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凶逆

キョウゲキ部としての活動を始めて3日。

まだぎこちなく進んでいる。

それこそ、本当に出会った最初の頃のように。

今日のキョウゲキ部の活動としては屋上でのなりきりだ。

「───だからそこは違うよ」

オレ自身、キャラが安定しているとは言えない。

が、義一や啓作程安定してないわけじゃない。

「そうは言っても・・・これしかないじゃない」

うん・・・啓作が女キャラを作ったのはいいけど完全に中身が男だから演じ切れてない。

義一はと言うと喋る事が少なくて睨み付けてくる事が多い。

どうも義一のキャラはヤクザとかそういう怖い系の人らしい。

「あーダメだ。これ以上演じるのはムリ」

義一の睨みが意外と迫力があるのもそうだがどうもやりづらい。

「まぁそれもそうか・・・。気の知れた仲だったりすると意識して変える方がムリだな」

正論を言うのは構わないが・・・これだと存亡の危機って奴は案外早く到来するだろ・・・。

「ん~役を色濃くするのに経験が必要かもなー」

義一の突発的な発言は毎回だが大体的を得ているだけに侮れない。

「経験か・・・オレの場合は・・・アレか────」

過去の後悔が今のオレを作っているなら過去に向き合う事か・・・。

コウマユウキと言うのは実在はしない。が、それの元になっている人物は居る。

真功(まこう) (ゆう)。オレのかつての親友であり、オレの後悔の象徴。

オレが助けられなかった親友────。

それがコウマユウキと言うキャラの下地。

そして、今現在も抱えているオレの闇。

少し暗い気分になってきた。それだけ悠の存在はでかかった。

「トークーマーキーーーー」

後ろから首にかけて鈍い痛みが走る。

そして、そのまま前に押し倒される。

「あれ? いつものトクマキーじゃないねー。どしたの?」

そう、このじゃれると言う行為を超えた伸す行為をするのは副会長ただ一人。

「・・・別に」

何も無いわけじゃない。けど、強がってしまう。

「そう? あーそうそう。ぎーちゃんとトクマキーは呼び出しだよー」

生徒会長がお呼びか・・・。オレは分かるが義一はなんでだ?

そんな疑問はさておき、オレは副会長に伸されてそのまま首根っこ掴まれて引きずられる。

その後を義一が付いてくる。

今は抵抗する気すら起きない・・・。だからずるずると引きずられてもそのままでいる。


「最近、この辺りで不良グループの目撃が多数確認されています。

それで、こちらも対抗する為に強い人間をと言う話です。

麒代、オマエは強制で時雨と組んで我が高校の生徒を守るように。

義一君、君は別件で呼び出した。

部活との兼業で構わないが生徒会の一員にならないか?

席としては現在病弱であまり来れて居ない書記の補佐と言う形になるが───」

生徒会長の命令・・・久々だ。

不良グループ・・・オレにとっては因果だな。

そして、もしかしたら────。

「───生徒会長さん悪いんやけどワイはあんまり興味ないんよ? その辺」

義一の言葉でハッとする。

「生徒会長・・・なんで今更義一を書記補佐にしようとするんだ?」

疑念は色々、疑惑も色々。聞きたい事と聞きたくない事がいっぱいだ。

「少なくとも啓作君よりは融通が利きそうなのでね」

・・・? 前から啓作にアプローチでもしてたのか?

あんまりそういうのを見てない・・・いや、オレが見てない間にそういう事があったのか・・・。

(オレは助けられない人ばかりを親友にするな・・・)

