表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/42

麒代の居ない日・義一編

ワイを庇って傷を負った麒代はしばらく入院する事になった。

全治1ヶ月らしいんやけどワイはやっぱりあの時の麒代が別人に感じていた。

(あんな麒代初めてや・・・)

机に伏して思い出すのは殺意たっぷりの麒代の目。

恐怖すら感じた。別人と思う程眼が光っていたし、何よりどす黒いオーラがあった。

「なぁ義一。麒代どうしたんだ?」

啓作がワイに事情を聞こうと話しかけてきた。

「・・・啓作は知らん方がええよ・・・。アレは麒代やない・・・」

ワイはあの眼をワイに向けられると思うとぞっとした。

啓作は何の事か分からないと言うような顔をしている。

せやけど、啓作は知らん方がええ。

あんなんは麒代とちゃう。鬼や・・・。

放送が入る。

『高上義一、生徒会室まで来るように』

生徒会長の声や。なんやろ・・・。

呼ばれてすぐに生徒会室に向かった。

トントン。

「失礼しまス」

麒代になんかあったんやろか・・・。

「とりあえず報告書は読んだ。君にはとりあえずアレの本気の眼を忘れてもらう」

あぁそんなことか・・・出来るならとっくにしとる。

「忘れたくてもこびりついて忘れられないんよ・・・」

それに、ワイを庇ってナイフ刺さったあれも忘れられるわけ無い。

「だから、忘れてもらう為にしばらく九グループ専属の催眠療法士のところに通ってもらおうかと思う」

そんなんで忘れられるんやろか?

「カウンセリングも兼ねている。報告にあった麒代の気配は人ではない。だから忘れるべきだ」

んな事言われもな・・・。ワイにとっては恐い事があったんや・・・。

昔と同じで恐い事があったんや・・・。

忘れたくても今までどおりとはいかんと思うんよ・・・。

「最後は君の決断だ。今まで通りとはいかなくても恐怖から開放されるか。恐怖を恐怖のままで過ごすか」

そんな二択はズルい。そう言われると答えは一つしかないやんか・・・。

「恐怖からは開放されたい。やけど・・・」

忘れてはいけないのもあると思うんよ・・・。

「煮え切らないですね・・・。いいでしょう。1週間猶予を与えます。それまでに決めてください」

それで話は終わり。ワイは教室に戻って考える。

(麒代のアレはワイを守る為や・・・それを忘れると言うのもなんか違うやろ・・・)

机に伏す。

麒代やったら・・・どうするんやろな・・・。

麒代に会って確認したい。確認出来たらワイも決められる気がする。

いや、それはワイの我侭やな・・・。

普通に考えれば今はまだ安静にしてなきゃならんはずや。

「随分考え込んでるな」

啓作が後ろから話しかけてきた。

「何があったかは知らない。けど、麒代ならこういう時は突き進む」

「そんなもんか?」

起き上がって啓作の方に振り返る。

こういう時、ワイなんかより少し長く一緒に居る啓作の方が麒代の事をよく知っとると分かる。

それは気持ち的には少し劣等感に近いもんになってこみ上げてくる。

「まぁ今までの行動パターンからすれば」

パターンか・・・そこまでワイは麒代の事見てないな・・・。

「でも、麒代が入院するような怪我していること事態いつもと違う」

それってワイを庇って・・・?

いや、それは口実やろな。実際、ワイが離れてから怪我が増えとったし。

あのボスとなんか因縁でもあったんやろか?

そんな素振り見せへんかったけどなぁ・・・。

「なんにせよ、麒代が居ないならキョウゲキ部は二人でやるしか・・・」

キョウゲキ部って名前作ったのは麒代や。

その麒代無しでってワイと啓作だけだとなんか進まんような気がするんやけど。

「二人やと進まんのとちゃう?」

「ぅ・・・確かに義一のキャラは無口系だったか・・・。それだと確かに話は進まない・・・。

それに続きからとするならやはり麒代が居ないと時軸がずれる・・・か」

時軸云々は分からんけど麒代が居ないと進まないのは確かな事やな。

「そんでどうするんよ?」

「・・・今日は楽園の設定無しで人間観察等・・・」

妥当と言うよりそれしか出来んわな。

「人間観察ーって言っても何処で観察するんよ?」

「・・・何処でするか・・・」

やっぱり麒代が居ないとはかどらないって言うかなんつーか・・・。

ちょっと啓作とワイの関係がぎこちない感じがして違和感しか無い。

こんなんなら、いっそキョウゲキ部はしばらく休んで・・・。

そんなんしても無駄やな。麒代が居ないってだけでこんなバラバラになってるんやし。

人間観察よりももっと啓作と仲良うせなあかんわな。

「なァ、啓作。人間観察よりワイらお互いの事もっと知った方が良かない?」

啓作は反応せぇへん・・・。悩んどるのやろか?

「いいけど・・・何処で何をするんだ?」

食いつき甘いなぁ。まぁええ。

「そやなぁ・・・。ワイは啓作の事なーんも知らん。

やから啓作がワイに知って欲しい事をしようや。そしたらワイも啓作に知って欲しい事を提供出来る」

きょとんとした顔を見せる啓作。ワイ、なんかおかしな事でも言うたかいな?

「まぁ・・・いいけど」

渋々って感じで了承する啓作。なんやろ・・・ワイとは距離でも置きたいんやろか?

「ほな、今日の放課後啓作の家行ってもええか?」

これに対して啓作は無言で頷く。

なんやあんまり分からんやっちゃな。

麒代はどうやって啓作と仲良うなったんやろ?

