予を与えたとか聞いたけど?」
まぁ別に俺が関与する事じゃ無いんだけども。
「まぁカウンセリングは蹴るわ。あんな状態でも麒代は麒代やし」
あんな状態と言われてもその時一緒に居なかったし現場を見てるわけじゃないからなんとも言えないが義一的には吹っ切れたか。
「そうか・・・」
ただし、あんな状態がどんな状態だったとかを聞こうとするとだんまりされてしまう。
先輩は当事者に聞けと言う。だから副会長に聞くがそっちもはぐらかされてしまう。
でも、それは俺を気遣ってなのかも知れない。
あの日戻ってきたのは義一と副会長だけで麒代は病院に直行。
そして、義一の目は怯えて・・・震えていた。
それだけの状態になっていたんだ。それを配慮して先輩はカウンセリングを勧めたんだろう。
九グループのカウンセリングチームは優秀だ。
俺も一度はお世話になっている。
もっともその時は普通に環境が悪かった事による精神衛生面の崩壊が原因だったが。
「───それにワイ、麒代の見舞いも行かん」
これはちょっと正直驚く。
あれだけ行きたいだの会わなければ分からないだの行ってた癖に・・・。
「会っても多分、いつもと変わらん麒代が居るだけやから」
だから、行っても変化なんかしていないと?
「そうは言えないかもな・・・」
麒代の気配は普通じゃないのは俺もよく知っている。
どちらかと言うと上から誰かを従えるタイプの気配だ。
だけど、麒代はそういう事はしない。
だから、不思議なのと面白いのとで今までの関係を築いてきた。
結果的に俺の問題もそれで少しは改善されたわけだ。
「でも、会わないんだろ?」
俺の問いに義一は頷く。
この後、お互いに話す事も無くなってしまい黙り込んでしまった。
まだ3時限目が始まる前だと言うのに・・・。教室に居づらい。
キーンコーンカーンコーン──。移動しようと思った瞬間にチャイムが鳴る。
そのまま席から動かずに授業を受ける。
俺は優秀じゃない。親から逃げているだけの弱い人間だ。
麒代も似た者だと思っている。だけど、麒代の親はお互いに仕事で居ないだけで関係は至って良好。なら、何から逃げている?
けど、それでも普段はそういう逃げている感はしない。
ただ、見た目以上にタフで副会長の蹴りだとかを受けても最近は耐性が出来ているのか立ち直りも早かった。
それと関係しているのか?
・・・ここで考えても答えなんか出るわけないか。
俺こそ麒代に会って色々確認すべき・・・か?
会ったところで答えは教えてくれないだろう。
そう考えている間にも授業は進み3時限目が終わる。
時間なんてあっという間に過ぎる。
けれど一度立ち止まった問題は何かきっかけがあるまでは解決されるわけじゃない。
俺の問題は麒代がきっかけで解決とまでは行かなくても区切りが付いた。
なら、麒代の問題は決着がついたのか?
・・・どうしても麒代の事が頭から離れない。
考えれば考える程泥沼にハマっていく気がする。
キョウゲキ部の事も麒代が居ないと進まない。
俺はまたここに居るべき理由を探している。
麒代・・・早く帰ってきてくれ・・・。
『あー。あー。っと道東啓作君~生徒会長がお呼び出しだよー』
副会長の声でのん気に呼び出しがかかる。
急ぐわけでも無いが色々都合が良かった。
コンコン。ノックと同時に開ける。二人とも居た。
「で、用件はなんでしょうか?」
見透かされているならさっさとして欲しいそれだけだ。
が、言葉は苛立つような物言いになってしまう。
「・・・君は大丈夫か?」
生徒会長なりの気遣いと言う奴か?