「まぁ啓作君はどうせ従わないでしょうから義一君に切り替えたと言うだけです。

とは言っても基本的には自由は保障しますよ。

基本業務は僕と時雨だけで間に合っているますから。

義一君にはどちらかと言うと実力行使する際のお手伝いの方が主になるでしょう」

つまりは義一もこの不良グループの件に関わらせると言う事か。

・・・出来れば義一には関わってほしくないな。

「不良グループの件だけやったら協力するんやけど・・・書記補佐の件は無しって言うのが条件やね」

「義一?!」

正義感が強いとかそういう感じなら来て欲しくない。

副会長は仕方ないにしても、義一には見られたくない姿があるから。

「・・・しょうがないです。では、それで手を打ちましょう」

これで義一も不良グループの件に関わる事になってしまった。

「では、放課後に向かってください。時雨、場所は分かってますよね?」

「うん、大丈夫だよー」

生徒会に義一が入るとか言うのは避けられた。

が、不良グループの件は義一も来る。

「また、守れないかも知れないな・・・」

「ん、なんや?」

詳しい内容は聞かれなかったが心で言ったつもりが口から出ていたらしい。


───放課後。

オレと義一は副会長に連れられて廃工場に居た。

「ここか?」

「うん、最近隣町辺りから来た不良グループがここに溜まっている。だからね、ボク達で掃除するの」

排除しろか。話し合いや賄賂だとかが通じなかったんだろう。

それで実力行使・・・? いや、最初から───。

そんな事より居るかも知れない。

廃工場の敷地内を進んでいくと不良共が顔を出し始めた。

パイプに金属バット・・・定番と言えば定番の武器を持っている。

まずはこいつらから片付けないとボスだとかは出てこないだろう。

「んじゃ始めよっか」

指をポキポキと鳴らす副会長。伸すだけじゃすまないかも知れないな・・・。

「おいおい、ここはテメェらの来るような場所じゃねぇぞ。帰りやがれ!!」

オレは違和感を覚えた。

もっとすぐに襲ってくると思ったが一人前に威嚇で警告か。

これなら、話し合いで・・・

「トォー」

ぇ・・・?

目の前を副会長が走り一人伸す。

「テメェ!!」

副会長の一発を合図に不良共が襲ってくる。

オレや義一は攻撃を避けてながら一人一人一発でKOしていく。

「な、なんでいきなり・・・」

オレは乱戦の中で副会長と背中合わせになった瞬間に聞く。

「ん~、威嚇は前にもあったからね。交渉しようとしたけどダメだったから今回実力行使って事だよッ!」

副会長は更に一人伸していく。

交渉に失敗した。だから実力行使・・・。

それってコイツら下っ端だからじゃないのか?

なら・・・ボスを探せばッ!! 直感的にオレは動いていた。

ボスは大概何処かで見ているか聞いてるもの。ならこの付近には居るはずだ。

乱戦になってる場所から少し移動すると急に寂れて静かになった。

だけど、乱戦の音は聞こえる。そして、ここには人の気配がする・・・。

「おーい麒代ー」

義一が警戒もせずにやってきた。

「バカッ・・・!!」

キラッ。何かが光った。

オレは義一の前に立って左腕で防御の構えを取る。

グサッ。

「くっ・・・」

光ったのはナイフで・・・投げられたナイフは見事にオレの左腕に刺さった。

血が手を伝い地面に垂れる。抜けば出血が酷くなりそうだ・・・。

「き、麒代・・・?!」

義一もさすがに慌ててテンパってる。

「さすがは麒代だ」

奥の暗がりからオレを知っていると言う声がする。

・・・オレも多分知っている。

「いい加減こういう呪縛から解き放たれたいもんだ」

オレが挑発すると歩く音がしだした。

一歩ずつ確実に近づいてくる。

「久しぶりの対面だってのに悲しいねぇ、麒代」

ボス・・・だろうやっぱり。

「真功・・・悠・・・。オレの後悔の象徴が今更なんのようでこの辺うろついてるんだ?」

かつての親友と呼ぶには姿があまりにも変わっていた。

そして、そうさせたのはやはりオレで・・・。

「言ってくれるねぇ・・・。俺は別にオマエにようがあってきたんじゃねーよ。

最近ウチのシマ荒らす奴らがこっちに居るって聞いてな。それでわざわざ出向いてやってるわけよ」

やはり、言葉も昔とは随分変わったな。

そうは思っても言葉にはしない。

「そうか・・・」

シマ荒らしてるのは多分少数のチンピラだろ。

それでキレてこっちまで出向く方も出向く方だ。

生徒会長はボスが誰か知っててオレを強制したんだろう。

じゃなければこんな偶然あってたまるか!!