ワイの疑問もそうやけど、生徒会長が麒代を従わせられる理由も知りたい。

知って何をするとか分からんけど知って見方が変わるかも知れんし。

ワイの好奇心はウズウズと知りたいと言う欲求へと変わっていく。

「なぁけいさ・・・く?」

気が付いたら啓作は居なかった。

そういえばそろそろ昼飯の時間か。

購買でなんか買ってこなな。

そう思い立って購買部へ急ぐ。


「あちゃー大半のもん売り切れとる」

ワイの好物の大半が売り切れていた。

残っているのはコッペパンとフルーツ牛乳・・・それに。

なんか意味深にアルミホイルで包まれた物体・・・。

「今日は麒代ちゃんこないのかしらねぇ・・・?」

購買のおばちゃんが心配している。

「麒代はいつも何買うんでス?」

つい、気になって話しかける。

「そこのアルミホイルは麒代ちゃん専用なのよー」

それだけ顔が広いんか。それに対してワイは少し驚いた。

「ち、ちなみにあの中身ってなんよ?」

好奇心が止まらないでいる。

「そうねぇ・・・カレーパンとおにぎりかしら」

案外普通やな・・・。

一気に興味が削がれていく。

「それより麒代ちゃんどうしたのかしら・・・」

「麒代なら今入院中やで・・・」

コッペパンとフルーツ牛乳を購入しながら事実を話す。

「そう・・・そんな事あったのねぇ・・・」

少し暗い表情を見せるおばちゃん。

「でも、誰かを庇ってなら誇れるわね。庇われた人も誇っていいのよ」

誇っていい・・・か。でも、あの時の眼は怖かった。

「まぁそういうことやからしばらくは麒代は来んよ」

その一言を残してワイは購買から移動する。

守られたと言うのは誇ってもいい。

それは確かにそうやけど、あの眼だけは誇れるもんやない。

禁断の部分や。啓作にもそれを伝えていない・・・。

だから、ワイはどうしたらええんや・・・?

ワイは誇って自慢話の一つとして覚えておくべきなんか?

それとも麒代が知られたくないような部分を知ったから忘れるべきなんか?

やっぱり麒代に聞かな解決せぇへん気がする。

と言っても何処に入院したとか聞いてないな・・・。

副会長か生徒会長辺りに聞くか・・・。

そう思って来たのは屋上。

普段なら啓作と麒代が居るこの屋上。

今日は誰も居ない。

「啓作は何処で昼飯食べてるんやろ?」

バラバラになると言うのはちょっと寂しい。

まだ仲良うなってから短いと言うにワイはメンタルが弱くなって涙もろくなったかいな・・・。

頬を涙が伝う。

それを拭っては悩み、悩んでいるうちに短いながらも出来た楽しい思い出で泣く。

麒代・・・あの時のあの眼はなんや?

髪の毛逆立てる程の狂気を出してたあれはなんや?

オマエに聞きたい事は山ほどあるんよ・・・。

だから、早よう帰ってこいや・・・。

屋上の柵から空を見上げる。

虚しいくらいに雀の鳴き声が響いてる。

ガタッ。後ろの方で音がした。

「誰や?!」

振り向くと副会長が居た。

「あーごめんごめん。ぎーちゃん感傷に浸ってる感じだったから邪魔悪いかなーって思ったんだけど・・・失敗失敗」

笑ってる副会長はどちらかと言うとムリしてる感じにワイは受け取った。

「副会長さん、ムリはせんでええよ・・・お互いあんな麒代見るのは初めてやったんやし・・・」

気遣ってると言うよりはあんなもの見せられて気丈に振舞う事自体が難しいはずや。

でも、副会長はワイよりは平気な顔しとる・・・。

「なんでや?!!!」

いきなり声をあげてしまった。

「なんで、麒代のあんな姿見てそんなに平気で居られるんよ!!?」

なんかがぷつっと切れた気がした。

「なんで───・・・なんでや・・・」

そのまま崩れ落ちる。

「まぁトクマキーが力抑えてるのは知ってたからね。武道やる者の心って奴?

で、ワケアリで力抑えてるのくらい抵抗の弱さから知ってたよ。

ただ、あんな風になるのにはちょっと驚いたかな・・・。

だからってトクマキーはトクマキー。ひふみんの次に大事なトクマキーだもん。

簡単に好きだの嫌いだので振り回されたくないかな」

風を受けて髪がなびく副会長は何処か悟っている感じがした。

ワイにとってはまだスッキリはしない事やけどそれでも麒代は麒代と言う言葉でまだ希望が持てる気がした。

「あ、この事は他の皆には内緒ね。言ったら伸すから」

最後に笑顔で物凄い恐怖を与えていく辺り副会長らしい励ましなんやろか・・・。

そんな事を思いながらもカウンセリングを受けるかどうか悩み続けた。

そして、昼休みが終わる。

「期限は1週間か・・・。それまでにカウンセリング受けるか決めななあかんな」

そう独り言を空に向かって言うと教室へと戻った。

多分、答えは出ているんやろうけど、しばらく悩むのもアリやな・・・。と。

ワイがこれから麒代とどう向き合うかそれを考える1週間。それが答えやろう・・・。


その頃の麒代はと言うと───。

「ッテーなオイ」

「そんな事言ったってしょうがないじゃろ。この傷は自分で受けた傷じゃ。そうそう簡単に痛みが取れるはずなかろうに」

左前腕部7針、左手の平5針、左手の甲5針を縫った傷みに耐えていた。

「これじゃ飯もろくに食えねぇよ」

「そう言われてものぅ・・・」

左腕はしばらく完全には使えないと言う事で更にイライラしているのかよく騒いでいた。

「まぁそんなに元気があれば時期に良くなるから心配しなくてもええんじゃがな」

そんな感じで医者と揉めては痛みに悶えると言う感じを繰り返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