それなら不要だ。
「気遣いは無用です」
「なら、本題だ。キョウゲキ部の現状は芳しくない。で、それが麒代の入院と関係していると思っている」
ズバリ、的を射てきた。
「で、俺たちは何をすれば?」
短く短く話す。先輩と言えどこの人は食えない。だからなるべく用件だけで済ませたい。
「ようは監査が入ると言う事だ。一定の成果物あるいは実績が無い場合は廃部の可能性もと言う話だ」
面倒な話だ・・・。
「一定の成果物・・・あるいは実績・・・何を出せと言うのでしょうか?」
もちろん、簡単な話はキョウゲキを実演するのが一定の成果物と言う事になる。
「実演が手っ取り早いが一人欠けていてはムリなのは分かっている」
なら、他の手・・・が思いつかないのが俺の限界だな。
「他の手としては今回の麒代のやった行為もキョウゲキとする事だ」
「?!」
つまり、怪我人の怪我の理由さえも利用しろと言うのか!?
「さすがにそう都合よくは・・・」
行かないはずだ。
逆にそう都合よく行くなら書類の偽造だとかが簡単になってしまう。
「アレのことだ。キョウゲキの意味を広くする為にカタカナで部を設立しているはずだ。その事を十分考える事」
キョウゲキの意味・・・。
確かに人によっては色々なとり方が出来る。
挟み撃ちなどのキョウゲキ。協力して撃破するなどのキョウゲキ。
楽園での麒代のキャラが使っている凶逆。
その意味はよく分からないけど、義一からその辺聞くべきか・・・?
何にしても先を読んでいるとは思えないな。
どの道、先輩は読めない。そして、麒代も読めない。
それに惹かれていると言うわけではないけど縁があるのはそういう人ばかり。俺を振り回す側の人。
「まぁ何にしても君次第だ。一度は決めるべきだ。部長らしく」
その重みが急に肩を圧そう。そう、俺はキョウゲキ部の部長。
だけど、そんな事はさっぱりしてない。
だから、誰かの背に隠れては逃げているばかり。
それじゃダメなのは知っている。
けど、それしか知らないのに今更どうしろって言うんだ・・・?
話も終わって生徒会室から出ると義一が出迎えた。
「なんの話やった?」
目を輝かせるこいつは無邪気だ。
「キョウゲキ部の存続が危ないって話だ」
「なんや、もう潰れるんか?」
まだ、そう決まったわけじゃない。
そう説明するが危機的状況に変わらない。
それを口走る義一。
「で、麒代の怪我もキョウゲキの一つとしてレポート提出すれば・・・と言う話になった」
それを聞いた途端に黙り込む義一。まぁ嫌な事のはずだ。
「書くのはええんやけど・・・それは麒代本人に聞いた方がええよ・・・」
珍しくまともだ。と言うより深刻なのか?
どちらにしても、麒代に会わない事には何も変わらないと言う状況に戻ってしまったか・・・。
「「なぁ」」
お互いにハモる。でも、それで十分伝わった。
それでお互いににやっと笑う。
多分、お互いに思っているのは今日か明日辺りにでも麒代の見舞いに行こう。
こんな感じだろう。
じゃなければハモるような事も無いしタイミングが合う事も稀だ。
「何持っていけば喜ぶんやろ?」
「とりあえず重傷であって重体じゃないから何でも食えるだろう」
「まぁ食べやすいのを持っていくのが無難やろな」
そんな事を話しながら廊下を歩く。
義一とこんなに近しい感じになったのは初めてで結構新鮮だ。
俺は今まで心を他人に預けるのが怖くて逃げていたんだろう。
だから、何処か距離を置いて生きていたんだ。
そんな事にまで気付かされた麒代には多分、一生頭が上がらないかも知れない。
でも、そんな事は気にしないでいつも通りの麒代で居てくれるだろう。
俺の親友はそんな些細なことを気にする程小さい男でも無いはずだ。
喋る事はたくさんある。だから、とりあえず麒代に会いに行こう。
キョウゲキ部は多分大丈夫だ。麒代も義一も居る。
俺だけで悩む必要は無いだろ。
「ところで昼休み何処で食べるん?」
何気ないけどそろそろその事も頭に入れておかないといけない時間だ。
「やっぱり屋上だろ」
俺が変わりつつあるのか義一が首を少し傾げる。
それでもやっぱりキョウゲキ部はいつも通り平常運転で大丈夫そうだ。