「・・・腹括るか」

「ぇ? なんや?」

オレは短く小声で覚悟を決めた。

「オレの後悔は消えねぇけど今の現状を止める事は出来る。覚悟しろ悠!!」

「ハッ。俺を救えなかった後悔か。くだらねぇ・・・。止められるなら止めてみやがれ!!」

お互いに構えた。

さすがに義一の前だと少し本気が出せない。

「義一・・・悪いけどちょっと副会長の方に行っててくれないか」

「隙ありだッバーカ」

ナイフを取り出して斬り付けてくる悠。

オレはかわす。が、義一に気を取られてかすった。

頬が切れて血が流れる。

「義一腰なんか抜かしてるなッ!! 早く行けッ!!」

じゃないとオレは本気なんか出せるわけないだろ。

今の友達だとか親友だとかには見せたくない姿なんだから。

オレの怒声が効いたのか義一が腰を抜かしつつも副会長の方に向かった。

「・・・これで本気で殺れる」

「ハッ? 何言ってんだ。オマエはここでやられるんだろ?」

少し下を向いてから今は必要なくて封印した昔の暴力的な力を呼び出す。

「な、なんだその目つきは」

そりゃそうだ。悠にだってこの姿は見せた事は無い。

他人を殺す程の力の暴力に明け暮れていた頃の目なんて。

「そ、その目で俺を見るんじゃねぇぇぇぇええ」

悠のナイフがオレをめがけてくる。ナイフが既に刺さってる左腕を無理やりに動かして左手にわざと刺させた。

手の甲すら貫通している。別に構わない。

今までは本気でやれば誰もオレには傷すらつけられなかったんだから。

これくらいは別に平気だ。

「救えなかったがせめて一発で眠れッ!!」

ナイフを貫通させた事で攻撃が止まった瞬間に右ストレートを腹にお見舞いする。

鳩尾の方まで抉り上げるようにストレートを力強く入れていく。

「ぐぇっぅ」

悠の悲痛な声が・・・いや関係ない。

昔に救えていれば良かったんだから。

救えなかったせめてもの罪滅ぼしに全力で落す。

そして、そのまま殴り飛ばした。よく、オレが副会長にキックで飛ばされるくらいは飛んでいる。

飛んでいった悠は地面に打たれてそのまま起き上がらない。

「っテ・・・しばらく使いもんにならねぇな・・・」

今更だが反動で左腕が痛む。

そんな事を一人で言ってると後ろの方から声が聞こえてきた。

「────」

副会長や義一、それを追ってくる不良共。

そして、ここにたどり着いた時来た奴らは驚いていた。

「ボス!!」

「トクマキー?!」

「麒代!!」

その声に振り返ると誰もが少し後ずさりした。

「あぁ・・・悠なら一発で落した・・・。次に来る奴はあれ以上に酷いかもな?」

その一言を聞いて不良共は逃げ出す。

義一はオレの目を見て蛇に睨まれた蛙のように動けないでいる。

副会長はオレの目を見てもビビらない。多分、今のオレの目はまだ殺意のある目だ。

「悪い・・・しばらく、オレを見ないでくれ・・・」

本気の・・・殺意のある目はしばらく治まらない。

「それよりもトクマキー怪我したんだね?」

あぁ・・・副会長はオレが隠そうとした左腕に気付いていたか。

仕方なく左腕を真っ直ぐ横に伸ばす。

ナイフ2本が前腕と掌に刺さっていてそこから血が滴り落ちている。

「これ・・・抜かない方がいいね。それとトクマキーしばらく入院になるね」

だろうな。オレ自身もその辺は把握している。

「んじゃ、とりあえずぎーちゃんは救急車の手配お願いね」

あまり義一にこの姿を見せたくないオレの心情を悟ったってわけじゃないが副会長は義一を外す。

義一が電話をかける為に少し離れたのを見て副会長が近づいてきた。

「バカだね」

ただ、その一言を言って倒れている悠をひょいと担ぎ上げた。

「コレはボクが預かるからね」

そうだな・・・オレが救えなかった奴なんだ。何も言う事は出来ない。

オレが頷くと副会長は悠を連れて何処かへ行ってしまった。

義一の電話が終わったようでオレに近づいてくる。

「あれ? 副会長はどないしたん?」

義一の目は泳いでる。それでも、直視出来なくてもオレが心配って事は伝わった。

「ん、ボスを連行していった」

「そっか・・・」

義一との会話が続かない・・・。

と言うより何も聞かないてくれた。


しばらくして救急車が来た。

生徒会長が根回ししてるのか事情はあまり聞かれなかった。

この日の事は事件化される事なく闇に葬られる。

オレの中学時代の親友、真功 悠は家庭環境が凶の付く程悪い場所で育ち、オレはそれを救えなかった。

それで悪い道へ行くのを止めた時に逆恨みをされて絶交となり、今の今まで引きずっていた。

オレ自身も当時不良と言う意味で悪い人間だったから止めても無駄だった。

せめて、それを一発で片付けられたとは思わないけれど悪い縁は断ち切れたと思う・・・。

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