タイムアップ
仙台七夕祭り前夜祭の花火は楽しかった。
そんな楽しい時間なんてあっと言う間。
「だぁーーーーー宿題終んねぇーーーーー」
日帰りで帰ったはいいがその日は寝てしまい・・・。
そして、まただらけた生活をしている内に夏休みも今日で最後だ。
レポートはなんとか終わったが宿題と言う宿題はほとんど終っていない。
「はぁ・・・啓作や義一は終わってるんだか・・・」
気にしたってしょうがない。だけど、こういう時程気になる。
それに部活で合宿行ってた面々も戻ってきて追い込みしている人はオレだけじゃない。
「とは言ってもな・・・」
集中力が持たない。正直一人でやってるのも退屈でツライ。
どうすればいいか・・・。
なんて思っている間に身体は勝手に電話を取って義一に電話している。
「あ、義一? 義一は宿題終ったか?」
『そんなもん終ってるよ。色んな合間にちゃんとやっていたからなー。もしかして麒代まだ終っとらんのか?』
あのチャランポランで軽い感じの義一ですら終っているとか・・・。絶望感満載だ。
「あ、あぁ・・・まだ終ってない」
「そか。んじゃまぁ頑張れなー。ワイはこれから出かけるんよ~──」
そう言って少しだけ内容聞かされて・・・うんざりするような感じになった。
電話を切ると今度は啓作にも電話をかける。
「あー啓作?」
『・・・宿題終わってないんだろ?』
うわ・・・思いっきりバレてる。
『生徒会長も副会長も把握してるから気をつけろ。多分──』
ピンポーン。電話の途中でインターホンが鳴る。
「はーい。啓作悪い」
そう言って電話を切って玄関に向かう。
誰かと言う事を確認せずに開けたのが運の尽き。
「トークーマーキーーーーーーー」
いきなり誰か・・・と言うより副会長のドロップキックがオレの目の前に。
受身不能で伸された。しかも、自宅で。
いや、普通に危ない行為なんだが・・・。しかも副会長またパンチラと言うのもなんと言うか・・・。
「オマエにはみっちり勉強してもらいます」
伸されて気を失わないだけ耐性が付いているんだろうけど、その後ろに居る生徒会長の一言がグサリとオレを抉る。
勉強って・・・押しかけ勉強指導ですか?!
これはさすがに迷惑・・・とも言ってられないのが現実か。宿題終わってないわけだし。
でも、この二人が手伝うって事はさすがにしないだろう。
「で・・・勉強って何ですかねぇ・・・?」
従順なフリをして様子を伺う。
「とりあえず宿題のヒントにはなるでしょう。が、宿題はあくまで自分で終わらせるように」
いや、ありがたいんだけども・・・正直宿題手伝ってくれる方が今のオレには嬉しい・・・。
そうしないのがこの二人なんだけども。
生徒会と言えば学校の手本とも言える存在。
つまり、ここで宿題を手伝えばそういうイメージが付く。
・・・いや、副会長の時点で生徒会のイメージが御堅いって感じはしないんだけど。
「とにかく邪魔するよー」
そう言ってドタドタと入っていく副会長。
さり気無くと言うかわざと伸されてからまだ起き上がっていないオレを踏んでいく辺りふざけ過ぎだろ・・・。
「そういう事だ。とりあえず起きろ」
生徒会長が手を伸ばしてくる。珍しい。と思って手を伸ばしたら首に電流が───。
もしかして、手が近づくと電流流れるようなスイッチでも?!
この人めんどくさい・・・。
とりあえず起きあがって、中で騒いでいる副会長を止めにかかる。
マルも騒いでたりするから面倒だ。
「マル、静かにしろッ。で副会長もいい加減静かにしてください」
「えーいいじゃーん。トクマキーの家に入るの初めてなんだし」
そういう理由があっても騒いでいいはずが無いだろ。
常識が無いと言うか何も考えてないと言うのか・・・。
で、片隅で生徒会長はなんか飲んでるし。
水筒持参? それは別にいいんだけど・・・ぇ、何食べてるんですか・・・?!
よく見るとオレのお菓子だとか食べている。
これはもう荒らしに来たと言うか・・・。
へこむ。なんて言うかへこむ。こう家がこの二人に侵されるって感じに。
「時雨、いい加減静かに」
生徒会長、あんたも食うの止めてくれ。
「むぅーー。仕方ないね。トクマキー勉強しよ」
やっと勉強に入るのか・・・。
これだけでもかなり疲労した。正直、後の体力が心配だ。
で、部屋は狭いし荒らされたくないのでリビングで勉強する事にした。
とは言ってももう既に結構荒らされているんだが。
やっと勉強が始まって・・・しばらくして急に外の空気が吸いたくなった。
息苦しいと言うか威圧で苦しい。
「何処に行くんです?」
黙って立つと生徒会長に呼び止められた。
「えっと外の空気を吸いに・・・」
「逃げたりしてね」
副会長余計な事を───。
その余計な一言が元で首にピリっと電流が走る。
「ちょ、逃げないって。だから、いきなり電流は・・・ギャー」
ピリっと来る程度だった電流がいきなり上がって悲鳴が上がる。
黒焦げって程では無いが少し煙が出ている感じになった。
「逃げようとすればこうです」
「いや、だから逃げようなんて・・・」
これはもはや動くなって事か!? さすがに、キツイ・・・。
体育会系の人間だからこういう事になるんだろうか?
いや、多分それ以外の要因もあるだろう。
にしても空気を吸いに行く事すら出来ないのか・・・。
監視の目は厳しいな・・・。
現状立っているだけで電流が流れそうな雰囲気だ。
これは座るしか無い・・・よな。
ひとまず座る。何処にスイッチを隠し持ってるか分からない。
と言うよりどのタイミングで何をされるかが分からない。
こうなるとさっさと終わらせて・・・帰ってもらう方がいいか。
決意と言う程でも無いが面倒事が起きる前に帰ってもらう。その為にひたすら頑張った。
現在15時18分。なんだかんだ2時間が経過している。
「生徒会長達は・・・宿題とかやらなくて───」
「とっくに終わってるよ?」
聞いても無駄か。そりゃ終わってるよな。オレだけ・・・か。
こうなるとなんかどうでもよくなってくる。
そうは思ってもこの二人の監視がある限りはオレは従順な犬であらねばならないだろう。
・・・屈辱的で首に流れた電流の痛みよりもっと痛い場所がある気がした。
そういう気持ちだとかも含めて更に時間は過ぎて行く。
(いつになったら帰るんだろうか・・・)
勉強が始まって4時間、既に17時を回っている。
オレはトイレ以外の一切の行動を制限されている。
自宅に居ながら監禁されている気分だ。
結局、19時まで生徒会長達は居た。
「とりあえず勉強はここまで。後は自分で何とかするように」
生徒会長の言う事は分かる。
けど、だからってこんな時間まで居なくても良かったと思うんだが。
それに勉強って言ってなんだかんだ結局宿題は出来なかった。
確かに復習兼ねての勉強だった。けど、宿題が終わってない状況下では完全に邪魔しに来たとしか思えない。
今から徹夜覚悟か・・・。しんどい。
そんな事を考えつつも夕飯を食べて宿題に取り掛かる。
数学に物理に英語・・・どれもこれも面倒。
もっと早くに・・・なんて余裕を持った行動なんて出来やしない。
睡眠時間削るしかもがいて足掻く方法なんて無い。
とりあえずさっさと進めていく。
さすがにさっきまで勉強していたから解き方だとかはなんとなく分かる。
でも、疲れているのか眠くなってきた。
「やべ・・・眠い。このまま寝たらどんなに楽だろう・・・」
まぁ寝たら最後。朝まで起きないだろう。
そうは思ってても身体は正直だ。
どんどん身体は重くなって眠気で思考が鈍っていく。
(あぁ・・・オレって案外意思が弱いな・・・)
そう思ってそのまま眠気に身体を預ける。
チュンチュン───。
スズメでも鳴いてるんだろうか・・・?
・・・ん、朝?
目が覚めてばっと起き上がる。
周りは朝、時計を確認すると始業式が迫っていた。
「やばっ?!」
慌てて制服に着替えて家を出る。
「これ、遅刻したらマズイだろッ」
もはや、何も考えられなかった。
走ってて急に思いだす。
「あ、鍵・・・」
急いで戻って鍵をかける。
他にも何か忘れてる気がするけどもう、それどころじゃない。
「これで遅刻なんかしたら笑い者って程度じゃすまないだろ!!」
走って信号も若干無視して急ぐ。
工事だとかもしている。ってかなんで今日に限って・・・。
とにかく時間を食ってる。通学路には生徒の姿なんて見えない。
つまりはもう遅刻同然だ。それでも急がないと色々マズイ。
「だぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ、どけぇぇぇぇっ!!!」
猫が横切ろうとしているのが邪魔で思わず声をあげる。
「オレの邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ」
猛ダッシュで坂も駆ける。
学校が見えた・・・。しかし、マイクの音が少し聞こえる。
既に始業式は始まっている。
「あぁ・・・終わった・・・」
急に気が抜ける。足も走ってる状態から急に歩きに変わる。
時間切れ、タイムアップだ。
これで急いだところでもう結果は変わらない。
歩いて登校する。
もちろん、その後にすごく怒られる事に。
オレの精神はガリガリと削られ、オマケに宿題も忘れる始末。
色々な意味で最悪だ。




